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さよならラ・ピュセル

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 白い服を着た小さな影が踊っている。

 首のない貴婦人、角の生えた馬、ずんぐりとした緑色の小人たち――異形のもの達に混ざり囲まれ、輪になって、小さな影はくるくるとまわる。
 短く切った髪からのぞく襟足、ひらひら舞う長い上着から伸びる肉付きの薄い手足は透き通るほどに白い。――いや。実際に、光の加減でちらちらと、その姿は透けているのだった。

「おめんとこの娘か」
 すぐ後ろでボソリと呟く声に、イギリスは一瞬ぎょっと背中をこわばらせる。
 振り向いて、そこにみとめた男の姿に彼は小さく息を吐いた。自分と同じく、人ならぬものを視ることの出来る数少ない国家――北欧の男は、相変わらず表情の読めない顔で、窓の外のあやかしの一団に目を向けている。
「正確に言えば、“ウチの”では、ねえけどな――『女』に、見えるか?」
 問うた声に宿る皮肉な響きに気付いたか、男が透明度の高い瞳をこちらにむける。
「娘っこだべ」
「ふん」
 イギリスは鼻をならす。
 彼女が生きていたはるか大昔。男装が罪とされたあの時代、短い断髪に鎧を纏う彼女は少年にしか見えなかった。まだ女の匂いの乏しいまま、死んだ隣国の娘。
 イギリスは目を細めたまま唇を歪め、小さく吐き捨てた。

「俺が殺した女だ」


作品名:さよならラ・ピュセル 作家名:しおぷ