風花
アキラ編
賑やかな町の喧騒から隔離された其処で、アキラは河を眺めていた。
水の流れに翻弄されながらも懸命に泳ぐ魚に、何の気無しに視線を注いでいた。
魚が空中に跳ねる。陽の光を浴びて一種の銀細工のように煌くと水中に深く潜り込んで見えなくなった。
幅広い河の流れに沿ってアキラは上流の方へと歩き出した。今日は雲一つ無い快晴であるにも拘らず、霊峰山から運ばれてくる冷風のせいか酷く肌寒い。
上流に行くにつれ、田畑が目に付くようになった。寒さに負けじと芽を出している草花を見てアキラは淡く微笑んだ。
今、此処には穏やかな時間の流れの中にある。だからこそ自分の心も穏やかでいられるのだろうと、ほんの短かな休息の時を得ることを自らに許せるのだ。
「あ……」
ちらちらと視界に花びらが舞う。アキラは其れに触れようと手を伸ばす。が、其れは手のひらに姿を留めることなく掻き消えてしまった。
「風花ですか…」
そう呟くとアキラは手のひらから視線を離し、上空を見上げた。
風に舞い、地に散る、儚い花びら…。
自分達(四聖天)の絆も、その程度のものだったのかとアキラは口の端をきつく噛んだ。鉄錆の味が口内に広がる。
(そんなことは無い)
アキラは決意を新たにすると、理想の実現に向けて再び歩き出した…。