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intermezzo~ パッサウ再会篇4

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その写真はあの懐かしい愛する人々が集う新ミハイロフ屋敷の庭で撮られたもので、今よりやや若いアレクセイがそっくりな面立ちの息子と肩を組み、素朴な白いブラウスとロングスカート姿に髪を自然に下ろしたユリウスが小さな幼児の娘を膝に抱いたものだった。
黒髪のキリリとした美貌の女性と、品のいい老婦人、そして執事らしき身なりの男性も申し訳なさげに混じっている。

「幸せな様子が手に取るように分かる…とても素敵な写真ね。一緒に写っているのは…あなたの家族?」

レナーテに訊かれたユリウスがコクリと頷く。

「この方は、アレクセイのお祖母様」

「上品な方ね」

「アレクセイの家は…元々侯爵家だったんだ」

「と言っても兄貴の反逆事件で爵位はとうに剥奪されてるけどな。…そもそもその前に家はとうに落ちぶれてた上に、俺は妾腹の雑種だ」

アレクセイがサラリと語った身の上は、奇遇にも娘の身の上とよく似たものだった。

二人はオルフェウスの窓で出会ったからというだけではなく、知らず互いにシンパシーを感じ取って、強く惹かれ合ったのかもしれない。

「この方は?」

レナーテが写真のアルラウネを指さす。

「彼女はアルラウネ。…アレクセイの亡くなったお兄様の婚約者だから、ぼくらにとっては義理のお姉さんにあたる人。聡明で美しくて、勇気と行動力があって…。女の子に戻ったぼくに一から女性としてのたしなみを教えてくれたのも彼女だった…。ぼくのお姉さんで、憧れの女性。だから…娘が生まれた時に迷わず彼女の名前を貰ったんだ」

そう語った娘の表情からは、彼女への深い尊敬と思慕の情が窺えた。

「そうだったのね…。この方が…あなたをこんなに素敵な女性に育んでくれたのね。母さん、いつかこの方に会って…お礼が言いたいわ。愚かな母親のしてあげられなかった事を、変わって娘に授けてくれて本当に感謝します と。この子が女性として幸せな人生を歩んでいるのは、あなたのおかげです と」

そう言ってレナーテは目元を拭った。

「…母さん」

ユリウスがそんなレナーテの肩にそっと手を置く。

「俺はこの女性を覚えてるぞ。確か…お前の婚約者とかで…度々学内演奏会にも姿を見せていた女性だよな?」

しんみりとした空気を払拭するように発したヘルマンの一言にアレクセイが答える。

「ああ。ドイツにいた頃はその方が色々都合がいいと思ってな。よく覚えていたな」

「クラウスの美人の婚約者と言えば、当時かなり有名だったぞ。男子校だしな」

「初めて彼女の事を目にした時は…その美しさに圧倒されると同時に…すっごく敗北感を感じたなぁ。ああ、こんな美しい人が傍にいたのじゃ…永遠にぼくなんか振り向いて貰える事なんてないな…と。バカだよね。振り向くも何も女の子でさえなかったのに」

「そんな事思ってたのか⁈まぁ…男か女かは…別として、お前は当時もむちゃくちゃ可愛かったぞ?でも、その気持ち…今聞いても嬉しいよ」

そう言うとアレクセイはユリウスの目の高さに屈んで彼女の瞳を覗き込み、ゼバスの頃のように頭をポンポンと撫でると、彼女の唇にチュっと音を立てて口づけた。

男の子の頃の姿しか知らない母親とかつての恩師の前で夫にキスされたユリウスが、思わず耳まで真っ赤になって俯く。

「ムッター、真っ赤だよ。ムッターの、こういうところ、息子の僕から見ても抱きしめたくなるほど可愛いんだよなぁ」

「ムッター、真っ赤〜」

息子と娘にそんな自分の様子をからかわれて、ユリウスが俯いた顔を両手で覆う。

「もう…、からかわないで!二人とも」

消え入りそうな声でそう言ったユリウスの身体をアレクセイがギュっと抱き寄せる。

「確かに、女性に戻ったユリウスを一から女性として導いたのはアルラウネだけど…こういう可愛らしさは…こいつの本来持っていたものだと思うんだよな。俺もこいつの、こういうところ、堪らなく可愛いと思うぜ」

そう言ってアレクセイが腕の中のユリウスの金の頭に口づけた。

「ユリウス、顔を見せて」

レナーテがそっと顔を覆ったユリウスの手を下ろさせる。

「母さん…」

「あなた、とても愛されているのね。昔母さんに見せていた表情とは全然違う…とても柔らかな女性らしい表情をしている。…いいえ、あなたは昔からそういう子だった。それを無理に抑圧していたのは…他ならぬ私だったのよね。本当にごめんなさい。あなたが、あなたの心が壊れてしまわないうちに、私のような愚かな母親の元から巣立って行った事に…本当に心から良かったと思うわ。アレクセイ、私の愛しい娘を忌まわしい人生の呪縛から解き放ってくれて…感謝します」

レナーテが娘の頰を撫でながらもう片方の手を、娘の夫の肩にそっと寄せた。

アレクセイはそんなレナーテに首を横に振って見せると腕の中のユリウスごとレナーテを抱きしめた。

「あなたとユリウスは…本当にそっくりな親子です。ユリウスの持っている女性らしさ、女性としての魅力は…紛れもなくあなたから受け継いだものです。…ありがとう。ユリウスを、こんなに美しく愛らしい、俺の喜びの全てである女性を…この世に生み出してくれて。あなたに心からの感謝と尊敬を捧げます」

そう言うとアレクセイは腕の中の妻とその母親をより一層強く抱きしめた。