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残された心

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でも、なんて幸せだった事か、、。
旅の途中、困っていたり病の人を助け続た。その人々が笑顔になるたび、満たされて旅の力になったんだわ。
幽都に帰ってからこの子を産むまでは、人を助けて、感謝される事は無かったわ。
でも、心から満たされていた。
この子の存在が、、、この子が、私を幸せにしてくれたのかしら。

「お母さん、あっちの方に行ってもいい?。」
「良いわ、でも、峰、あまり遠くに行っては駄目よ。」
「は────い。」
息子はここが好きみたい。
ここが、特別な場所だってわかるのね。はしゃいでいて、転げるように駆けていく。
私は息子の「峰」と、桃花谷を訪れている。
ここはあの頃のまま。
ただ、あの日、私達が植えた桃が大きく育っている。

桃が、実を結んでいる。
そして私の隣には、、、、蘇蘇がいる。


「転げるみたいに、駆けていくよ。また足が速くなったみたいだ。」
「ふふ、その内に、私も蘇蘇も追い付けなくなるわね。」
私達の目が、走って行く峰を追う。
真っ直ぐな道の先、もう、だいぶ小さくなってしまった。
息も切らさず、速度も落ちず、どこまでも駆けていくようだわ。
私の肩を、蘇蘇が抱き寄せる。
「大きくなったなぁ。」
しみじみと蘇蘇が、言うわ。
「そうね。」
蘇蘇がいたから、育てられた。

蘇蘇を傍で感じられたのは、峰を産んでから、、、。
峰がお腹にいた時は、どんどん私の霊力は失われてゆき、何も出来ない弱い女だった。
でも、心細くも、不安もなかったの。
赤子を宿す幸せなのだろうかと、そう思っていた。
きっと、蘇蘇が生まれ変わるのだと、そう思っていた。
でも、生まれる体には、以前の記憶は無いのだと。
蘇蘇であるのなら、私との記憶なんてどうでもいいと思っていたわ。

産んでみてこの子は、蘇蘇でも、韓雲渓でも、そのどちらでもないのが分かったわ。
この子は峰なのよ。新しい生命なんだわ。

そして蘇蘇が、傍に居るのも分かったの。
嬉しそうに、でも心配そうに、峰を産んだばかりの私の顔を覗いてた。
とても、嬉しい瞬間。死んでも忘れないわ。
蘇蘇はずっといたんだわ、私の傍に。
幽都の皆が、蘇蘇が私の傍にいるって言っていたのに、私には分からなかった。
やっと見えた。やっと感じた。
蘇蘇。
蘇蘇。
蘇蘇。
二人で抱き合った、蘇蘇が力強く私を抱き締める。
蘇蘇も泣いていた。
蘇蘇、こんなに傍に居たのに、どんなに寂しかったかしら、、、。
ごめんなさい、蘇蘇。
ありがとう、蘇蘇。

私の長い旅が、終わった。


国中を廻って、私は蘇蘇の欠片を集めていたのね。
蘇蘇の魂は、私を頼りに集まった。
旅する中、私の蘇蘇への想いが、強まっていったのは、そのせいだったのね。
そして蘇蘇は私を守っていたんだわ


峰が生まれて2年程で、私の霊力は元に戻り、それまで蘇蘇と二人で幽都で峰を育てた。
いいえ、蘇蘇が助けて引き上げてくれるから、霊力は以前以上になったわ。

そして、私達は3人で幽都を出て、烏蒙霊谷に移り住んだ。
烏蒙霊谷にはもう、仙剣を守る役目はないわ。
烏蒙霊谷もまた、大地の力が噴出する特別な地、、、、。
そして何より、蘇蘇の故郷だわ。
蘇蘇の子供の頃のように、もうこの霊谷を封じなくても良い。
今、烏蒙霊谷は、流れ着いた者が住み着き、共に暮らしている。

私も蘇蘇も、この大地に生きる人が好きよ。
人々と、笑って怒って悩んで、共に生きてゆきたい。

「晴雪、ほら、向こうに人影が」
「あ。」
道の向こうに、三人の人影が、、。
一人は、峰だわ。
そして、あとの二人は、蘭生と月言。
蘭生は峰に手を引かれて、半分走らされてるみたい。

烏蒙霊谷から、私は皆の所へ、沢山の霊蝶を飛ばせたわ。
会いたくて。
みんなで会いたかった。

蓬莱で別れて以来、皆とは一度も会っていない。
あれから、二十年以上の歳月が流れた。
蘭生はきっと、良いオジサンね。

「、、、、。」
一瞬、私の肩を抱く、蘇蘇の手に力が入る。
「大丈夫、誰も怖がったりしない、。皆、きっと嬉しい筈よ。」
蘇蘇、大丈夫よ、何も心配はいらないわ。
絶対に大丈夫、皆、喜ぶはずだわ。
私は蘇蘇に、全力で微笑む。
「そうだな。」
蘇蘇も、笑顔を向ける。でも、どこか心配そうな、、。
天傭城で修行を積んだ若い日々、蘇蘇は陵端から、化け物扱いされて畏れられた。
蘇蘇のどこかにまだ、そんな記憶が残っているのね。

皆ならば大丈夫よ。
蘇蘇がここに居ることを、きっと喜んでくれる。
だって、誰もが一番会いたいはずだもの。
蘇蘇は幽霊ではないわ。肉体を取り戻すことが出来なかっただけ。
決してこの人は、私が作り出した幻なんかじゃないわ。
会えば、皆、分かる筈。蘇蘇、そのものなのよ。
峰だって、父と呼ぶの。



それぞれの愛があり、それぞれの結末があった。

蘭生は、あれだけ放蕩を尽したのに、姉の如沁の深い愛情を理解し、今は月言と共に、しっかりと生きている。

大師兄は、天傭城で掌門になった今も、蘇蘇の帰りを信じて、ずっと待っていると、広陌兄さんが言っていた。
蘇蘇を弟のように思い、運命に苦しむ蘇蘇を、ずっと傍で支えて来た。
血の繋がった兄弟よりも、深い絆で結ばれていた。

襄鈴は青丘の国にゆき、母を探すと言っていた。
きっと、親子で幸せに暮らしているわ。
妖魔だけれど、襄鈴は一途で善良だわ。明るい襄鈴は、あの頃のように、笑って暮らしているだろう。

様々な愛の形を織り成した物語。

私は二十年近くを、蘇蘇を探す旅に費した。
旅の途中に、私も、小恭と同じ事をしていると、気が付いた。
私はたった二十年、蘇蘇を探し歩いただけで、何度も絶望の淵に立たされた。
太子長琴や小恭が、どれだけ孤独で空虚なのかが、私には分かる。
太子長琴の仙霊は、自分の半身を数千年探し続け、小恭は巽芳の蘇りの方法を求めて、、、、そしていつしか、その心を孤独と絶望が満たしたのだわ。
長い長い時を、孤独と絶望に耐え抜いてきたのよ。

そして巽芳の無限の愛が、小恭を救ったのだわ。
最後のひと時、孤独だった小恭と太子長琴が、巽芳の深い愛を知ったのだわ。

小恭も、太子長琴も、傷付いた心を癒す温もりを求めていた。

小恭の傍にはいつも、姿の変わった巽芳が、、、。
老女 寂桐として小恭を守っていたわ。
あんなに探していた巽芳が、こんなにも彼の傍に居たのに、、、。
でも、小恭が分からなかった事を、私は責めることはできないわ。

こんなに傍で守られていたのに、、私だって分からなかった。
思っていた形と違っただけなのに、気が付かなかったの。

小恭と巽芳の魂も、あの時に砕けてしまったけれど、今は二人でいるのかしら。
この空のどこかに、、、、、。


桃花谷を訪れようと決めた日、霊蝶を放った
蘇蘇の帰りを、待ち望む人の元に。
どこにいても、伝わる様に。

不意に背後から、霊力と人の気配がする。
「屠蘇!!!」
大師兄がそこに立っていた。法術で飛んで来たんだわ。
、、やだ、大師兄ったら、もう泣きそうよ。
「大師兄!!」
蘇蘇も堪らす、大師兄の側に行って二人で肩を抱き合っている。
遅れて飛んできた紅玉さんと芙蕖さんも、共に抱き合い喜んでいるわ。
作品名:残された心 作家名:古槍ノ標