こらぼでほすと 秋刀魚1
じじいーずの飲み会で、トダカが嘆いているのは、そんなところだ。身なりさえ整えれば、かなりのイケメンなのに、あんな恰好ばかりして・・・と、トダカは嘆く。そして、なんだかんだとニールの普段着を見繕って渡しているらしい。うわぁーとニールは頬をひくつかせた。確かに四季ごとに、ちょいちょいトダカは服をくれるのだが、そういう意図があったらしい。もったいないので、お出かけする時ぐらいしか着ないもんだからタンスの肥やしと化している。
「じゃあ、バイトの時は、トダカさんのくれた服で行きます。」
「それと、たまには、お里へ顔を出してやれ。呼び出すばかりが親孝行じゃないぞ。」
「でも、三蔵さんの世話が・・・」
「昼なら、三蔵さんも弁当すればいいだろう。ああ、そうだ。ママ、トダカさんにも弁当を配達してやればいい。食後にコーヒーを用意すれば喜ぶ。トダカさんとこならカリタ一式があるはずだ。豆は、これを使え。」
ごそごそと虎のカバンから取り出されたのは小さなパックだ。他のコーヒー豆のパックの三分の一程度のものだった。
「これは? 」
「トアルコトラジャ。と、名を言っても知らないだろうなあ。高級品だ。ちょっと練習して、お里では、これを淹れてやってくれ。」
虎が自分用に買った分だが、ふたつある。それをひとつ提供することにした。トダカも、それほどコーヒーに対する拘りがあるわけではないが、美味しいものは知っている。ニールが多少、失敗しても、この豆なら味も匂いも良いものだから、なんとかカバーてきるだろう。
「弁当なんて喜ぶかなあ。」
「愚か者。家庭で用意してもらう弁当なんてのは、独り者には貴重品だ。どんな高級レストランの料理よりも珍しい。のり弁でもいいぐらいだ。」
「いや、さすがに、のり弁オンリーはダメですよ。・・・・・悟空の弁当はするから、余分に作ってみます。アイシャさんも作ってるんですか? 」
「ああ、たまにランチボックスはしてくれる。あれは家庭の味だから、癒される。」
「そういうもんなのかな。」
「おまえは家庭の味を知ってるから、わからんのだ。おまえのとこのちびたちは喜んでるだろ? 家庭の弁当をしてくれるおまえがいることで、あいつらも味わえるんだからな。」
そう言われれば、そうかもしれない。シンたちにも、たまに用意してるが、みんな、ただのおにぎりだけでも喜んでいる。好みのものが具になったおにぎりというのは家庭の味だ。
「うちもランチボックスはしてもらってたなあ。母が料理好きで、いろんなサンドイッチを作ってました。」
「そういうものが家庭の味だ。・・・・・そろそろ、終わったな。味見してみよう。」
ようやく滴が止まった。温めたコーヒーカップに注いで、飲んでみる。やわらかい味のコーヒーだ。ニール的にはネスカフェの少し薄い感じというところだ。
「これがマンデリン。苦味と甘みのある味だ。」
「はあ。美味しいです。」
「おまえの感想としては、ネスカフェになるのか? 」
「ちょっと薄いネスカフェですね。」
「それぞれ、試してみろ。それで味は違うというのは理解できるはずだ。・・・ただし、カフェインが強いから、一度に試すなよ? 味見するなら一杯分ずつ淹れてみることだ。」
「一度に四種類とかは? 」
「飲みすぎだろうな。」
「わかりました。昼は、どうします? リクエストがあれば作りますが? 」
「いや、帰る。今日は休みだから、アイシャと食事する予定だ。」
「休みなのに、遠征してきたんですか? アイシャさんとゆっくりすりゃあいいのに。」
「早く教えておかないと、練習できんだろう。店のほうにも顔は出さないから。」
「はいはい、了解です。ありがとうございました。」
虎と鷹は交互にラボの責任者をやっているので、寺まで遠征するのが稀なことだ。たまには、ニールをかまってやろうと虎も思ったからの遠征だったらしい。コーヒーの淹れ方を伝授すると、さっさと帰って行った。用具を片付けているとリジェネが顔を出した。
「あれ? アンディは? 」
「帰ったよ。」
「一緒に、ごはんするんだと思った。」
「俺も、そう思ってたんだけどな。アイシャさんとデートなんだとさ。」
「コーヒーは? 」
「飲むなら食後に用意するよ。リジェネ、飲みたかったのか。」
「なんとなくね。僕は、いつものママのコーヒーでいいけど、試しておくのも経験でしょ? 」
「そういうもんなのかなあ。」
「アスランも紅茶をもってくるんだよね? ほんと、世界は広いよね? たかだか、ひとつのものなのに種類がいっぱいあって、味も香りも違うなんて・・・・体験しないとわかんない。」
「ひとつのもの・・・・まあ、大きく括れば、コーヒーと紅茶だもんな。俺が知ってるコーヒーは粉とヴェンダーのだったけど、虎さんは豆からだからなあ。」
「紅茶だって、そうじゃない。僕の知識では、茶の一種なのに、実際には産地やら製法で違うんだもん。言葉としては、ひとつのもの。でも、実際はいっぱい。データではわからないことだ。・・・・でも、僕が一番好きなのは、ママのココア。ちょびっとだけインスタントコーヒーが入ってて、ママとアレルヤしか作れない貴重品。」
「あれ、正式なやつじゃないからな? 」
ニールが作る飲み物は適当なものだ。コーヒーも紅茶も市販品で大量に作るので、美味というものでもない。だが、最初から飲んでいるリジェネにすると、あれがスタンダードということになる。
「でも、僕にとっては、ママの味。もうね、ヴェーダに行くと、あれが飲めなくて凹むんだ。」
「ココアと牛乳とインスタントコーヒーを持っていくか? リジェネ。」
「無理。あれはママが作ってるのが大前提。ママをヴェーダに連行したい。」
「それこそ無理。」
「だよねぇー。ママ、ヴェーダに行ったら弱るもんなあ。それに、ティエリアたちに奪還されちゃうよ。いや、奪還されてもママが弱るしなあ。」
「前回で、俺は懲りた。体力つけてからにしてくれ。」
「あははは・・・了解。」
さて、お昼の段取りをするか、と、冷蔵庫を開ける。三人だけだから前夜の残り物と少々付け足すぐらいでいい。煮物があるので、あとはハムステーキでもしようかなーと気楽にニールは考える。
「なんかリクエストあるか? 」
「おうどんがいい。タマゴふわふわのやつ。」
「それでもいいな。」
「今日は仕事だよね? おやつは? 」
「うーん、出汁を多めに作って、うどんをしてやろう。それと野菜が欲しいから生春巻きでもするか。」
「えびっっ。生春巻きはえびっっ。」
「はいはい。えびもいれてやろうな。悟空にはハムのも用意しておこう。」
今日の予定では、悟空だけのおやつなので、そこいらにすることにした。まあ、いきなりやってくるのもいるから、多めには用意することになるが。
作品名:こらぼでほすと 秋刀魚1 作家名:篠義