こらぼでほすと 秋刀魚4
内心でハイネはツッコミしているが、顔はポーカーフェイスのままだ。明らかに、ウヅミーズラブのじじいたちは好感満載になっている。とうとう、オーヴ本国のじじいーずまでたらしてしまうのかいっっ、と、スタッフは微笑んでいる。そこへノックの音がしてキラが顔を覗かせた。「スズメが一杯だよ? 」 と、言うと、トダカは立ち上がる。三桁組が押し寄せているという意味だから、撃退してくるに限る。
「俺たちも出張ろうか? トダカ。」
「いやいや、紅くん、手伝ってくれるかい? 」
「喜んで。キラ、ここを頼む。」
「了解。悟空も行ってきて。」
「おう、凹にしてくる。」
「ケガさせるなよ、悟空。」
「わーってるわーってる。」
悟空と紅、たぶん、下の手伝いのスタッフもいるから撃退するのも簡単だから、気楽に、みんな、出ていく。そして、キラが、ちょこんとトダカの空けた席に座った。
「それらの名前はわかりますか? キラ様。」
「あとで防犯カメラの映像を渡すから、よろしく。」
「承知しました。」
顔さえ判明すれば、あとで一桁組から締め上げられる。やっておかないと吉祥富貴にも迷惑がかかるから、そこいらはきっちりとやるつもりだ。
「なぜ、学ばないかなあ、あれらは。」
「トダカやキラ様に会いたいんだろうが。意味はないんだがなあ。」
「それとトダカの娘さんだ。どこかで接触して繋がりが欲しいんだろうな。」
「俺? 」
「そうそう、きみ、大人気なんだ。以前、忘年会の時に映像が出回ったもんで。一度、会いたいとか言う熱が上がっててね。うちのやつらも、きみに話しかけたいとか言ってたんで死ぬから、やめろ、と、止めておいた。」
「あー死ぬでしょうねぇ。ニールのお父様は、過激な方なんで。」
「世間知らずな箱入り娘だと思い込んでるからなあ、トダカさん。」
「そういう意味だと三蔵さんが来てなくて、よかったね。確実に狙い撃たれるよ、マグナムで。」
「あははは・・・・撃つでしょうねぇ。三蔵の独占欲も過激だから。」
「いやいやいや、キラ、八戒さん? そんなことしませんよ。ハイネ、その形容詞、おかしいからっっ。箱入りって。」
「だって、ママにゃん。トダカさんは、いつも俺たちにも、そう言うぜ? 何にも知らなくて可愛いから心配だってさ。」
「はあ? 」
「ニールくん、それ、私達も言われているよ。だから、きみの傍から離れられないってさ。」
「いいじゃないか。トダカにしたら、ニールくんをかまうのが楽しいんだからさ。『お父さん助けてコール』は、ガンガン使ってやってくれよ? 」
「そんなことまで話してんですか? トダカさん。」
「ああ、伊勢海老が捌けなくて、私が処理してるんだ、とか楽しそうに自慢してた。」
「うわぁーもう。恥ずかしい。・・・・あれは動くから、なんかおっかなくてできないんです。コツを教えてもらったら、なんとかなるとは思うんだけど・・・」
「教えないだろうなあ。頼られるのが楽しいんだからさ。」
「そういうのは頼ればいいのさ。お父さんとしては、ニールくんに尊敬の眼差しで見てほしいものなんだ。」
「くくくくく・・・・世間知らずにしてるのはトダカだよ。」
「トダカさん、ママにだけ甘いんだよねぇ。僕らにはしてくれないもん。」
「そうなのか? 」
「うん、ママにはしてあげたいから教えないんだって。」
日頃から甘やかされているとは思っていたが、公言しているとは思わなかった。とにかく、トダカはニールのことは猫可愛がりで、さんざんっぱら甘やかしたいらしい。
「まあまあ、ニール。シンやレイは親離れしてますからね。もう手を出せないからですよ。それに体調が悪くて心配していたから、過保護になっちゃったんだと思います。諦めてください。」
「それはわかってるんですが・・・・なんか噂だけ一人歩きしてそうで怖いなあ。」
「じゃあ、噂と違うところがあるのか、おじさんたちに確認させてくれないか? 」
「それはいいな。トダカが話していることと、実際の娘さんは乖離しているのか、確かめれば済むことだ。どうだろう? おじさんたちと食事でもして、もし、ニールくんが世間知らずの箱入り娘じゃないなら、おじさんたちがオーヴに蔓延している噂は消化してあげるよ。」
「まだ十日くらいは滞在するから、ブランチぐらいは付き合ってくれないかなあ。」
「えーっと、実際は、こんなですが? お客様。」
「ここは夢の国だからねぇ。きみも仕事だから、本来の姿ではないだろ? 外で会わないと、そこいらは、なんとも。」
「おじさんたちも、仕事ばかりじゃ味気ないんだ。昼なら飲むわけでもないし。」
「トダカの若い頃のことを教えてあげよう。いろいろとやらかしてておもしろんいだよ? 」
「そうそう、あんなこととかこんなこととか・・・・いやいや、もうネタは溢れるほどにあるんだ。」
その言葉に、ニールは興味を示してしまった。確かに、トダカの若い頃は、いろいろとおもしろい話もあるだろう。それは、ちょっと聞いてみたいとは思う。
「それは、ちょっと聞いてみたいなあ。トダカさん、自分のことは、あんまり話さないから。」
「そうだろそうだろ? トダカだって、いろいろとやらかしてるからさ。どうせ、娘さんの前では格好つけているはずだ。」
「ウヅミさんの恋人役をしてたのは聞きましたよ。縁談を持ち込まれないための予防線だったとか? 」
「うん、あれは傑作だった。ウヅミ様が、わざわざ愛を語らうフリをするんで、トダカは笑いを我慢するのに苦労してたよ。私たちも、腹筋が鍛えられた。」
「あれは、ひどかった。」
「その頃の写真なんてあるんですか? 俺、トダカさんの若い頃の姿が見たいと思ってたんですよ。カガリが言うには、美青年だったと。」
「まあ、美青年ではあったな。」
「というかさ、あの頃のトダカは、もっと細くてすっきりしてたから。」
「たぶん、写真はあると思う。データなら本国から転送させられる。見たいなら、用意させるよ、ニールくん。」
じじいーずともなると、長年培ってきた手練手管なんてものもあるわけで、ニールが興味のあるところを盛り上げるくらい訳も造作もない。そして、ニール以外のスタッフは、さて、どうやって収拾つけるかなあ、と、のんびり構えている。どうせ、この話がトダカに届いたら阻止されるのは目に見えているから、お客様が遊んでいるのは笑顔でスルーだ。キラのほうも興味津々で見守っている。
「おじさんたちの空き時間を知らせるから出てこないか? ニール君。」
「俺、一人ではないですが、いいですか? 小さいのがついてきます。」
「さっき、きみの腕に懐いていた子だね? もちろん、連れておいでよ。迎えのクルマを差し向けるから都合がつくならさ。」
「午後前から三時くらいなら空けられると思いますが・・・・毎日は無理です。亭主が怒ります。」
「ああ、一度か二度くらい。」
作品名:こらぼでほすと 秋刀魚4 作家名:篠義