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冥府のリンゴ(コレットは死ぬことにした)

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猫姿のゼウスは、コレットの義姉マリーのいる
診療所に忍び込むのはわけなかった。

すっかり夜も更けて、
寝るのが趣味ぐらいのコレットは
熟睡していた。

コレットの寝所で
さっとゼウスは神の姿に戻る。

「この姿じゃないとできないのは不便だなぁ」

と独り言を言いながら、ゼウスは
コレットの夢を取り出した。

「夢で会ってるんじゃないか。」

コレットの夢の中でも、コレットは冥府にいた。
ハデスと家来たち、カロンやケルベロスもいて
みんなで談笑していた。

コツメと友達になったのだと
コレットがハデスに話していた。

夢の中でもハデスに見つかるとヤバい。

ゼウスはこっそり隠れて様子をうかがった。

「あ、帰らないと!」

夢の中でもコレットはバタバタと帰るようだ。

夢の中くらい、一緒にいればいいのに。

「コレット。」

「ゼウス様!」

コレットが夢の中のハデスに見えないとこまで来たところで
ゼウスはコレットに声をかけた。

「なんで帰っちゃうの?」

「なんでって...」

「だってコレット、冥府にいたくない?」

「え...いたいけど...///」

「いいんだよ。居ても。」

「? でも私は人間だし。ハデス様はいつも帰れって言うわ。」

兄上~~

ゼウスはハデスの生真面目さにめまいがした。

「冥府のリンゴを口にすればいいんだよ。」

「えっでも冥府の食べ物は人間が食べちゃだめなんじゃ...」

「コレットは特別。だって僕は最高神だよ?
僕がいいって言ったら、なんでもOKなんだ。」

「いやでも...」

「お食べよ。」

冥府のリンゴは赤々として瑞々しく、
普通に美味しそうに見えた。

コレットはゴクリと唾を呑んだ。

これを食べると冥府にいられる。
最高神がいいよと言っている。
何よりとても美味しそうだった。

「ふ...」

「? コレット?」

リンゴに手を伸ばしそうになって、
コレットはふっと笑い、手を止めた。

「ゼウス様、白雪姫に出てくる魔女みたい。」

「えっ!」

ゼウスはドキッとした。

「白雪姫では、毒りんごを普通のリンゴって
魔女が言って、お腹空いてる白雪姫は
正常な判断力を失って食べちゃうの。」

「えっでもこれは毒ではないよ?」

ゼウスはコレットの意外な言葉に焦った。

「ううん。私は冥府にいたいけど、
私が冥府に住むことは、
ハデス様の毒にしかならないわ。」

「そんな!兄上だってコレットが冥府にいてくれたらって
絶対思ってるよ!住んで欲しいって!」

「もし...ハデス様がそんなことを言ってくれたら
私は嬉しい。」

「じゃあ...!!」

「でもダメです。私は人間で、ハデス様は
人間を裁く裁判官だから、
私が冥府にいたら、死んで冥府に来た人間は
ハデス様の言葉を公正なものとして
信用しなくなります。」

「コレット...」

「それはハデス様を貶めることになる。
だから私はこのままがいい。」

「そしてたぶんハデス様もそう言うと思うし、
ハデス様が私に冥府に住んでと言うのなら
それはハデス様の心が弱った時だから、
薬師の私は心を強くする方法を考えないと!」

なんて娘だろう。

一緒にいたいはずなのに、
兄上もコレットも、お互いの立場や誇りを
守ろうとしている。

こういう愛もあるのかと、
ゼウスはただただ感心した。

好きならば一緒にいればいいと
単純に思っていた。
だから妻のヘラが怒ろうと気に入った娘と
遊び歩いていた。

「そうか...」

「ありがとう!ゼウス様。
私たちのこと、考えてくださって。
その気持ちはとても嬉しい。」

ゼウスはなぜだかウルっとした。

そしてやっぱりこの娘といることが
兄上の幸せなのだと強く思った。

「コレット...じゃあ、できるだけ
兄上のとこに行ってあげてくれる?」

「もちろん!私も会いたいですもん!」

ニッコリと満面の笑みで話すコレットが
とても可愛く、ゼウスはハデスがこんなに想われて
羨ましくなった。

「ガイコツ、送ってちょうだい」

そう言って夢の中でも同じように
地上に帰ろうとするコレットに
「あ、僕が送ろうか...」
と言いかけたところで、ゼウスは
グイーっと強い力で夢から放り出された。

「わーっ」

ゴロンゴロンと診療所の外まで出て、
ゼウスは目をパチクリさせた。

目の前に、冥王然としたハデスが
怒りで肩を震わせ立っていた。

「ヒィィィ!兄上!」

「ゼウス。お前は何をやっている。」

今までに聞いたことのないような低い声で、
ハデスはゼウスを問い詰めた。

「ごっごめんなさい!でもコレットは
冥府に住みたくないって!ごめん!」

「...」

ふ、と怒りから淋しそうに変化したハデスの顔に、
ゼウスは胸がきゅっと締め付けられるようだった。

「よい。聞いていた。」

「えっ。」

「もっと自分を戒め、鍛えねばならぬな。」

もしもコレットが一緒に住むことになればと
一瞬でも期待した自分の心をハデスは恥じた。

「そんなに...?」

「ああ。コレットの気持ちに応えねばなるまい。」

ふっとハデスは笑い、その目は優しかった。

コレットの言葉が淋しくもあり嬉しかった。

さらに愛しさを強くした。

自分がくじに細工をしたばっかりに、
ハデスに辛い恋を強いている。

ゼウスはそんな思いがこみあがり、
涙が出そうになった。

「ゼウス。私は冥王でよかったと思っている。
細工をしたお前に感謝しているくらいだ。」

「え...なんで?」

「冥王でなければコレットに出会わなかった。
コレットに会っていなければ手に入れてない幸せを
私はいっぱい貰っている。お前に感謝だな。」

「兄上...」

ゼウスは涙が溢れ、止まらなかった。

「ただし、次コレットの寝所に入るような真似をすれば
2度と許さぬから覚えておけ。」

ゴゴゴゴと、再び冥王の顔に戻ったハデスに
背筋が凍る思いをしたゼウスだった。