第二部22(95) sturm
その時―
ガチャリ…
ドアが開いて入って来たのは、ヤーコプだった。
背を丸め、顔色の悪い沈鬱な表情でそこにいる面々を見回し、最後にアネロッテをじっと見つめる。
「アネロッテ様…」
「何よ?ヤーコプ。…今更何しに来たのよ?ハン…お前にもう用はないわよ」
「幕を引きに…参りました」
ー あぁ…アネロッテ様…!
「あ!」
全員が止める間もなく、ヤーコプがポケットから葡萄酒の小瓶を取り出すと、それを口に含みアネロッテに近づくと彼女の顔を引き寄せ、口移しにそれを彼女に含ませた。
「それで…いいわ…。ヤー…コプ。主演女優にも…終幕…華やかな終幕…を…」
毒を仰ぎ血を吐いてヤーコプの腕の中のアネロッテが崩れ落ちる。
それを見届け安心したようにヤーコプもガクリと崩れ落ちた。
「あ!しまった!…こいつも歯に毒を…」
刑事が忌々しげに舌打ちする。そしてヤーコプの脈を取り、呼吸を確かめ、首を横に振った。
「アネロッテは…?」
マリア・バルバラのその一言に、ハッと気付いた刑事がアネロッテの脈と呼吸を確認する。
「まだ…息がある!」
ー 水だ!水を持って来い!それから医者を!
「ここにおります!」
執事に手を引かれ主治医が現れた。
「執事さんに…危険を伴う作戦だから、万が一の為にと…控えていたのです」
「フン…。用意がいいこって」
帝国警察の刑事はダーヴィトと執事、それからマリア、バルバラに向かって小さく鼻を鳴らすと、
「ドクター、何が何でもこの女を蘇生させて、地獄の門から引き戻せ!」
と医者に檄を飛ばした。
作品名:第二部22(95) sturm 作家名:orangelatte