第二部10(83) フォン・ベーリンガー家
パチパチ…。
微かな何かが爆ぜるような音と、きな臭い匂い。
その音の方向へ目をやったダーヴィトが、驚愕に目を瞠った。
その音と匂いのする方向からは―、赤い焔が昇っていた。
「火事だ!」
ダーヴィトがドアへ駆け寄る。
「クソ!開かない」
ドアはピクリとも動かなかった。
「どんどん燃え広がって行くわ!」
図書館に発火した火は、本や書類に燃え移りどんどん広がっていく。
「マリア!カーテンを、カーテンを外して。引き裂くんだ!」
「え、ええ!分かったわ。これでいい?」
カーテンを割いて繋いだものを窓の柵に括りつける。
「これを伝って下へ降りるんだ!早く」
「わ、分かったわ」
「落ち着いて!下を見ないで」
「え、ええ」
「なるべく身体を壁に近づけて」
マリア・バルバラの後にダーヴィトも続いてカーテンを伝い下りる。
何とか庭へ避難した二人が―、茫然と図書館から上がる黒煙と焔を見上げていた。
作品名:第二部10(83) フォン・ベーリンガー家 作家名:orangelatte