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こらぼでほすと 秋刀魚5

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店のホールに戻ったら、付き添いの二桁組が神妙な顔で待っていた。トダカが表に出たのだから、何かあったのだろうことは予想がつく。
「大したことじゃない。スズメが騒いだだけだ。・・・・それから、きみらも今回限りの入店だから、今後、予約しようとしても入れないからね。」
「それは承知しております。もし、必要でしたら、こちらで対処いたしますが? 」
「いいや、それは必要ない。ああ、ウヅミーズラブだから、うちの店の審査に通るとか、ふざけたことを言うのがいたら止めておいてくれ。そんなもので審査は通過しない。」
 政治的な利用なんて、吉祥富貴では認めない。なんせ、スタッフが、その政治利用なんぞされては困るし、スタッフ当人にとっても迷惑なことだからだ。キラたちだけではない。人外組やらマイスター組は、そんなものにさらされると店に出られなくなる。そう考えると一桁組を呼んだのも、ちと問題だったかな、と、トダカも思う。階段を上ってVIPルームに入ると、にぎやかなことになっていた。キラとは逆のニールのとなりに座り込む。
「帰ったか? 」
「ああ、強制的に追い出した。・・・うーん、失敗だったかな。ここで騒いだほうが無難だと思ったんだが。」
「いや、ここで正解だぞ、トダカ。ここなら、外部からの接触も絶てるし、娘さんに接待してもらえるからな。」
「ニールくんに、いろいろと過去話を語るというのは、実に有意義だ。」
「まったくだ。こんな美人さんに酌してもらってキラ様も一緒に騒げるのは愉しい。」
「美人って・・・みんな、野郎なんですよ? お客様。目の錯覚です。」
「いやいや、ニールくん。美人というのはね、女性だけに使う言葉ではないんだ。綺麗なものは、美人と称していい。トダカだって、ウヅミ様に、『私の可愛い美人さん』 と、呼ばれていたんだからさ。」
「ウヅミさんって、おもしろい方だったんですねぇ。」
「そこは、器の大きい方と言ってくれ。」


 会話は続いているが、ニールはトダカにビールを酌している。お疲れさまです、という言葉もついているから、トダカも笑顔だ。
「トダカさん、ウヅミさんに愛をささやかれたのは大変だった? 僕、ものすごく厳しい人だと思ってたから、びっくりだよ。」
「厳しい方ではありましたよ? キラ様。ただ、まあ、あっちこっちからの縁談話を断る口実にしてましたからねぇ。笑っちゃいけないので腹筋が鍛えられました。・・・・セリフは適当だったんですが、あれは過去、奥方様に囁かれていた言葉だったんでしょうねぇ。ウヅミ様も、たまに笑いをかみ殺してましたから。あはははははは。」
「そうそう、外部のものがいなくなると、二人して笑い転げてたからなあ。こちらも大変だったぞ? 笑っちゃいけないし、スルーしなくちゃならんかったからな。」
「うむ、いい余興だった。」
「キスとかもあり? 」
「ありましたなあ。フレンチでしたが。」
「当たり前だ。ウヅミ様はノリノリだったが、どっちも嫌々だったんだぞ。」
「たまにやっておくと効果があるっておっしゃってたが、あれは絶大だった。しぱらくは縁談話もなくなったからな。」
「お父さんも、野郎同士のキスを経験してたんですね。・・・俺も慣れました。」
「慣れるもんだね、娘さん。ディープじゃなければ大したことはない。」
「ママ、それはひどくない? 僕のキスは消毒用なのに。」
「キラのはいいよ。問題なのは、鷹さんとかハイネとか虎さんだ。ディープにもっていこうとするから寒い。あれはダメだ。」
「いいじゃねぇーか、ママにゃん。俺のは愛のあるキスだぞ。」
「いらねぇーよ、そんな愛。」
「あれ? ニールくん、浮気しているのかな? 」
「違います。みんな、からかうんです。最初は、びびりましたが、ようやく慣れました。」
「俺、三蔵さんのは慣れないぞ? 」
「俺も亭主のは怖い。本気で囁かれると泣きそうになる。」
「「「「は? 」」」」
 事情を知らない一桁組が、速攻でツッコミだ。酔うと口説き魔モードになって、その記憶は翌日には残らないのだ、と、ハイネが説明するが、それでも不可思議という顔だ。
「結婚しているんだよね? トダカの娘さん。」
「結婚と言っても同居しているだけなんですよ。俺も三蔵さんもノンケなので、そういうことはありません。」
「それ以外は、いちゃいちゃしているけどな。俺の精神的疲労は並みじゃないぞ? ママにゃん。」
「何もおかしなことはしてないだろ? 」
「二人の空間作って、うふふと微笑みあってるのは? 」
「作ってない。」
「亭主が、おまえにメシ食わせてるのは? 」
「あれは、俺が食わないって亭主が無理矢理食わせてるだけ。ハイネだって、俺の口に押し込むじゃないか。あれと一緒だろ? 」
「デートしてるよな? 」
「俺たち以外が留守の時に、食事に出てるだけだ。ついでに買い物したり散歩するくらいで、デートじゃないよ。」
 ここまで会話して、「つまり、こんな感じの新婚さんです、お客様。」 と、ハイネが一桁組のほうに笑顔を振りまく。一桁組は、あーーあーはいはい、と、頷いている。ノンケでやることはやってないが、いちゃこらと暮らしているという意味だ。
「お父さんが一緒に食事してても、亭主に、あーんされてるよね? 娘さん。」
「お父さんも、俺の口に、あーんしてますよね? 」
「だって、娘さん、自分のことに無頓着で心配になるんだよ。人の世話ばかりして自分は食べないんだからさ。」
「俺は小食なんです。」
「小食ねぇー食べないだけじゃないだろ? 脱水症状って飲まないのがメインだからさ。」
「うっっ。」
「もうちょっと栄養のある物を食べてほしいんだけどねぇー娘さんや。」
「あう。」
 トダカに笑顔でツッコミされると、言い返せない。事実、具合が悪いと食べない飲まないで、さらに悪化させているからだ。
「トダカの娘さん、好きな食べ物は? 」
「これといっては・・・・刺激物は食べないようにドクターから言われてます。」
「甘いものとかさ、ほら、肉とか魚とか。今、食べたいなーってものは? 」
「じゃがいもかな。あれなら、具合が良くない時も口にしているよーな。」
「果物は、どうかな? 」
「食べますよ。オーヴのマンゴーはおいしかったです。」
 ニールにしてみると、用意している料理は誰かが食べたいというもので、自分が好きで作るものはない。それに、ぼんやりしていると口に投げ込まれるので、それを食べているから、おいしい、と、感じて、もっと、と、思うものもない。強いて言うなら、じゃがいも料理は食べやすいと思うぐらいで、毎度、用意するというもんでもない。好きだから食べたいという感情はあまりないのだ。
「つまりさ、それが娘さんの無頓着なところでね。私は心配になって食べさせたくなるのさ。婿も、同様だ。娘さん、ほっておくと自分からは食べないから、婿が口に投げ入れている。娘さんの子供たちも同様。」
 ニールが壊れているところだから、トダカは簡単に説明する。一桁組も、なるほど、と、納得したように頷いた。そりゃ、そんなことなら世話したくなるし過保護にもなる。当人は、そこいらに気付いていないなら、なおさらのことだ。
「つまり、和食のほうがいいのかな? ニールくん。」
作品名:こらぼでほすと 秋刀魚5 作家名:篠義