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第二部26(99) エピローグ2

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ダーヴィトがこっそりとアレクセイに「話があるからちょっと外に出られないか?」と持ち出したのを汲み、夕食の後、二人は撞球室へ場所を移していた。

「なあ、クラウス。出来れば外の方がいいのだが…」

少し困ったように外へ出る事を提案したダーヴィトに、

「大丈夫だ。この撞球室は、女子供は立ち入り禁止だ。ユリウスと子供たちは勿論のこと、呼ばない限りは使用人も来ないさ」
ー ま、ビリヤードなんて滅多にしやしないけどな。ていのいい喫煙ルームだ。

そう言ってアレクセイはサイドボードからウオッカを取り出しグラスに注ぐと、ダーヴィトに勧めた。

「…そうか。なら…大丈夫かな」

「…話せよ。さっきの話で、…恐らくユリウスには聞かせたくない話があるんだろう?」

「カンがいいな」

「…これでも一応命のやり取りは日時茶飯事の革命家稼業を何年もしてたんでね。…でもそれはユリウスも一緒だ。このタイミングで二人で外に出れば、あいつは何か勘ぐってくるぞ?」

「そうか…」

「そうだ。…だからここの方がいいんだ。ここならば二人でウオッカグラスを傾けてタバコを吸いながら積もる話でもしていると思うだろう」

タバコに火をつけながら、アレクセイはダーヴィトに目で話を促した。

それを受けてダーヴィトが話し出す。

「…実はあの話は…僕もマリアも意図的に外したピースがあったんだ。実はあの屋敷にユリウス親子が迎え入れられた時に、ユリウスと母親、そしてもう一人、あの親子についてアーレンスマイヤ家にやって来た男がいた」

「ほう?」

「その男はヤーンという、表向きはユリウスの主治医を名乗る男で…、実のところあの二人と出会う前からイギリスと組んでスパイ行為を行っていたらしい実に胡散臭い男なんだが、当時はあの親子にダニのようにくっついてユリウスの秘密をネタに彼女の母親を脅迫して小金を度々巻き上げていたらしい」

「まあ、そういう人間の存在があってもおかしくはないな。当時のあいつの立場からしたら。で?…それがどうした?」

一向に見えてこない話のオチにアレクセイが2本目のタバコに火をつけ、先を促す。

「そのヤーンという男は、ある日、1903年のクリスマスの晩に、忽然とあの家から姿を消した。いかにも素性の悪そうな男が、金目のもの一つ取らず、給与も貰わず…だ」

「その男は…スパイだったのだろう?ならばヤバイ筋の話に首を突っ込んで、どうしても行方をくらませなきゃならん事情でも出来たんじゃないのか?…言っちゃあなんだが、レーゲンスブルグ時代の…それからロシアへ帰ってからも地下活動をしていた頃の俺だって、そんな事はしょっ中だったぜ?」

「そうだな…。ヤーンが…単なる諜報活動で下手を打っての失踪蓄電だったら…そういう結論になるだろうな。しかし…」

そこまで語り、ダーヴィトはその先を言い澱むようにウォッカのグラスを口へ運ぶ。

「何だよ?」

「今から…10年ぐらい前かな…。自動車止を作るために、庭の一角を掘り起こしたところ、そこから死後およそ3年から5年程経過していると思われる男性の白骨死体が発見された。…死後経過時間と白骨死体から割り出された被害者の年齢身長性別などから、…1903年のクリスマスの翌日に突如アーレンスマイヤ家の屋敷から失踪して以来行方の分からないゲルハルト・ヤーンのものである事にほぼ間違いないと判定された。ヤーンの殺害に、当時彼と行動を共にしていたレナーテ・フォン・アーレンスマイヤとユリウス・レオンハルト・フォン・アーレンスマイヤが関与している可能性は、ー極めて高い」

そこまで一気に説明すると、ダーヴィトは長いため息をつき、グラスに残っていたウォッカを一気に飲み干した。

「…それは…、そのヤーンという男を…何らかの事情で…ユリウスと母親が殺害したと…いう事か?」

「…あくまで関与している可能性が高い…という推測に過ぎん。だが…、もし他の…外部の人間が殺害に及んだのならば、わざわざあそこに埋める説明がつかん。それに…ユリウスの秘密をネタに強請りたかりを繰り返していたヤーンに対して、あの親子は殺害の動機もある。これらの状況証拠と動機を考えても、恐らく…。それでヤーンの失踪当時から熱心に行方を追っていた例の刑事が、今度こそ物証を得る重大な糸口とばかりに実にしつこく…もとい、熱心に捜査に当たって、正直そのしつこさに閉口気味だったし、奴さん、頑として口を割らないが、どうやらユリウスの母親の居場所を突き止めているらしく、彼女の元へもしょっ中訪ねてはしつこく聴き込みをしていたようで…。彼女の伴侶のヴィルクリヒ先生から、「あの刑事をどうにかしてくれ」と泣きの手紙を貰ったのもあって、僕らは警察の上層部に捜査を打ち切るよう働きかけた。それを受けて、結局その白骨死体も、あのアーレンスマイヤ家のお家騒動の加害者、アネロッテの犯行だろうという結論づけで捜査は被疑者死亡で片がついた。…刑事のおっさんは捜査に水を差されて烈火の如く怒り狂ってたな」

ダーヴィトがタバコとグラス片手に、両手を天に掲げ、肩をすくめてみせた。

「なぜ…その事件の…ユリウスが恐らく関わっているであろう殺人事件の話などを…今更俺に持ち出した?」

「まぁな…。これでその白骨死体の件が収まってくれてればよかったんだけど、…未だに件の刑事が、ウチの周りを嗅ぎ回っている。だから、僕とマリアで話し合って…、その時丁度失踪後5年が経過したユリウスの死亡届を出した。…ユリウス・レオンハルト・フォン・アーレンスマイヤは、もうこの世には存在しない。死人を捕まえる事は、出来ない。ただ…」

「ユリウスは…故郷に、レーゲンスブルグに帰ることも、もう出来ないというわけか」

「さすがにあいつの今の姿から当時の少年の姿は想像し難いものがあるが…。非常に勘の鋭い男だ。…失踪したアーレンスマイヤ家当主だったユリウスと、ユリア・ミハイロヴァのからくりを見破らんとも限らない。せめて…あの男が刑事を引退するまでのあと数年は…、あの地に近寄らない方がいいだろう」

「そう…か。分かった。ユリウスがもし…レーゲンスブルグへ行きたいと言った時は、適当に理由をつけて諦めさせるよ」

「悪いな…。ちなみに…、ヴィルクリヒ先生からの手紙には、勿論住所は書かれていなかったが…その手紙にはパッサウの消印が押されていた」

「そうか…。色々ありがとうな。…ユリウスの事。あいつの事を考えて、死亡届を出してくれて」

「ハハ…。僕もマリアも、あの経験を経て、そういうところすっかりしたたかになっちまった。それに…、あのヤーンという男の殺害だって、アネロッテとヤーコプの犯行の可能性だって捨てきれないんだぜ?…お前は…、今の話を聞いて…、ユリウスの事を、恐ろしい女だと…思ったか?今までと同じようには…もう彼女の事を見れないか?」

絞り出すように最後の質問を投げかけたダーヴィトの苦渋に満ちた顔をじっと鳶色の瞳で暫く見つめた後、ゆっくりとアレクセイが言葉を選ぶように口を開く。

「…そうだな。聞いた以上は同じように…見る事は…叶わないな」

「クラウス⁈」