第二部5 (78)憎悪
「30オンナが年甲斐もなく10も年下の男にのぼせ上ってみっともない。…最近妙にめかしこんでいて…馬鹿みたい!」
食堂で姉に向かって言葉のナイフを突きつけた。
アネロッテの放った言葉に食堂内が一瞬凍り付く。
だがマリア・バルバラは妹の放ったその言葉のナイフを泰然と受け止めた。
「そう?…でも私はこんな私を気に入っているのよ。あなたには関係なくてよ。アネロッテ」
相手を貶めるために放った言葉の凶器は自分に返って来て、己を刺し貫いた。
姉が―、生まれた時から何もかも手にしていたあの女が、男のあいによってその天性の美貌を開花させていく。
それを傍で指をくわえて見ているのは、アネロッテにとって耐えがたい屈辱で、敗北に他ならなかった。
このアーレンスマイヤ家に、この世界に、女王は一人でいい。華は一輪咲いていればいい。邪魔な存在は蹴落とし踏みつけてやる。
自分が君臨するために。
自分が咲き誇るために。
― あの時のように…、ヘルマン先生の時のように、今度も仮借なきままに踏みつけてやる!…今度は…。今度という今度こそ!
アネロッテは鏡に映った自分に言い聞かせ、己を奮い立たせた。
彼女の両の瞳には―、氷よりも冷たい焔が燃え立っていた。
作品名:第二部5 (78)憎悪 作家名:orangelatte