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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「そう、凄く大きな目でモフモフした子なんです。今頃……どうしてるんだろう」
 もしかしたら、もう────一瞬過ぎった恐ろしい想像をかき消そうと、閉じていた瞼に更にぎゅうと力がこもった。オリヴィエはその瞼の間に涙が滲んだことに気づき、ポピーの肩をぽんと押さえる。
「焦らない。あんたは生きてここに辿りつけたんだからさ、もっと肩の力抜きなってば。焦って何かが変わるの? ……ほら、目を開けてごらん」
 手鏡を目の前にかざしてオリヴィエが微笑む。
「……いいかい、あんたが助けを求めた相手はね、この宇宙を統べる女王陛下なの。そして私たちは、その宇宙を支えてる守護聖────何が言いたいか、分かる?」
 折角施してくれた化粧が崩れてしまうとポピーは残念に思ったが、その目には既に溢れんばかりの涙が浮かんでいて、差し出された手鏡に映る自分はおろか、目の前のオリヴィエの顔すら歪んでしまっている。
 自信なさげに微かに頷くポピーを、いつもの口調を保ってオリヴィエは励ます。
「女王陛下があんたを守るって言い切ったんだから、ものすっごく強いバックアップがあるよ、ってことさ。だからそんな不安そうな顔してないで、堂々と笑ってなさい。あんたはこんなに可愛いんだから」
「……はいっ……!」
 優しい声色にほっとしたのか、我慢しきれずに瞬いた瞬間に零れ落ちた大粒の涙を、オリヴィエは無言のままそっと片手で拭ってみせた。
 本音を言えば、女王陛下と守護聖であろうとも救えないことは数多ある。
 だが危険を厭わずに遥々次元を超えてきた少女に、それを今言ってどうするのか────せめてこの勇敢で健気な少女のこれから先に幸多かれと祈りながら、彼はよしよしと小さな頭を撫でた。
 ポピーが化粧を施されている間、年少組三人はこっそりと物音を立てないようにジュエルを探していた。
 やがて大胆に物音を立て始めたゼフェルが苛ついたそぶりを見せ始める。
「……いねーな、それっぽいの」
 ランディもゼフェルの言葉に頷きつつ、執務机の上の布地をよけてジュエルを探す。
「そもそもどんなのかも知らないからなあ……」
 そこへぎろりと鋭い視線が突き刺さり、背筋に走った悪寒に二人は恐る恐る振り返る。
「何してんの、あんたたち。人の執務室荒らしたら叩き出すよ?」
 ぐいぐいと二人の首根っこを掴んで扉のほうへと引きずっていくオリヴィエに、マルセルが声をかけて引き留める。
「オリヴィエ様、ここにポピーの友達が来てるっぽいんです。それらしいの見てませんか」
 ぱっと手を離したオリヴィエが両腕を腰に当て、打って変わって穏やかな表情でポピーに問いかける。
「どんな子?」
「あっ、おどる宝石っていう魔物さんなんですけど、大きめの宝石とかネックレスを袋にいっぱいため込んでて……」
 その瞬間オリヴィエの肩がぎくりと揺れたのを、守護聖三人はしっかりと目撃した。
 片手を顎に当て、視線を明後日の方向に逸らしながら口ごもる。
「あー……それ、たぶん、知ってるわ……」
 とても気まずそうにオリヴィエが指をさした場所へ三人はすぐさま駆け寄り、そして思い切り引いていた。
 初めに引きつった声を出したのはマルセルだ。
「うわー……」
 マルセルの涙声の後、最大限の苛つきを表すようにがりがりと頭を掻いたゼフェルが、チッと舌打ちをして呟く。
「……これっぽいな」
 ランディが手元を見つめてからちらりとポピーに視線を送り、すぐに目を逸らしてしまった。
「たぶんそうだよな……でも……可哀想に」
 そんな三人の態度がポピーの不安を一気に煽り、彼らの側へと駆け寄る。
 慌ててランディの手の中を覗き込み、ぺしゃんこになり目を回しているジュエルを発見した────のだが、いつも彼の周囲を彩っていた宝石がなくなっている。
「……ジュエル!? やだどうしようっ、ジュエルがただの笑い袋になっちゃったあ!!」
 じいいいいいっ、と若手三人からの非難がましい視線がオリヴィエにきつく当たる。彼らはもう分かっているのだ、誰がジュエルの宝石を奪い取ったかを。
「う……それ、ポピーの友達、だったの?」
 ぺらぺらの巾着袋をぎゅうと抱き締め、先程とは比べ物にならないレベルで泣き始めたポピーをなだめながら、マルセルはキッとオリヴィエを睨む。
「オリヴィエ様、酷いです……!」
「おいオリヴィエ、今すぐこいつの宝石返してやれよ」
「しかもゴミ箱に捨てるなんて……人間のすることじゃないですよ。鬼畜すぎる」
 次々と発せられる非難の声に、オリヴィエがポピーへ向けて両手を合わせた。
「……ごめん。あんたの仲間だって知らなくて……待ってて、すぐ返すよ」
 そう言ってケースの中から幾つかの豪華な宝石を取り出すと、オリヴィエの手のひらから離れするするとジュエルのもとへと集まってきた。
 まるで呼吸をしているように宝石が袋から出たり入ったりし始めて間もなく、ジュエルは目を開けてぱちくりと瞬きを繰り返した。
「ジュエル、ポピーだよ。わかる?」
 ポピーの心配そうな顔を見て、ジュエルは何事もなかったように宝石をぽんぽんと吐き出してはにこりと笑った。
「良かったあ。もう大丈夫みたいです」
 手の甲で涙を拭いたポピーの手を取り、オリヴィエが珍しくしょんぼりと落ち込んだ声を出す。
「ほんとにごめんよ。許してなんてとても言えないけど、私でできることがあったら力になるから」
 その言葉に反応したゼフェルがばっさりと切り捨てる。
「ったくよー、さっきのマトモな雰囲気が全部台無しじゃねーか。アホらし」
 続いてランディもまだ少し不愉快そうに眉根を寄せ、じろりとオリヴィエを睨む。
「ちょっとオリヴィエ様かっこいいなーなんて思った俺がバカでした」
 そして、額を押さえたマルセルがはぁと盛大にため息をついた。
「ぼく、なんか頭痛してきちゃったよ。ねえポピー、皆でお茶でも飲みにいかない?」
 ねっ、と微笑まれたポピーがどう答えたものかと困った顔を見せたところへ、ゼフェルがすぐに口を開いた。
「お、いーなそれ。行こうぜ、腹減ったしよー。ここは勿論オリヴィエの奢りだよな?」
 ゼフェルの問いに、マルセルとランディが同時に返事をする。
「当然でしょー!」
 さり気なくランディに腕を掴まれつつ、オリヴィエがくいと片眉を上げた。
「あーもう、分かったから! 全員好きなもの奢ったげるよ! ほら、主役もおいで!」
 全員に促されて、ポピーははにかみながら彼らの輪に入った。