こらぼでほすと 秋刀魚4
そういうことなら、なんとかなるかなーと、ニールが頷いたら、じじいーずは拍手だ。こんな手にひっかかってくれるなら、確かにトダカが評する世間知らずさんだとは思う。普通は、トダカに相談してみます、とか切り返すものだ。ハイネのほうは、トダカに報告するつもりだ。たぶん、阻止するだろう。おのれの若い頃の話なんて盛り込まれて話されるのは迷惑だと感じるだろう。私も同伴するよーとか笑顔で言うに違いない。
階下のエントランスには十数名の三桁組がやってきていた。対応は、ダコスタがしている。もちろん笑顔でスルーの方向だ。カガリ様からの親書だから、トダカとキラに手渡しせねばならない、とか言って帰らない。そんなもんくらいでダコスタも許可なんぞしない。しばし、おまちください、とか、丁寧にお辞儀している。居丈高に怒鳴るバカもいるが、その程度でビビっていては、虎の相手なんかできないし、もっととんでもないのが店にはいる。坊主の殺気なんてものと向き合っているから、ただのスズメのさえずり程度にしか耳には届かない。
「ただ、これを渡すだけだ。どけっっ。」
「申し訳ありません。うちは会員制で、店にお入れするわけにはまいりません。少しお待ちください。」
「われらは、オーヴのトップだぞっっ。出入りする権利はあるっっ。」
「いいえ、うちの店は厳正な審査に通過していただかないと入店は認められません。」
「その審査を、今すぐしろっっ。」
「審査には数日を要します。」
「われらの身分は、この親書を持っているだけで判明している。」
「身分は関係ありませんので。」
とかなんとか、のらくらと躱していたら、背後の扉が開いた。最初に出て来たのは爾燕で、紅、悟空、虎と続いて最後にトダカだ。
「何事だい? ダコスタ。」
「こちらの方たちが、無理に入店なさろうとされますんで、止めてました。カガリ様の親書を、お持ちだとおっしゃいまして。トダカさんかキラ様に取次を、と。」
丁寧にダコスタが説明する。それは、ご苦労さま、と、トダカは微笑んでから、厳しい顔になって、三桁組の前に出る。では、親書を預かろう、と、手を出すと、今度はキラ様でないと、とか言い出した。どうあっても店に入りたいらしい。
「入店には審査がある。」
「ですが、トダカさん、一桁組は審査など受けておられないはず。われらも入る権利はございます。」
「あれらは私が招待したから入れるんだ。おまえたちを呼んだ覚えはないね。」
「われらもウヅミーズラブのものです。」
「だから? 」
「入れるはずです。」
「ふーん、ウヅミーズラブであれば、どこへでも押しかけていいのかい? そんな無理は通らないねぇ。お客様に、ご迷惑だから帰ってくれ。」
「親書はカガリ様からキラ様に、と、申し遣ってあります。」
「では、渡さなくていい。・・・・・おまえたち、自分たちが、どれほど失礼なことをしているのか、わからないのだね。」
権力を笠に着ての態度は、とても無様なものだ。どこであろうと入れるという勘違いをされても困る。そんなものは吉祥富貴では通じない。さて、帰ってもらおうか、と、トダカが周囲に視線を投げる。はいはい、と、スタッフがトダカの前に出てくる。こんなことをしたら国際問題になるぞ、とか、おっしゃるので、トダカは大笑いだ。
「そんなことを言うのなら、やってみるといい。ホストクラブに押し入ろうとした馬鹿者たちということで、こちらから抗議するだけだ。どちらが恥かわかるだろう。」
さあ、追い出してくれ、と、トダカが言うとブルドーザーのように爾燕と紅、悟空が三桁組を出口に押し出していく。表に出されて、まだ抗議するので、警察でも呼ぼうか? と、トダカに言われて、さすがに萎れた。どうか、入れてほしいとか、まだしつこいので、とりあえず悟空が投げ飛ばす。まあ、ケガさせてはいけないので軽く転がす程度だ。悟空が三桁組が持っていた親書と呼ばれるものを取り上げた。
「トダカさん、これ、どーする? 」
「いらないよ。カガリ様が、私やキラ様に、そんな手紙なんて寄越すことはないんだ。どうせ、何か走り書きしたものだから返しておきなさい、悟空君。・・・・・いい加減にしなさい。まだ、やるなら徹底的にやってもらうが? 」
一睨みしたら、土下座が始まったので、トダカは踵を返す。どうせ、親書なんてものはないのだ。用事があるなら、カガリから直接、電話かメールがくるのは、はっきりしている。さあさあ、中へ入ろう、と、トダカがスタッフに声をかけて玄関を入る。もちろん、店の扉は鍵をかけた。そこで騒いだところで、こちらは痛くも痒くもない。
作品名:こらぼでほすと 秋刀魚4 作家名:篠義