14の病
怒鳴る俺に、アメリカは特に取り合わず「ああ、もうそんな時間なんだ。どうりでお腹が減るわけだよ」とかなんとか言いながら、のんびり時計を見たりしている。
その暢気そうな様子に腹を立てた俺は、いつもの慣れきった考えを浮かべる。
でも、折角こいつが来てるんだ。今度は、いつ来るかわかんねぇ。
だったら、俺の料理が不味いだなんて言われなれた文句くらい……。
と、そこまで俺考えたところで、アメリカがこちらへ向き直った。そして、不意に笑いを引っ込める。
「それとも……俺がここにいると困るかい?」
そう言った声は、らしくない程静かに響いた。
俺は一瞬目を見開いて、次にその時自分の手が、いや、手首を掴んだままのアメリカの指が微かに震えていることに気付いた。
それが不思議で、でもなぜかなんてわかっている。
────くっそ、畜生。
「…は、はなせ。よ」
小さく言うと、アメリカは一瞬どこかが痛むように顔を顰めた。
対して俺も、顔を顰める。舌打したい気分だ。
───こんなでかい手してるくせに、指震わせやがって…。おまけにそんな顔しやがって。
「……飯、作れねぇだろ!」
ヤケ気味に怒鳴ると、アメリカの顔がぱっと明るくなった。
それに、俺は内心絶叫する。
あああああああああああ!! 馬鹿、かわいいんだよ!!
「───っ、か、勘違いするなよ。腹減ってたら話にならねぇからだからなっ!!」
ヤケ気味に怒鳴った俺に、「そうだね」とアメリカは頷いた。
「話すことは、沢山あるし」
含みのある言い方をしたわりに、その声は嬉しさを隠しきれないように弾んでいる。
それを聞いて、また畜生と思う反面、嬉しいとも思う。
こいつが笑うと、俺も嬉しいんだ。それは、出会ったときからずっとそうだった。当たり前のことなのに、なんだか久しぶりに思い出したような気がする。
それが、今日これからの『話し』の答えになるかどうかはわからない。ことは複雑だからな。
でも「俺も手伝ってあげるぞ!」なんていいながら、俺をキッチンへとひっぱっていく、そのでかい手から伝わる熱が、やけに気になる。
振り払って逃げようにも、相手は帰らないと言い張るし、気がかわったりもしない。
じゃあ、腰を据えてじっくり話をしても、いいんじゃないか?
とりあえず、飯だ。飯。その後、紅茶を飲んで……。
「コーヒーないのかい?」
「ねぇよ! 馬鹿!!」
怒鳴りつけると、笑い声がかえってきた。
それがあんまり楽しそうなんで、俺もつられて少し笑った。
END
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