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林殊と霓凰

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自分の手巾を川の水に浸し、それで林殊の頬を冷やすつもりの様だった。
霓凰が手巾を浸すのを、ただ横で見ていた。
━━━なんだか、ホントに女の子みたいだ、、。━━━
こんな霓凰も、悪くないな、そう思っていた。
髪飾りの他に、小さな簪を二つ付けていたのに、無くなっている。
━━━水量が多くて怖がってたのに、霓凰は水の中に入って、私を探したんだな、、、、。━━━
負けず嫌いで、いつも林殊と同じ事をしたがった。林殊にとって霓凰は、その辺の男の友と変わりがなかったのだ。
━━━水の勢いに怖がったり、泣く程、私の事を心配したり、きっとあんな所に一人ぼっちにされて、心細かったはずだ。━━━
今、林殊は、霓凰に健気さを感じていた。
林殊は、初めて自分のそんな気持に、気がついた。
「霓凰、、、簪が、無くなっちゃったな、、。」
霓凰が横を見ると、林殊が腰を下ろして霓凰を見ていた。
目を細めて、眩しい様な笑顔で見ているのだ。
霓凰の胸がドキドキと高鳴った。
「霓凰、、、簪、潜って探してこようか?。」
零れるような笑顔で言うのだ。
───まだ私に心配させる気なの?───
霓凰の胸の高鳴りは、一遍でどこかに去っていった。
霓凰は表情も変えずに、浸した手巾を石の上に置く。
そして林殊の目の前に両手を出し、つねる真似をして見せる。
林殊の頬に、また痛みが甦るようだった。
「、、、しません。」
何事も無かったように霓凰は手巾を搾って、林殊に渡した。
林殊はどこか怖々と受け取って、頬に当てていた。

いつもと違う二人に、後ろで靖王が吹き出して笑っていた。



川下りを始めた場所と、滝の手前の場所に、馬を繋いでおいた。
そこまで馬を取りに行き、三人それぞれ馬に乗って山を下った。

林殊と景琰が馬を並べているのに、霓凰だけが一人先に、馬を歩ませている。
霓凰は嫌な自分を見せてしまったようで、何だか林殊と話ずらかったのだ。
滝壺の中に洞があったなんて、誰も知らなかった。
林殊に怒るのはお門違いだったと、冷静になった今、そう思えてきたのだ。
泣く程、取り乱してしまった。
───、、、恥づかしい、林殊哥哥は呆れてるかも、、、頬まで思い切りつねってしまつたり、、、。
誤魔化していたけど、私が泣いてしまったのは、きっと気がついてる、、、、、。───
取り繕って会話するのも見え見えで、それもまた、なんだか恥づかしいのだ。


靖王が林殊に声を掛ける。
「霓凰は、まだ、怒ってるんじゃないのか??。」
さっきから、ずっと、林殊は霓凰の後ろ姿から、目を離さない。
いつもの林殊ならば謝るでもなく、有耶無耶にして、元通りの関係に戻してしまうのだった。
林殊の天才的な特技とでも言おうか。
靖王は、珍しく霓凰が酷く怒っていたのを、林殊が気にしているのではないかと思っていた。
いつもならば、誰を怒らせようと、反省もしなければ、懲りもしないのだ。
何事も無かったように話掛けるか、別の事に気を逸らして、いつの間にか関係を元通りにしている。
霓凰もこんなに、口も利かずに黙っているのも珍しかった。
霓凰の後ろ姿が、言葉を掛け難い波動とでも言おうか、、、林殊と自分を、拒絶する薄衣でも纏っているようだ。

「いや、怒ってるんじゃないとおもうんだけどな、、、。」
━━━分からないけど、、、違う気がする。━━━
男勝りで、嫁の貰い手なんか無いだろうと、霓凰の伴侶になった者は気の毒だな、、と、そんな気持ちが林殊のどこかにあった。
━━━私が霓凰の事を、よく見ていなかったのだな。
ちゃんと、可愛らしい女の子だったんだ。━━━
武術の修練にも、同じ年頃の男よりも、俄然食い付いて、年上の相手を負かしてしまったり、、、林殊と景琰の遊びにも平気で付いてくる。
林殊にとって、女とは屋敷で大人しく習い事をしていたり、陽に焼けるからと外の遊びなんか絶対にしない、つまらないモノだった。
世間が美人と噂する子女など、林殊は、綺麗でも可愛らしいとも思わなかった。
あんな着飾った娘など、どこが良いのか全く分からない。
あんなに着飾っていたら、馬にも乗れぬし、第一、外で遊べなではないか。

━━━分からないけど、、、霓凰は、いつもみたいに口を効くきっかけが見つからないんだ。
この先、霓凰と変にギクシャクするのは堪らない。━━━
霓凰は、どうでもいい娘では無い。
林殊にとって、靖王同様、大切な大切な、友。
そして何か、友とは別の気持に気がついた。

突然、吹っ切れたのか、何か思いついたのか、林殊が、にっ、と笑顔になる。
「景琰、城門まで競走しよう!。」
林殊はそう言うと、霓凰の馬の方に駆けて行く。
霓凰の後から声をかける。
「霓凰、城門まで競走だ!。景琰なんか置いてくぞ!。」
林殊は、馬で霓凰の横を通り過ぎる時に、霓凰の馬の尻を叩いた。
驚く馬が前足を上げて立ち上がるが、霓凰は振り落とされる事なく、難なく自分の馬を御すのだ。
馬を馴らした霓凰が、林殊を見ている。
その凛々しさ、、、、、その辺の子女には絶対に出来ない。
━━━だから、好きで大事なんだ。━━━
「先行くぞ!霓凰!。」
「負けないわ!!」
霓凰のいつもの、自信に満ちた笑顔が戻る。
━━━霓凰はその顔が最高なんだ。━━━
「よしっ!」
「はっ!!」
馬の脇腹を蹴って、走り出す。
林殊の横を霓凰の馬があっさりと、抜いて行った。
霓凰と馬が一体になって、風の様に駆けて行った。
髪をなびかせ、衣を揺らし、疾駆する。
綺麗だな、と、林殊はそう思った。
━━━一番綺麗な霓凰を、私は知っているんだ。━━━
お転婆だのジャジャ馬だの言われても、霓凰はこの姿が一番活き活きして美しいと思った。
自分だけが、知っている霓凰。
特別な霓凰の姿。

靖王はそんな二人を後から追いながら、良かった、とホッとして見ていた。
霓凰が林殊を好きなのは知っている。
ただならぬ雰囲気になって、このまま疎遠になったら、霓凰が可愛そだと思っていた。
この二人は、靖王にとっても最高なのだ。
三人、バラバラになるなど、考えられなかった。

本格的に暑い季節が到来する。

勉強する暇も惜しんで遊び倒すのだ。
これから日はどんどんと長くなる。
日が傾いてから城門に向かっても、この三人ならば十分に帰れる。
この三人の母親たちの眉間の皺は、また一段と深くなっていくのだろう。



暑い金陵の夏が始まる。




─────────糸冬──────────
作品名:林殊と霓凰 作家名:古槍ノ標