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しょうきち
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冒険の書をあなたに2

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序章 異変


 いつも穏やかな聖地の平和が破られたのは、神鳥宇宙を統べる金の髪の女王陛下と地の守護聖ルヴァが異世界より帰還してから一年ほどが過ぎた、ある日のことだった。
 常春の陽射しがさんさんと降り注ぐ正午過ぎ、ルヴァが今日も新たな知識との出会いを探すべく図書館に立ち寄ったところから今回の事件は端を発する。

 ルヴァがその日の執務を全て午前中に終わらせたのは、こうして図書館へ足を運ぶ時間を作り出すために他ならない。
 今まで幾度も往復してきた棚をじっくりと眺め回している彼の表情はいま、喜びと期待に満ち溢れている。
(うーん……次はどの時代について調べてみましょうかねえ。それか他の宇宙について調べ始めても面白そうですが……)
 これまで後回しにしてきた本の中から新たな発見はないかと目を皿にしている最中、ふと緑色の背表紙に目を留めた。
(これは……?)
 そこにはある惑星の郷土史がずらりと並んでおり、全て赤暗色の表紙で統一されている。勿論彼はその一帯を既に読破していたが、綺麗に並べられた途中にひょっこりと挟まれた本に見覚えはなかった。
(この列でこんな本は見かけたことがないですが……誰かが戻し間違えたんでしょうかね。珍しいこともあるものです)
 時間に余裕があるのだし、見つけた以上は元の場所に戻してあげよう────そう思ったルヴァがおもむろに緑の本を抜き取り、改めて表紙に目を落とす。
 一瞬だけ一年前の出来事が頭をよぎったが、今度は文字らしきものは見当たらなかった。中央に血走った大きな目玉が描かれ、酷く薄気味悪い印象を与えている。
「一体何の本なんでしょうかねえ……どれどれ」
 興味本位で頁を開きかけた途端に、描かれていた目玉がぎょろりとルヴァへと視線を合わせ、辺りに邪悪な気配が漂い出す。
「…………!」
 初めは目を見開き驚いていたルヴァがその気配を察知してすぐに真顔に戻り、彼にしては低い声で問いかける。
「これはこれは……初めまして、と言っていいんでしょうかね」
 切れ長の目を細めて問うルヴァに、本は淡々と喋り出した。
「なんだ、つまらん。オレを見て喚き散らす人間どもを見たかったのに」
 ルヴァの手の中からほんの少し浮き上がった本は、そう言って心底がっかりしたようなそぶりを見せた。
 仕草のひとつひとつを注意深く観察しつつ、ルヴァは正体を突き止めるべく更に問いかける。
「あなたは何という名前で、どこから来て、ここへはどういったご用件で来たんですか」
「オレか? オレはな、悪魔の書と呼ばれてる。用件ってモンは特にないな、色んな世界の本棚を渡り歩いてるんだ。人間の記憶から消えていく知識だとか技なんかがギッシリだから、まあ一回読んでみろよ」
 余りにも陽気に告げられた内容に、ルヴァは開いた口が塞がらない。
(な……なんて胡散臭い……! しかし、この気さくな様子とは裏腹な気配……正直言って何かの罠だとしか思えませんが)
 この禍々しい気配の源を探ろうと恐る恐る頁を開いていくその陰で、悪魔の書の目玉が怪しい光を放った。
 どくりと心臓が跳ね、慌ててその場を離れようとしたルヴァが急な目眩に大きく体勢を崩す。
「……っ!」
 突如体内から勝手にサクリアが放出され、見る見るうちに本の中へ吸い込まれていく。
 ルヴァは咄嗟に背後の書架にもたれかかり転倒を避け、急激なサクリアの喪失感を堪えながらも予想通りの結果にどこか安堵を覚えていた。
「成る程……そうやってあなたは相手から奪うんですか。古の知識などを……」
 くらりと揺れる視界の中央で、緑の表紙がひとりでに開かれていく。そしてそこには大きく裂けた口があり、どうやらここから言葉を発しているようだった。
「────ザキ!」
 唱えられた言葉には確かに覚えがあった。グランバニアで魔法使いマーリンから借りた魔術書にあった、死を招く呪文だ。だとすればあの世界からやってきた魔物なのだろうかと、ルヴァは得られた情報を脳内で素早く繋ぎ合わせる。
(それならば、先程私のサクリアを奪ったのは、魔力を奪い吸収する呪文マホトラ……でしたかね。聖地は女王陛下の強力な庇護下にありますから、死の呪文自体は打ち消されてしまうんでしょうが)
 女王のサクリアが衰え綻びが出ない限りは、悪しき力に繁栄の道が開かれることはまずない。悪質な呪詛の類はおろか、魔性の存在そのものが弾かれてしまう。
「知識を奪いたいのでしたら私なんかはうってつけでしょうね。私は知識と知恵を与える、地の守護聖ですから────今の分だけで足りたんですか? もっと欲しいならご自由に」
 穏やかなもののはっきりと挑発の色を帯びた調子の言葉に、再び悪魔の書の目玉が赤く光りルヴァの体から強制的にサクリアが奪われていく。しかし彼はサクリア減少に怯むことなく、あろうことか自らサクリアを上乗せする形で悪魔の書に注ぎ込み始めた。
 マホトラが効いたお陰でよもや死の呪文が打ち消されているとは一向に気付いていない悪魔の書は、その名にふさわしい禍々しさを身に纏い、目を血走らせて死の呪文を唱えては魔力不足を補う為にまたサクリアを奪い始める。
 最初こそ勢いよくルヴァのサクリアを吸収していた悪魔の書だったが、同じことを幾度も繰り返すうち徐々にその勢いは失われていった。ルヴァはその様子に勝利の確信を得る。
「おや、どうしました? まさかあなた、この程度でもうお腹がいっぱいだなんて言うんじゃないでしょうね。私からどんどん持って行っていいんですよ。ほら遠慮せずに、どうぞ────全て奪えるんでしたらね」
 それからも言葉通りにサクリアを与え続けた結果、悪魔の書の赤くぎらついていた目はその光を失い、頁がぱさりぱさりと音を立て散らばり始めた。それを確認した辺りで、ルヴァの顔にとうとう不敵な笑みが浮かんだ。
 外界の時間に換算すれば相当な年月分の知識と知恵を、サクリアごと奪いきれるものなら奪ってみればいい────そんな思いで更にありったけのサクリアを注ぎ込んでいく。持久戦に持ち込めばいずれ相手が自滅すると見越してサクリアを消費し続けるルヴァに対し、奪っても奪っても一向に終わりの見えない戦いに悪魔の書が遂に根を上げたのは、それから間もなくのことだった。
 ルヴァはサクリアの大量放出による疲労の中、どうにかおおごとになる前に災いを食い止められたことに大きな満足を得ていた。暫く座り込んで休憩した後、辺り一面の床に散らばった頁を丁寧に拾い集め、白目をむきぐったりとうつぶせに落ちている悪魔の書にそうっと挟み込んで独り呟く。
「古の知識の集まりだなんてとても貴重でしょうに、こんなに雑に扱うなんて本への冒涜ですよ」
 既に放出されたサクリアを身に戻すのも億劫だった。これは女王陛下に事情を話し(彼女のことだからもう事態を把握している可能性もあるが)早急にどこかの星域へでも振り分けてもらうことにした。恋人の特権を抜きにしても怒られはしないだろう。アンジェリークならこういったときに臨機応変に対応してくれるという絶対的な信頼があるからこそ、ルヴァは本来の規律を無視した行動に打って出たのだ。