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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 ゼフェルの親指が下唇を押し上げている。何か言葉を選んでいるのか、まばたきもせずその姿のまま数秒じっとして、おもむろに沈黙を破った。
「……当たりも当たり、大当たりってとこかよ。忌々しい」
 チッとひとつ舌打ちをして唇を噛みしめるゼフェルへオリヴィエはちらりと視線を投げ、それからルヴァに話しかける。
「ルヴァ。そういえばあんた、あのエロ本どうしたのさ」
 エロ本と聞いた途端にゼフェルがげふっと咽込み、顔を真っ赤にしていた。ルヴァはそれには一切触れることなく、懐から十字に縛られたままの悪魔の書を取り出す。
「悪魔の書でしたら、ここにありますよ。ロザリアに捕まっていたんですが、修繕も終わりましたから暫くはこのまま置いておこうかと思いましてねー」
 開かなければ喋ることはできないのか、悪魔の書は全くの無反応だ。ゼフェルが興味津々ですぐに手に取り、じろじろと眺め回している。
「なんだこの気色悪い本」
「あー、この本は図書館に出てきた本の魔物で、悪魔の書と名乗りました。私と陛下が以前異世界へ行ったときのこと、皆さんは覚えていますよね」
 各々がその言葉に頷いたのを確認すると、ルヴァもひとつ頷いてから言葉を続ける。
「あの世界には幾つもの魔法が存在していましてね、この悪魔の書もまた、あちらの世界の魔法を行使します」
 案の定、紐をぶら下げて振り子のように揺らして遊び始めたゼフェルを再び諫めつつ、ランディが口を開く。
「次元を超えて現れた、ってことですよね」
 パルプンテという呪文が次元を超えルヴァの書架を情け容赦なく破壊して、その後始末を手伝ったのがここにいる若手三人だ。ランディの一言にルヴァは深く頷き、それから今はすっかり元通りに直された書架を懐かしそうに眺めつつ話を続けた。
「恐らくは。ただ、本当にあの世界から来たのかどうかまでは分かりませんから、後でゆっくり質問してみようかと」
 そう言うと手の中の湯飲みに視線を縫い止め、彼の言葉はそこで途切れた。


 それから平穏な数日が経ち、守護聖全員に招集がかかった。
 謁見の間にぽつりぽつりと集まり出した頃、一番最初に来ていたジュリアスが辺りを見回し、眉根を寄せてロザリアに話しかける。
「……まだ来ておらぬようだな」
 誰のことかと訊かずとも分かってしまう口ぶりに、ロザリアはくすりと微笑んで答えを返す。
「いつものことですわ。様子を見てきましょうか」
「いや、いい。私が呼びに行ってこよう。リュミエールが先に立ち寄っているとは思うが……」
 御前会議の時間まではまだたっぷりと余裕があることを確認し、ジュリアスはクラヴィスの執務室へ足を向けた。

 その頃クラヴィスの執務室では、既に身支度を整えたクラヴィスが水晶球をじっと覗き込み、何かを考え込んでいるようだった。
 もしやまだ寝ているのではと危惧したリュミエールが少し前に到着していたものの、いつもよりどこか緊迫した室内の空気に気圧された様子で立っている。
 水晶球の前から微動だにしないクラヴィスへ、恐る恐る声をかけた。
「……あの、クラヴィス様。そろそろお出になりませんと遅れてしまいます」
「……そう、だな……いや、まだだ。リュミエール」
「はい」
 身を乗り出して水晶球を強く睨みつけると、それまで仄かに光を放っていた水晶球が輝きを増し始め、クラヴィスの紫の瞳を照らし出す。
「一曲頼む。曲でなくとも良い、かき鳴らせ……会議など五分かそこら遅れても問題ない」
 彼の意味不明な言葉に困惑しながらもリュミエールは言われた通りに愛用のアイリッシュハープを抱え、しなやかな指で弦を爪弾く。
 それは上昇グリッサンドで始まる美しい音色だったが、彼はその矢先に感じた僅かな異変に動揺を見せた。
 演奏を止めようとする彼を、クラヴィスの声が引き留める。
「そのまま続けてくれ、おまえは何も気にするな」
「……!」
 部屋中を満たす、人ではないものたちの気配────そしてそれが増えるとともに強まった水晶球の眩い輝きに、リュミエールは戸惑いながらも演奏を続けた。
 クラヴィスは輝きを放つ水晶球に視線を落としたまま口の中で何かを呟き、静かに目を伏せている。
「もう良いぞ、リュミエール」
「は、はい……!」
 弦の音が余韻を残しつつ止まったとき、すでに二人の周囲にひしめいていた気配が黒いもやのような塊になっていく。
 少し怯えた様子でハープを抱えたリュミエールが問いかける。
「クラヴィス様、あれは……あれらは、一体何なのですか」
 ちらと水晶球を一瞥してゆっくりとリュミエールの側に寄り立ったクラヴィスが、部屋のそこかしこに集まる黒い塊を見つめ口を開いた。
「いつものように闇のサクリアに引き寄せられてきたものたちではないらしい……こちらに害をなすほどの力はないとみえるが、まだ分からぬ」
 そう言ってクラヴィスはふ、と口の端を上げた。余裕を感じさせる笑みに、リュミエールもまた安堵した様子でゆるゆると息を吐いた。
「どのみち、間もなく消えるだろう」
「と、言いますのは」
 リュミエールの言葉はそこで途切れざるを得なかった。
 水晶球の光が弱まった執務室内は再び元の暗さを取り戻し、ふいに開け放たれた扉からジュリアスが姿を現した。
「やはりまだここにいたか、クラヴィス」
 ジュリアスがすたすたと二人の前に歩み寄るたび、人ではないものの気配が容赦なくかき消されていくのを見て、クラヴィスが小さく吹き出す。
「……問答無用、か。おまえらしいと言うべきか」
「なんの話だ……?」
 他者から見れば微かにではあるもののくつくつと笑っているクラヴィスと、黒い塊が消え去り元通りになった室内をしきりに見回すリュミエールへ、ジュリアスは困惑の表情を見せていた。
「何でもない……そろそろ行くとしよう」
 ジュリアスとリュミエールを促して部屋を出る間際に、クラヴィスはちらと卓上の水晶球へと一瞬視線を移し、それから静かに扉が閉まった。

 三人が謁見の間に辿り付いた頃には、既に他の守護聖たちが勢ぞろいしていた。
 ゼフェルがじろりと睨みを利かせて苛ついたそぶりで言葉を投げる。
「おっせーんだよ、早く来いっつの!」
 いつもは小言を言われる側なせいかここぞとばかりに攻撃するゼフェルに対し、ジュリアスとクラヴィスはいつも通りの表情のままだ。ただ一人リュミエールだけが、すまなそうに小さく頭を下げていた。
 ロザリアが一同を見渡して、穏やかな表情で座る女王陛下と目配せをし合い、ひとつ頷くと守護聖たちへと目を向ける。
「これで全員揃いましたね。ではこれより御前会議を始めます」