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BLUE MOON 後編

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BLUE MOON 後編


◇◇◇集うモノたち◇◇◇

「……で?」
 士郎が眉間にシワを刻みながら、仏頂面で訊く。
「召喚したのよ」
 凛は悪びれもせずに答える。
 ああ、そうだろう。
 そうだろうとも。
 でなければ、守護者というものであるエミヤシロウがここにいるはずがない。
「はぁ……」
 ため息が……禁じ得ない……。
 我々が到達した目的の場所“羅城門”には、すでに陰陽師が陣を敷き、対策本部なるものもできていた。
 そこに魔術協会から派遣された凛も参加しており、加えて凛の娘がいる。
 士郎の娘とは言わない、いや、言いたくない。くだらない嫉妬だと言いたい奴は言えばいい。今、士郎とともに在るのはオレだ!
 胸中で宣言しつつ、気を取り直して、そこに集う面々を見渡す。
 確か、まだ高校生あたりだったと思うが、なぜか、ひなたがいて、その上に、凛に召喚されたという守護者、英霊エミヤたちがいる。
「凛、一つ訊きたい」
「なあに? アーチャー」
「守護者が召喚に応じるのはわかる。が……、その付随品は、どういう……」
 困惑して凛に訊けば、
「一緒に座にいるんですって。お留守番らしいわよ」
「おるす……」
「……ばん…………」
 士郎がオレの後を引き取る。
 一つの座に英霊が二人?
 いや、英霊と呼べるのかどうかもわからないが……。
 しかし、そんなことができるのか?
 いったいどういう仕組みだ?
 疑問が尽きず、軽く額を押さえてしまう。
 いったいなんなのか、この状況は……。
 なぜ、この不可思議な現状を、凛もひなたも受け入れているのか。加えて陰陽師の奴らなど、あからさまに、我関せず、だ。
 おかしいだろう、とつっこむ奴はいないのか?
「けど、なんにせよ、味方だろ? よろしくな」
 士郎は考えることをやめたのか、それとも、もう諦めたのか、あちらの衛宮士郎に握手なんぞを求めている。
 頭痛は起こらないのか?
 同じ顔だぞ?
 ああ、いや、こいつはそういう奴だ。神々に振り回されていても、へらへらしているのだから……。
「こっちこそ、よろしく、お願い、します」
 おずおずとそれに答えたあちらの衛宮士郎も諦めが早い。
(ん?)
 そいつが、やけに色白なことに気づいた。
 英霊であったというだけあって、オレの士郎とは、どこか雰囲気が違う。青藍の衣服と銀の鎧はセイバーを思い出させるが……。
「おい、貴様」
「む」
 同じ顔をした奴に、不機嫌に声をかけられるのは、どうにも腹立たしい。
「なんだ」
「ジロジロ見るな」
 あちらの衛宮士郎を庇うようにして、オレがオレを警戒している……。
(なんだ……これは……)
 苛立ちとか、そういうものもあるが……、この、腑に落ちない感じはなんだ……。
「見ていない」
 とりあえず、誤解を解いておく。
「見ていただろう? 矯めつ眇めつ、私のシロウにおかしな視線を向けられては困る」
「……………………っ、士郎……、帰りたい、のだが……」
 片手で目元を押さえ、どうにか自身を落ち着けようと努力してみる。
「アーチャー……、気持ちはわからなくもないけど、陸を助け出してからな」
 ぽん、とオレの肩に手を置き、士郎もため息をつく。
 おそらく、気分的には同じだろう。互いに視線を交わし、夜空を見上げた。
「月がきれーだな……」
「ああ。磐座のものと変わらないな……」
 現実逃避も甚だしいが、わかってくれ、この、いたたまれなさ……。
「おい! 貴様ら! その、諦めた感じで遠くを見るのをやめろ!」
「アーチャー、仲良くしようって!」
 あちらの衛宮士郎に宥められている。
 どんだけだ、オレ……。
 ますます項垂れそうになるオレに、
「うんうん……、磐座に帰ったら、慰めてやっからな」
「よろしく頼む」
 精神的ダメージが半端ではないオレに、士郎は優しく言った……。


 同じ存在がそれぞれ二つ。
 いや、元を正せば、四つということになるのか?
 とにかく、ツインズ×2のような有り様が、面倒でないわけがない。
「アーチャー、あそこの――」
「なんだ、お前か」
 士郎の声に振り返ったあちらのオレは、深いシワを眉間に刻んで士郎にため息をつく。
 まずいな……、こういう態度は、まあまあ士郎の癇に障るのだが……。
「なんだ、ってなんだよ?」
 ああ、やはり士郎のスイッチが入ってしまった……。
「その名で呼ぶな」
「俺の声に振り向くな」
「なに?」
「俺の声と自分のシロウの声との差もわからないって、どの程度の関係なんですかねー、おたくらは」
 煽っている……。
 まあ、士郎は神々にも啖呵を切るくらいだ、霊長の守護者など屁でもない。
 だが、あちらの衛宮士郎は確実にダメージを被っているようだ。青くなっている。オレの士郎よりも、ずっと純粋で繊細そうだからな……。
「貴っ様! 即刻、斬り捨ててやる!」
 あちらのオレがキレた。我慢がならないようだ。まあ、仕方がないか、オレも士郎が意気消沈するようなことを言われればキレる。
「あ、アーチャー、いいってば、平気だから、」
「お前を傷つける者を、私が放置するわけがないだろう」
「へえ? できるもんならやってみろ! たかだか守護者のクセに、俺をどうこうできるってんならな!」
 士郎……、それは、オレにも喧嘩を売っていると思うのだが……?
「いいだろう! すぐに串刺しにして――」
「アーチャー! ダメだって!」
 あちらの衛宮士郎が頑強に止めに入ったことで向こうは少しおさまった。
 士郎に弱いのは、あちらのオレも同じのようだ。こちらもそろそろ止めておくか。
「士郎、もう、そのくらいにしておけ」
「だってさあ……」
 こっちはこっちでむくれている。まったく、ガキか……。
「今はそんなことを言い合っている場合ではないだろう」
「うー、そうだけどさあ……」
 ムカつくんだ、とやはり子供のように不貞腐れる。
「一つ言っとくけどな、俺がアーチャーって呼ぶのは、俺のアーチャーだけだ! 覚えとけ守護者!」
「士郎……」
 やめろと言っているというのに、こいつは……。
「この……っ、貴様も勘違いするなよ! 私がシロウと呼ぶのも、私のシロウだけだ!」
 ああ、もうやめてくれ、このやり取り。
 だんだんとオレも苛立ってくる。
「金輪際、俺の声に振り返るなよ! いいな!」
「貴様もそいつをきっちり戒めておけ! 私のシロウをおかしな目で見させるな!」
 言うに事欠いて、なぜオレは、同じ顔貌のものに、そんなことを言われなければならないのか。とばっちりもいいところだ。
「黙って聞いていれば……。オレが士郎と呼ぶのも見つめるのも、オレの士郎だけだ、たわけがっ!」
「アーチャー!」
 がしり、とオレの首を引き寄せた士郎が頭を荒く撫でる。
「やめろ……」
「なぁんだよー、いいだろー」
 士郎はご機嫌でオレの頭をかいぐりかいぐり……。
 うれしさの表現が、何か違う気がする……。
「やめんか!」
 士郎の手から逃れれば、首に腕を回してくる。間近の琥珀色の瞳が、月光の下で美しく輝く。
「士郎、こちらでは――」
「うん。わかってる」
 わかっていてこの近さは、互いに辛いだろうが……。
作品名:BLUE MOON 後編 作家名:さやけ