こらぼでほすと 秋刀魚5
一桁組を倒すのは訳もない。その後、吉祥富貴のスタッフでニール争奪戦をやるのがメインだ。トダカは真正面からやりあうつもりはない。どうせ年少組も参戦するから、その隙を狙う。どうせなら敗者復活で一桁組も参戦してもらって人海戦術というのもありだ。
「あの、そんなに真面目に取り合いしなくてもいいんじゃないですか? 俺が適度に全員の相手をすればいいんでしょ? 」
「ああ? こういうのは、はっきりさせておくのがいい。」
「そうさ。たまには、一日独占させてもらうという、ご褒美なら、みんな、やる気が出るんだよ、娘さん。」
「でも、トダカさん、そういうことなら一桁組さんとの食事に、一緒に行けばいいでしょ? これから二週間の暇つぶしだって、おっしゃってたじゃないですか。」
「しょうがないから一日か二日は付き合おうかな。面倒だから、うちに呼べばいいね。」
「昼なら、寺でもいいですよ。そのほうが安全でしょ? 」
「いいかい? 婿殿。」
「寺はオールセルフサービスだ。別にメシ時に余計なじじいが混ざっててもかまわない。」
「なら、そういうことにしておこうか。そっちは、私が段取りするよ。」
「食事は、なんでもいいんなら作ります。」
「年寄りだから、丼ものとか麺類なんかでいいよ、娘さん。どうせ量は必要じゃない。」
「そういうのなら、任せてください。」
いつもの年少組のおやつを多めに用意すればいけそうだ。合いの手にビールが入るなら、そこいらだけは各人の好みを持ち込んでくれれば問題はない。
坊主のほうは、今日のメニューを口にする。もう、その話題は、ここまで、ということだ。
「中華そば。」
「はいはい、今日のおやつは、それで。他には? 」
「ザーサイはあるか? 」
「ビンのなら。あと、クラゲときゅうりぐらいで、どうです? 」
「あとは適当でいい。」
「了解。そういや、あんたは運動会ってやってました? 」
「いや、俺はやってねぇーな。サルは高校に通ってた時はやってたはずだ。なんか説明はしてくれた。」
「俺も、特区のは初めてですよ。騎馬戦すら知りません。」
「俺から落ちなければ勝ちだ。」
「ん? 俺、あんたに担がれるんですか? 」
「三人で担ぐ。たふん、カッパとイノブタと俺だ。で、おまえがハチマキをして、それを盗られるか、俺らが崩されて、おまえが足を土につけたら負け。」
「バランスは、とらなきゃダメだなあ。大丈夫かな。」
「心配すんな。おまえに手をかける前に、俺らが叩き潰せば楽勝だ。」
「ああ、それなら、なんとかなるかな。」
「ふふふふ・・・でもね、娘さん。悟空くんは敵なんだ。」
「え? 」
「一桁組とやる時は味方だけど、店のメンツでやる時は、全員が敵になるので気を付けるように。」
トダカは楽しそうに説明する。三蔵チームを店のメンツで潰しにかかるので、そうなると悟空は危険だ。そこいらが交戦してくれれば、勝機が他にも出てくる。
「ちっっ、サルは厄介だな。先に潰すか。」
「ん? 本気でやりあうんですか? 」
「そりゃ本気だよ。一日独占するのが、ご褒美なんだからさ。」
どうあっても本気でやるらしい。まあ、ニールは別に困ることではないからいいのだ。どうせ、いつものように食事したり散歩するぐらいだから、誰の独占であってもいい。
「三蔵さん、ケガさせるほどはダメですよ? 」
「本気なら本気だ。それが基本だからな。」
「一日のことでしょ? 」
「徹底的に潰しておかないと、今後、うるさい。」
「いやいや、本気にならないでっっ。悟空ならケガすることはないけど、他の人はケガします。」
「うぜぇ。心配すんな。急所は外す。」
「当たり前です。蹴りの程度は三割ぐらいで。そうしないと気絶しますよ、トダカーズラブの方たち。レクリエーションで気絶はまずい。」
「わかってる。・・・おい。」
「はいはい。」
『おい。』 で、新しいお茶が運ばれてくるのは、熟年夫婦のノリだが気にしてはいけない。寺では、これが日常だ。
ウヅミースラブ一桁組は、ちゃんと食事にやってきた。午後近くに、全員がトダカと顔を出した。食事は軽食をニールが準備するとのことだったので、適当にオーヴの果物やらを土産に持参した。寺は、オールセルフサービスなので玄関で挨拶しても誰も出て来ないから、トダカが入れ、と、勝手に玄関を上がる。居間に顔を出すと坊主が卓袱台で仕事をしていた。
「すまないが、一緒させてもらうよ? 婿殿。」
「おう。」
「うちの子は? 」
「敷地内にはいる。」
「そうかい、じゃあ、とりあえずくつろぐとするか。・・・・こっちが、私の友人。今度の騎馬戦の敵だよ。」
「おう。」
背後に立っている一桁組を紹介するが、坊主は顔も上げない。別に、トダカの友人に挨拶する必要は感じないらしい。
「トダカ、挨拶は? 」
「いらないんだ。ここはオールセルフサービスなんで、適当にしてくれればいい。ちょっと娘さんを探してくるよ。飲み物は冷蔵庫にあるから飲みたい者は自力で頼む。」
墓地か脇部屋あたりにいるだろうから、トダカは探しに行くことにする。それなら、私たちも探すとしよう、と、一緒に連れ立つ。脇部屋にはいなかった。本堂の案内をしていると、墓のほうからニールとリジェネが戻ってくる。
「わぁーすいません。もう到着されてたんですね。」
「慌てないさ。墓地の掃除かい? 娘さん。」
「ええ、もうちょっと後からいらっしゃると思ってたんで。はい、リジェネ、挨拶。」
ぺっとりとくっついているリジェネにニールが声をかけると、ぺこんと、お辞儀した。それから家のほうへ入っていく。その後から悠々とハイネも戻って来た。
「早起きだね? ハイネ。」
「お歴々のみなさんが来るのに寝てられないでしょ? いらっしゃいませ、一桁組の皆さま。」
来訪の予定は聞かされていたから、ハイネも起きていた。まだ時間があるからと墓地の清掃していたので、時間近くに呼び戻したのはハイネだ。
「ハイネ、ニールくんのご亭主は不機嫌なのか? 」
「え? いや、いつも通りですよ。」
「口も聞いてくれないんだが? 」
「ああ、みなさんはママにゃんの客だから、挨拶する必要を感じてないだけです。ここでは地位も年齢も関係ありません。あの坊主が、ここのてっぺんです。基本、オールセルフサービスなので好きにしてください。」
自分の客なら挨拶ぐらいはするが、それも適当だ。寺に誰が来ても、それは変わらない。だから、どっかの国家元首様も天下の歌姫様も、気楽に好き勝手やっているのだ。
作品名:こらぼでほすと 秋刀魚5 作家名:篠義