ハニーマスタード&パンプキン
「それができるようならもっと自炊しているさ。だいたい、カボチャを茹でる……いや、切るところからして微妙だぞ」
「威張って言うなよ」
思わずエドワードは吹き出して笑った。
「大佐ってほんとに料理できないんだな。これって、このソースさえあれば、カボチャは薄切りにして揚げる……のは手間か――んーと、フライパンで焼いたのに乗せるだけでもよさそう。作り置きしといて、他の野菜とか、肉に付けたりしても合うんじゃね?」
「鋼のは料理ができるのだな……」
思いついたままに言ってみただけなのだが、ロイはいたく感心したようだった。
「こんなん、料理のうちに入らないぜ」
「作り置きか……よければうちでしてくれてもいいのだが……」
エドワードの耳は独り言のようなロイの呟きを拾った。
「あ? あーそうだな。大佐んちに行ってもいいんなら作ってやってもいいぜ」
「いいのかい⁈」
「おっ、おう、別に構わねーけど……? 言っとくけど、特に上手いわけでもないぜ? そんなに自分で作る機会もないしな」
「問題ないとも。そうだ、お礼はうちの蔵書というのはどうだ? 君の興味に合うものがあるかはわからないがね」
「えっ、いいの⁈ それ、なんかすげーオレにお得じゃね?」
「そんなことはないとも。なんなら泊まってくれても……」
「え、まじ? そんなにじっくり読ませてもらっていいのか? ラッキー! じゃあ、張り切ってなんか上手いもん作るな!」
「泊りでもいいのか……なんと……。では、さっそく今晩どうだね⁈」
「んー、特に予定ないからオレは構わないけど」
「私も今日は立て込んでいないんだ! 仕事は定時に終わらせるから……!」
「いいぜ。あ、このサラダ、パンに挟んでも美味いかも」
「帰りに評判のベーカリーへ寄ろう。もちろん、肉屋にも」
☩☩☩
「あれ、中尉。どうしたんですか?」
執務室へロイのパイとコーヒーを持っていったホークアイが、何故かそれらをトレイに乗せたままで戻ってきた。なんだか砂を噛んだような表情に見えるのは気のせいだろうか。
「いえ……二人で込み入った話をしているみたいだから、もう少し後にしようかと思って」
「そうですか。なら今日は時間かかるのかなあ」
アルフォンスはかしょんと首を傾げる。ホークアイは気を取り直したようにアルフォンスを見ると微笑んで言った。
「そういえば、食堂で使ったカボチャの中身をくり抜いた外側の部分が沢山あるのよ。時期も時期だから、ハロウィン用にランタンにしてはどうかと思っているのだけど」
「あ、いいですね! どこかに飾ったりするんですか?」
「ボランティアで児童施設などへ贈り物にする予定なの。でも仕事の合間に皆で作っているから、なかなか捗らなくて」
「わあ、大変だ。じゃあ、僕もお手伝いしていいですか?」
「とっても助かるわ」
ホークアイはにっこり笑うと、一緒に食堂まで取りに行きましょうかとアルフォンスを連れて出て行ってしまった。
他のメンバーがホークアイの表情と行動の訳を知るのは、その日の定時の鐘がなった時だった。
☩☩☩
ちなみに東方司令部の食堂では、しばらくの間『カボチャのハニーマスタード和え』があらゆるメニューの付け合わせとして出され、大変好評だったそうな。
作品名:ハニーマスタード&パンプキン 作家名:はろ☆どき