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愛しさと切なさと...(コレットは死ぬことにした)

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「コレット。」

「ハデス様...」

やっと会えた...!

キス未遂事件から何となく
顔を合わせづらかったが、
ふと、自分は
ハデスに恋をしていたのだと
自覚したところだった。

自分でも驚いた。

ハデスへの気持ちは、
プライドを持って仕事をする人への
尊敬の念だとずっと思っていた。

でも徐々にではあるが、
薬師の師であるアンノへの尊敬の気持ちと、
ハデスへの気持ちが、微妙に違うことは
なんとなく気づいていたのだ。

会いたい 話したい 側に居たい ...触れたい。

あのふわふわサラサラの髪を撫でたい。

ギュッとしてもらいたい。

肌に触れたい。

1行だけの手紙をもらって舞い上がる。

こんなふうな気持ちは
師や義兄や義姉に対する気持ちとは
明らかに違う。

初めての気持ちだった。

「会いたいな...」

もう気まずいとか恥ずかしいとかより、
その気持ちの方が大きい。

「好き」

口に出すと実感する。

ああ、自分はハデスが好きなのだと。

愛しい、と言った方がいいかもしれない。

もう無理だ。
会わないなんて耐えられない。

そう思った時、フワッと外から、
大きな優しい風が
舞い降りてきた気がした。

来...た...?

来た。きっとハデス様だ!

ハデスからの手紙を握りしめ、
期待と不安で外のドアを開ける。

「あ...」

「コレット。」

大好きな、優しい笑顔がそこに在った。

「ハデス様。」

コレットから思わず笑みが零れる。

「なんで...?」

「お前に会いに来た。」

会えた。

嬉しい。

「この間...海で...お前は会いたいのに会えない
と言って、おかしなまじないをしていただろう。」

「だから会いに来た。」

ハデス様だって忙しいのに、
いや、冥王であるハデス様のほうがむしろ
自分よりよっぽど忙しいはずなのに、
わざわざ会いに来る時間を作ってくれたことが
コレットは心底嬉しかった。

「どうした?」

「え...?」

気がつけば、コレットの頬を
涙がひとすじ伝っていた。

「あ、あれっ?なんで?!」

ハデスは無言でコレットに近づくと、
ス...と、その涙を拭った。

「なにかあったのか?」

心配そうにコレットの顔をのぞき込む、
ハデスの顔が 月明かりで光っていた。

綺麗...

そんなことを思いながら、
ブンブンとコレットは頭を横に振った。

「嬉し泣き? 会いたいと思っていたから...
ハデス様に///。」

「!///」

ハデスは少しはにかみ、
ゆっくりと手を拡げた。

そこに自然とおさまるように、
コレットが倒れ込む。

「お前が会いたいだろうというのは口実だ。
私のほうが我慢ならなくて
ここまで来てしまったのだ。」

「あ...コツメくんから手紙、
預かりましたよ。」

「ああ。」

「ハデス様の手紙、1行だけだったから、
どうしてるかなとか
余計考えて会いたくなりました。」

「そうか。」

「コツメくんもおつかいだって言ってたから
またしばらく会えないかと思ってたのに...」


コレットが1人で話すのを、
しばらく黙ったまま聞いていたハデスは、
ぎゅううっと少し腕の力を強めた。

「私も」

「お前がコツメにおやすみとか言付けるから」

ポツポツと、ハデスがゆっくりと
自分の思いを話すのを
コレットは心地よく聞いた。

「また会えなくても、お前を思いながら
寝ればよいだけのことだと思ったが
寝られなくなった。
...だから散歩ついでだ。」

ついで...なのか。やっぱり。

「ラベンダーのポプリ、効きませんか?」

「効かぬ。」

「えっ...じゃあ、お茶がいいかな...。」

ふっ、とハデスは笑った。

「ばかもの。」

「え?」

「お前に会えぬから寝られぬのだから、
ポプリもお茶も効かぬ。
私にとってはお前に会うことが
1番の薬なのだ。」

「!/// でも...
ついでなんでしょ?」

さっきの「ついで」が
コレットはどうにもひっかかっていて、
つい意地悪を言いたくなった。

しかし、ハデスのほうはそんなこと、
となんとも思ってない様子で、

「ついでは散歩の方だ。
お前に会うために散歩に出たのだ。」

とサラっと言ってのけた。

お前のため。

こんな嬉しい言葉はない。

ハデス様はいつも自分が1番喜ぶ言葉をくれる。
自分もちゃんと伝えたい。

コレットはそう自然に思った。

「わ、わたしもです。
わたしもハデス様に会えなくて寝られなかったっ。」

「同じだな。」

ハデスは優しく笑みを浮かべた。

「うん。」

コレットは嬉しくて、ハデスの胸に顔を埋めた。

しばらくふたりで抱き合ったまま、
その肌の温もりを交歓しあう。

ああ、この間怪我をして冥府に泊まった時のように、
このままふたりで寄り添い寝てしまえればいいのに。

コレットがそう思っていると、
ガタッとドアが開く音がして、

「コレット? 」

と、マリーが呼ぶ声が聞こえた。

いけない! とっさにハデスを隠そうとしたが、
背の高いハデスの体はすぐに隠れなかった。

「誰かと一緒なの?」

暗闇の中でいる二人の姿は
マリーからはハッキリ見えないが、
コレットらしき人が、
背の高い男性と寄り添っている影が見える。

「マリー姉ちゃん!」

「コレット?...誰?
あ、ああ!そういうこと!
わざわざ会いに来てくれたの?
ごめんね!おじゃましちゃって!
よかったら中に入ってもらって話したら?」

「泊まって...って言いたいけど、でも客間はもう
イオさん達が使ってるしな...どうしよう。」

マリーはコレットが柔らかく可愛くなったのを
ハデスに出会ったからだと、一瞬で察した。
ただもちろん、その相手が冥王様だとは
露ほどもしらないとは思うが。

「えっ、や、違うの、マリー姉ちゃん!
この人は...。」

と、コレットはマリーに
ハデスのことを説明しかけて言葉を濁した。

なんて説明する?

そもそもハデスは自分の何者でもない。

患者さん? だけど、ただの患者さんとは
抱きしめあったりしない。

友達? もなんか変。

冥王様で...って、もっと説明できない!

「えっと、その...私の...大事な人で...///」

「わかった、わかった。
誰にもイオさん達にも言わないし、
仕事のあとなんだから
誰と逢い引きしようがかまわないんだけど、
夜は冷えるから、ふたりで風邪ひいたり
しないようにね。
私は先に休むから。ごゆっくり。」

「あ、あいびっ///」

コレットは顔を真っ赤にしたが、
マリーはニヤニヤしながら家の中へ入っていった。

「あれがお前の義姉か。
挨拶する間もなかったな。」

ハデスは自分の姉デメテルを思い出し、
姉とは言葉をまくしたてるものなのかと
皮肉を思い浮かべた。
まぁ、それでもデメテルだったら、
もっと首を突っ込んでくるか。