第二部24(97) 交渉
1906年―
ロシア、サンクトペテルブルグ。
「お呼びでしょうか。侯―」
ツァールスコエセーロ陸軍親衛隊長にして大貴族ユスーポフ侯爵家当主代理のレオニード・ユスーポフは、書斎へやって来た腹心の部下に、ドイツ ベルリンのロシア大使館から届いた手紙を、無言で差し出す。
ロストフスキーは上司のレオニード・ユスーポフから渡された手紙に目を落す。
「―これは!」
「今から30年程前に、国内の大改革を断行された時の皇帝アレクサンドル二世陛下が、同時に高まりゆくヨーロッパ各国のナショナリズムの動きを危惧し、遠からず起こる可能性のある革命に備えて、皇室の財産を密かにヨーロッパ各国に分散して預けられた。その事は極秘事項とされ…当時ドイツとの外交を任されていた私の父が、その隠し財産の一部をドイツ人のとある人物へ託した」
「は―」
「その隠し財産は…ドイツ、フランクフルト・アム・マインの帝国銀行に預けたものだけで、数千万ルーブルに上ると言われている」
「!!」
「先だってベルリンのドイツ大使館から、極秘の電文が外務省へ届いた。その内容は―、ごく限られた―、私の父を含むごくわずかの人間だけが知りうる、その隠し財産の件だった。当時隠し財産の管理を託した、アルフレート・フォン・アーレンスマイヤが亡くなり、その後を継いだ現当主が、その隠し財産を預けた帝国銀行の金庫の鍵を、― 我が国へ返還したいと申し出たそうだ」
「そ、それで…」
「父は今任地のモスクワを離れることが出来ぬ故、急きょ息子である私が全権を委任された。早速ドイツへと向かい、まずはそのアルフレートの娘であるという、現当主と話をし、それから後の事は判断する。この事は…なるべく部外者を挟まずに極秘に進めたい。ロストフスキー、お前はドイツ語が得意であったな。なので、この度の出張に通訳として随行することを任ずる。近日中にドイツへ発つので、支度を!」
「は!御意にございます」
ロシア、サンクトペテルブルグ。
「お呼びでしょうか。侯―」
ツァールスコエセーロ陸軍親衛隊長にして大貴族ユスーポフ侯爵家当主代理のレオニード・ユスーポフは、書斎へやって来た腹心の部下に、ドイツ ベルリンのロシア大使館から届いた手紙を、無言で差し出す。
ロストフスキーは上司のレオニード・ユスーポフから渡された手紙に目を落す。
「―これは!」
「今から30年程前に、国内の大改革を断行された時の皇帝アレクサンドル二世陛下が、同時に高まりゆくヨーロッパ各国のナショナリズムの動きを危惧し、遠からず起こる可能性のある革命に備えて、皇室の財産を密かにヨーロッパ各国に分散して預けられた。その事は極秘事項とされ…当時ドイツとの外交を任されていた私の父が、その隠し財産の一部をドイツ人のとある人物へ託した」
「は―」
「その隠し財産は…ドイツ、フランクフルト・アム・マインの帝国銀行に預けたものだけで、数千万ルーブルに上ると言われている」
「!!」
「先だってベルリンのドイツ大使館から、極秘の電文が外務省へ届いた。その内容は―、ごく限られた―、私の父を含むごくわずかの人間だけが知りうる、その隠し財産の件だった。当時隠し財産の管理を託した、アルフレート・フォン・アーレンスマイヤが亡くなり、その後を継いだ現当主が、その隠し財産を預けた帝国銀行の金庫の鍵を、― 我が国へ返還したいと申し出たそうだ」
「そ、それで…」
「父は今任地のモスクワを離れることが出来ぬ故、急きょ息子である私が全権を委任された。早速ドイツへと向かい、まずはそのアルフレートの娘であるという、現当主と話をし、それから後の事は判断する。この事は…なるべく部外者を挟まずに極秘に進めたい。ロストフスキー、お前はドイツ語が得意であったな。なので、この度の出張に通訳として随行することを任ずる。近日中にドイツへ発つので、支度を!」
「は!御意にございます」
作品名:第二部24(97) 交渉 作家名:orangelatte