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鳥籠の子供達3 ~third & fourth~

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シャアの胸に顔を埋め、必死に呼吸を整える。
「…流石にさ、ちょっと…トラウマになってて…キツイんだ」
「……」
「…単純に、中途半端で終わった人生をもう一度やり直せてラッキーって、思えれば…良いんだけどさ、歳食った貴方やブライトを見たら…なんか置いて行かれた様で…ちょっと切ない」
笑顔を作っているが、震える指先がフォースの悲痛な心を物語っている。
「…君は…この先の人生を、フォースとして生きたいか?それとも…アムロとして生きたいか?」
シャアはフォースをそっと抱きしめながら優しく問う。
「…そうだな…。正直…よく分からない…けど…ファーストの事を想えば…アムロ・レイが二人いるのは…きっと良くないだろうな…」
しかし、自分を捨てるのは…中々出来ない決断だ。
おそらく記憶操作を行い、アムロとしての記憶を封印してしまえば、この苦悩から解き放たれる。しかし、その瞬間、自分は本当に死んでしまうのだと思うと、恐ろしくてとても選択する事は出来なかったのだ。
「焦る事はない。それに、前にも言ったがファーストはファースト、君は君、同一人物の記憶があると言っても、別の人間だ。これから生きていく上で、その人格は違ったものになって行く筈だ」
「そうかな…」
「そうさ。事実、私はファーストがアムロ・レイとは別人だと気付いた。そして君がアムロ・レイだともな」
「…凄いな…貴方…。本人が分からないのに…貴方には分かるんだな」
「勿論だ。君は…アムロ・レイは私にとって特別な存在だからな」
そう言い切るシャアに、フォースがギュッと抱きつく。
「ふふ、貴方にそう言って貰えるなんて…思ってもいなかった。もの凄く…嬉しいよ」
「アムロ…」
「…そうだな…。貴方が特別だと言ってくれた俺を消すのは…勿体ないかもな…」
フォースは腕を突っ張りシャアから身体を離す。
「でも、もう少し考えさせてくれ」
和かに答えるフォースの顔はとても十歳とは思えない、大人の表情だった。
そして、セカンドのカプセルへと視線を向ける。
「セカンドは…俺に普通の人生を送らせたがってた…」
「そうだな。養子縁組の相談を受けた事がある」
セカンドはまだ幼いフォースに、アムロ・レイのクローンでは無く、普通の子供としての人生を送らせようと色々考えてくれていた。
しかし、結局はニュータイプの子供を引き取るという夫婦などいるはずもなく、シャアの後見の元、セカンドとサードと一緒に暮らしていた。ブライトが引き取ると言ってきた事もあったが、流石にブライトをお父さんと呼ぶのには抵抗があって、思わず断ってしまった。
「セカンドの望む様に生きるのも…良いのかもしれないし…」
「焦る事はない。ゆっくり考えると良い」
「うん。ありがとう」
シャアは涙の滲む瞳に唇を寄せて涙を吸い取る。そして、流れるように額や頬、瞼にキスを落とす。
その行動にフォースがギョッとして、両手を突っ張りシャアから離れる。
「ちょっ!貴方何を…」
フォースは顔を真っ赤にしてシャアを見上げる。
「何って、キスをしただけだ」
「キスって…!」
こう言った家族のキスに慣れていないフォースは口をパクパクさせて動揺する。
遠い昔、アムロだった頃、母にこんな風にキスをしてもらった事を思い出す。
そして、不意に涙が溢れ、頬を伝う。
「フォース?」
「…あ…」
自分が泣いていることに驚き、呆然とする。
「ゴメっ…あれ、止まらない…」
そんなフォースを、シャアがもう一度、今度は強くその胸に抱きしめる。
「…アムロ…」
シャアに名を呼ばれ、更に涙が込み上げる。
「うっ…ふ…ぅぅ」
アムロの、フォースの人生が走馬灯のようにフォースの脳裏を駆け巡る。
そして、その人生の中で最も自分に影響を与え、心を震わせた人物が、今自分を抱き締めている。
『シャア…、俺は…貴方の事が…』
喉元まで込み上げた言葉をそっと飲み込む。
『彼の心はファーストのものだから…』
フォースは全てを出し切るように、シャアに縋って思い切り泣いた。
これで、諦められるように…。
暫く泣いて、ようやく落ち着いた頃、フォースはゆっくりとシャアから離れる。
「(シャア…)…ありがとう…」
その名は…呼べなかった…。今、その名を呼んで良いのは自分では無く、ファーストだけだから…。
「アムロ…」
シャアに名を呼ばれ、喜びが込み上げる。
「ふふ…、違うよ…俺は…フォースだ…」
涙を堪え、必死に笑みを浮かべながらシャアに答える。
「総帥…、俺…決めました」
「フォース?」
「“ゼロ”の記憶を消します…。フォースとして…これからの人生を生きたい…」
涙を零しながら、幼い顔に光る琥珀色の宝石がシャアを見上げる。
『貴方への想いが溢れてしまう前に…』
「……そうか…」
触れたフォースの腕から、その想いが流れ込んでくる。
ニュータイプ能力はアムロ程では無いにせよ、その想いはシャアにも伝わって来た。
きっとお互いの為にも…ファーストの為にも、それが最善の選択なのだと、自身に言い聞かせながら、シャアはフォースの言葉に頷いた。

そして数日後、フォースへの記憶処理は施された。
アムロとしての記憶を封印されたフォースからは、以前の様にアムロの気配を感じなくなった。
それを、少し寂しく思いながらも、年相応の子供らしく微笑むフォースに、これで良かったのだと自身を納得させる。
そんなシャアの耳元に、懐かしい声が届く。
〈大佐、この子は私が大切に守りますから…、安心してくださいね〉
金色の気配と共に、白鳥の白い羽根がヒラヒラと舞い落ちる。
「ララァ…?」
白い羽根を手に取り、シャアはクスリと笑う。
「ふふ、“彼”を君に取られてしまったな。もしかして、君が全て仕組んだのかい?アムロを手に入れる為に…」
〈ふふふ、大佐にも大切なあの子がいるでしょう?だからこの子は私に下さい〉
「そうだな…、私には私のアムロがいる…彼を、心から愛しているんだ…」
シャアは愛する恋人へと想いを馳せる。
消えてしまった“彼”への想いを胸の奥にそっと仕舞い込んで…。


end