風花
ほたる編
「あれ……」
壬生の地で一人目的も無く歩き回っていたほたるは、散るべきものも無いのに舞っている花びらを不思議な面持ちで見上げ、足を止めた。
口を開き、舌を伸ばす。
「つめたい……」
実体の無い花びらに、其れが風花だとようやく気付く。際限なく降って来る其れを見上げていると自分が逆に天に駆け登っているような錯覚に囚われた。
自身の感覚までが過去に逆上っていくように酷く曖昧なもののように感じた。
彼らと別れてから独りで過ごす時間がとても増えたと思う。
あいつらに出会う前までは、独りで居る自分というものが当たり前すぎて…逆に独りではない自分を考えると、義兄のことを連想させて酷く不愉快だった。
自分の人生に、ほんの気まぐれで交わった存在たち。別れた瞬間、それらは死合の相手へと変わった。
「最強の漢は俺一人でいい……」
いつか実現するであろうその闘いを強く望み、ほたるは炎でその儚き花弁を焼き尽くした…。