intermezzo ・白い花~未来への贐(はなむけ)
「あ・・・」
その瞬間、オレは思わず声を上げてしまっていた。
一面の白い世界でピー助の羽ばたきを喜ぶあいつの姿は、その花の柔らかな反射をうけてひときわ輝く、あたかもけがれなき妖精か天使だった。そこだけ、あいつの周りだけが現実味がない夢色に染まりふわりと浮き上がって見える。
そしてあいつの無邪気で清らかな笑顔・・・あいつはこんなに美しい女なのに・・・オレはあいつのことがこんなにも愛おしいのに・・・その華奢な心と躰に途轍もなく重たいものを抱え込んでいるあいつに手を差し伸べ、オレが守ると抱きしめたいのに・・・だが所詮行き場のない想いは募らせるほどに苦く・・・己の不甲斐なさに打ちひしがれなす術もない・・・。
今もただ心を鷲掴みにされるがまま・・・しばし身動きも忘れて立ち尽くしていた。
「クラウス!ピー助が!クラウス・・・?」
煌きの向こうにピー助を見送ってクラウスを振り向くと、なんだかすごく思い詰めた顔をした彼の表情とぶつかった。けれどハッとしたようにすぐに空を仰ぎ見て、眩し気に目を細めるとボクの傍らに立った。
「ああ、行っちまったな・・・」
「クラウス、ありがとうね・・・よかった・・・飛べて。これからピー助は自由にどこまでも羽ばたいていけるんだね・・・」
「自由か・・・羨ましいな・・・」
「うん・・・」
―ねえクラウス、人として生きている限り何もかも全て自由なんてありえないよね・・・だからせめて心は、心だけは自由でありたいのにボクにはそれも許されないんだ・・・でもそうしてしまったのは自分で・・・。
「綺麗、だった・・・」
それぞれの想いを胸にもう一度ピー助が飛び去った方向を二人で見つめていたら、クラウスはボクに顔を戻してはっきりとそう言った。
「え?」
鳶色の瞳が、ボクを妙にしっかりと捉えている。何のことを言っているのかわからず怪訝な顔で首を傾げていると、クラウスはフッと笑って顔を背け今度はなんだか呆れ顔でボクの鼻先を突いてきた。
「な・・・!」
「花だよ!この一面の花!昨日はこんなに咲いていなかったから・・・ビックリしたんだ」
「あ、ああ!うん、そうだよね、ピー助の巣立を祝ってくれたみたいだよね!でも、フフ・・・」
「なんだよ?」
「君にも、花を綺麗だって思う気持ちがあるんだなって・・・」
「おまえね~、オレ様を誰だと思ってる?ゼバスの誇る首席ヴァイオリニスト、クラウス・ゾンマーシュミット!音楽を愛する者が美しいものに鈍感でどうするよ?ったく、わかってねーなー」
「ハハ、それはそれは、大変失礼いたしました!」
「美しいものは美しい、どうしたって心を掻きたてられる。時には狂おしいほどに・・・行くぜ、授業が始まる!」
「あ、うん・・・」
―さっきのクラウスの瞳はあの時と同じ・・・いつもよりも色濃く潤んだ鳶色だった。