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第二部16(89)取引

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「養子なんかじゃない。エルンストは…間違いなく母親の、エレオノーレの血を引いた息子だ」

はっきりとそう断言して、刑事が懐から一枚の写真を取り出した。

― それは、ヘルマン・ヴィルクリヒにそっくりな面差しの、若い婦人の写真だった。

「これは…」

「フォン・ベーリンガー夫人、エレオノーレだ。…どうだ。あんたらの先生と、そっくりだろう。私も以前一度だけそのヴィルクリヒ先生とやらに接触したことがあってね。…驚いたよ。彼女の面影を映した容貌と、彼女に生き写しのビロードのようなグレイの瞳。…エルンストが生きていれば、ちょうどあの先生位の年頃だ。…あんたが先ほど言っていた、エルンストが、ヘルマン・ヴィルクリヒだという説は…私も支持するところだ。取引した甲斐があったな。あんたは仮説に確証を、そして私はフォン・ベーリンガー夫妻の遺児が生存しているという情報を得た。ウィンウィンだ」

そう言って刑事はダーヴィトを茶化すと、ため息交じりにフォン・ベーリンガー夫人の写真に目を落した。ダーヴィトもつられてその写真にじっと目を落す。


「ねえ…。この首飾り」

ダーヴィトがフォン・ベーリンガー夫人の首飾りに目をとめる。

「これが…どうした?」

「これと同じ首飾りを…僕はつい先日目にしたんだ。…ただしそれはどうやらイミテーションのようだったらしいけど」

「どういう…ことだ?…これは…、この首飾りはフォン・ベーリンガー家の花嫁に代々伝わるもので…、二つと同じものがある筈がない。おい、坊や。そのいきさつを詳しく聞かせろ」

「僕がこれを見たのは、アーレンスマイヤ家でだ。マリアを見舞った折に、彼女の妹のアネロッテが崇拝者からプレゼントされたものだ…と。その時手に取って見せてもらったけど、台座に暗い場所で光る夜光塗料の塗られた珍しいものだなと思った。そして…その時は少なくとも僕はそれがイミテーションだとは思わなかった」

「それは…確かか?」

「ああ。僕の実家だって…貴族ではないがそれなりの資産家の家だ。幼い頃から母や姉が身につけている宝石を身近に見ているから、流石に手に取ってみれば真贋ぐらいわかるさ。あれは、間違いなく本物の宝石だった。その後の事は、パーティに出た学友から聞いた話なのだけど、アネロッテさんはなぜかその夜光塗料を塗られた本物の首飾りではなく、寸分たがわず作られたイミテーションをつけてパーティに出席したらしいんだ。彼女は満座でそれを指摘され恥をかかされ、大いに怒り狂ってパーティ会場を退出したらしい。そうそう、その少し前にパーティ会場が一時停電して、その時にその首飾りは光らなかったと言っていたから、間違いなく僕が実際に手に取ってみた首飾りと、パーティで彼女がつけていたものは別物だと思う。一体…何のために…これも、復讐なのかな?」

ダーヴィトの証言を噛み砕くようにして、刑事が考えに耽る。

「いや…逆…かもしれない。むしろ復讐は…失敗に、未遂に終わったのかもしれないぞ…」

「え?」

「あんた、パーティ前に見たその首飾りには夜光塗料が塗られていたと言っていたな。だが会場で起こった停電時には首飾りは光らなかった。もしかしたら、その崇拝者から贈られた首飾りも、そして停電も、あらかじめ周到に準備されていたもので、復讐者は停電の闇に紛れて夜光塗料の塗られた首飾りを目印に、彼女を手にかけようとしていたのかもしれない。誰だかは分からないが、首飾りがすり替えられてたという事は…、赤っ恥はかいたものの、結果的に辛くも命拾いをしたのかもしれないぞ」

闇に紛れた復讐者がアネロッテの首飾りを目印に、彼女に憎悪の刃を突き立てる―。
その想像にダーヴィトの顔から血の気が引いて行く。

「そうすると…マリアをおびき出したあのアブラハム・ウント・レヒナー商会も、そしてアネロッテさんを復讐の刃にかけようとした、エルヴィン・フォン・シェルブレも…恐らく同じ人物の仕業…」

「そうだな。あんたの情報が正しければ、それは恐らく―、フレンスドルフ氏…という事になるな」

「…どうにか、ならないのか?あんたら警察だろう?次の魔の手を未然に防ぐ手立ては…ないのか?」

「証拠がないんじゃ…手も足もでないな。…せいぜい身の周りに注意して、自衛しろ…としか言えんな…。悪いな…」

「クソ!」

「…何か少しでもおかしなことがあれば、迷わず警察に私に連絡して来てくれ。すぐに出動するから。…今の段階ではそれぐらいしか出来んが」

「…いえ、十分です。…ありがとうございます」

「あ、おかみさん。お勘定!」

「はいよ」

「自分の分は自分でもちますよ」

「いいんだよ。これは…捜査費用で落とすから。その財布はしまっとけ、坊や。おかみさん、領収書をおくれ」

そう言って、刑事は二人分の飲み代を支払い、「また、何か情報があったらトレードに応じるぜ。健闘を祈るよ」と言い残し、街の雑踏に紛れていった。
作品名:第二部16(89)取引 作家名:orangelatte