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intermezzo ~パッサウ再会篇5 1/2

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「さ、お母さん。早くお姉さんの髪、結ってあげなよ。ずっと…念願だったのでしょう?お姉さんの髪を結ってあげるの」

エレオノーレに促され「…そうね」とレナーテが再び手を動かし始める。

「お姉さん、お母さんね。昔私の髪を結ってくれていた時に、いつも切なそうな顔をしていたの。勿論一瞬よ?その時に…ああ、お姉さんの事を考えているんだなぁって…。ゴメンね。それから…お母さんのエゴに、15年も付き合ってくれて…ありがとう」

妹の言葉に、ユリウスは目で「いいの」と答えて、妹の手に自分の手を重ねた。

「あなたは…優しい子だね。こちらこそ…ゴメンね。親不孝な姉の分まで、母さんのそんな想いを受け止めさせる事になってしまって…。ありがとう。ぼくの分まで、…母さんに寄り添ってくれていて」
万感の思いを込めて、ユリウスが手に取った妹の手を、自分の頬にすり寄せた。

「出来た。…どう?」

その声にエレオノーレが、ユリウスに手鏡を渡す。

結い上がったヘアスタイルは、今風のものではなく、前時代ー 、ベルエポック風のふんわりと膨らみをもたせて結った女性らしい柔らかな形だった。

「ちょっと古くさくない?」

すかさずエレオノーレが髪型に茶々を入れる。

「…母さんだ」

鏡を見たユリウスが一言呟いた。

「あの頃の…母さんだ」

もう一度そう言うと、嬉しそうに結われた髪に手をやった。

「ムッター、可愛い!」

「そう?ありがとう、ネッタ」

「そう言えば、昔若い頃ムッター、たまにその形に結っていたよね」

「…うん。昔、辛い時、寂しい時、頑張りたい時…この形に結って…鏡に映る姿に…母さんの面影を見ていた。…鏡の中の母さんの面影が…いつもぼくを励ましたり、慰めたり、時には叱咤してくれた。「よく頑張ったわね」とか、「母さんが傍にいるから」とか…「あなたが選んだ道でしょう?弱音を吐かずに頑張りなさい!」…とか。ぼくはそうやって母さんの面影と対話しながら試練の時期を乗り越えていた…」

「そう言えばお前、ドイツを発つ直前に、初めて髪を結った時に…鏡に映ったその姿に、涙を流したって…アルラウネが言ってたな」

遠い昔の話をアレクセイが思い出す。

「アルラウネ、アレクセイに話してたんだ…。髪を結ったぼくは…あまりに母さんに似ていて…その瞬間…不覚にもポロリと涙がこぼれてた。あの時は…アルラウネをびっくりさせちゃった」

ユリウスも今や遠い昔となった少女時代の出来事を懐かしく思い出す。

もう一度覗き込んだ鏡の中には、当時の母親と同じ年の頃に差し掛かった髪を結った今の自分と、かつての少年を偽って、髪を短くし黒い制服に身を包んだ少女時代の自分が微笑んでいた。