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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 やっぱりあそこだよね、というマルセルの小さな声がして、きょとんと首を傾げているポピーにゼフェルが話しかけた。
「……目星はついた。今から行くなら案内してやるぜ、どうする」
「えっ、でも」
 急な話に戸惑いを隠せないポピーをじろりと睨み据え、ゼフェルは口を尖らせた。
「探しに行くのか行かねーのか、どっちだよ」
「行きます!」
「んじゃ五分で支度しろ。オレたちは隣の小部屋にいる」
「はっ、はい!」
 じゃあな、と言い捨ててさっさと部屋を出ていくゼフェルの背を、ポピーは茫然と見送った。そこへランディが眉尻を下げて口を開く。
「ごめんな、急でびっくりしただろう? ゼフェルはいつもああなんだ」
「えと……はい。ちょっとだけ」
(選ぶ言葉は全然違うけど、お父さんもお母さんもこうやって臨機応変に物事を決めるもの……実はそんなにびっくりしてない)
 一分一秒を争う戦いの場では一瞬の判断の遅れが致命傷となり得ることをポピーは経験上良く知っており、それについては慣れっこである。
 だが周囲から一国の王女として扱われるようになり、男性と対等に渡り合える強さやずば抜けた頭の良さなど一般の女性にはさほど求められていないこともまた理解していたため、日頃はおとなしく見られるように振る舞う癖がついていた。
 爽やかな声と端麗な見た目のランディは、ポピーからすればまるでどこかの王子様のようにも見える。力こそないけれど剣を振るい、魔法を行使して魔物たちの血を浴びてきたことを隠しておきたかったのだ。
 決して己の育った環境を恥じているわけではないが、それでもカボチ村の件や今回の件のように、誰かから冷たく拒絶されるのが怖かった。
 そんなささやかな乙女心を知る由もなく、ランディはにこりと口角を上げて言葉を紡ぐ。
「君の外出許可はもう取れてるから、何も心配はいらないよ。女王陛下は君が歩けるようになったらすぐに御前会議を開くと仰ってたから、これはリハビリだと思ってさ、頑張って」
 こくりと頷くポピーにまだ何かを言いたげなランディを、マルセルが慌てて止めに入る。
「ランディ、ぼくたちがいたら着替えられないでしょ! ほら行くよ。じゃあポピー、待ってるからね」
 長い金髪をさらりとなびかせたマルセルはランディをぐいぐい押しながら出て行った。

 ゼフェルは待合室でどっかと座り込み、両腕を頭の後ろで組んだ姿勢で二人が来るのを待っていた。
 合流したランディが彼の顔を見るなり小言を言い始める。
「ゼフェル、さっきの態度はなんだよ。女の子なんだし病み上がりなんだから、もうちょっと時間作ってやってもいいだろ」
 彼はどうやらポピーに対しての無礼を咎めているようだった。細い眉の片方をぐいと上げてゼフェルは睨み返す。
「はあ? おまえ、頭大丈夫か」
「なんだとっ?」
 脳筋バカはこれだからと内心毒づきながらも、ゼフェルはすぐに言葉を放つ。
「無理させてんのは分かってんだよ。でも助けて貰いに次元超えてくるってよっぽどだろ」
 あんな細い体で着の身着のままでやって来た少女をここで見捨てるような真似など、人としてしたくもないというのがゼフェルの本音である。
「あいつ、命賭けて聖地まで来たんだろ。ここでチンタラしてる時間あんのかよ、違うか」
 それに先日から続く聖地の異変と、まるきり無関係だとも思えなかった。
 むっすりと口を閉ざしたゼフェルを前に、ランディとマルセルが喜ばしい驚きに目を丸くさせていた。
「おまえ……結構ちゃんと考えてたんだな」
「ほんとだねー、ルヴァ様が今の聞いたら泣いちゃうかも」
「てめーら……あーそーかよ、オレのことをどう思ってんのかよぉぉぉぉく分かったぜ……」
 拳を握り締めた丁度そのとき、ぱたぱたと足音が聞こえてゼフェルはすぐに立ち上がる。
 ポピーはオリヴィエが用意したというワンピースを身に纏い、軽やかに駆け寄ってきた。
 上品な膝丈で白地の裾から鮮やかな赤、オレンジ、黄色のポピーの花がとりどりに咲いている柄で、マルセルの目には彼女の名に合わせたものだと一目でわかった。
「お待たせしました……!」
 駆けてくる足音でふらつきがないことは分かったが、ゼフェルは念のため確認を取る。
「歩けるか?」
「はい、大丈夫です。すみません、靴がまだちょっと慣れてなくて」
 彼女に用意されていたのはかかとが低めのサンダルだったが、ぺたんこのブーツに慣れた足は重心のバランスを取るのに少々苦労していた。
 王女だというのに随分と庶民的なところが、ゼフェルには彼が密かに想いを寄せ続けている女王陛下の姿と重なって、くすりと口の端で笑った。
「よろけたら何でもいいから適当に掴め。じゃー行くぞ」
 四人で向かった先は、オリヴィエの執務室だった。
 どんどん、と些か乱暴にノックをしてから返事を待たずに入っていくゼフェル。
「おーい、入るぞー」
 ゼフェルに続きぞろぞろと入室したマルセルとランディがぐるりと執務室内を見渡している。
 だが彼らにはどういう姿をしているのか見当もつかず、ランディが少し困ったようにポピーに囁いた。
「ジュエル……だったっけ、たぶんいると思うから、探してみてくれるかな」
「あ……はい」
 まだ執務室の主に挨拶していないのにいいんだろうかと戸惑いながら、きょろきょろと辺りを見回すが、それらしき姿が見えない。
 執務室の奥から布地の束を抱えたオリヴィエが姿を現して、どさりと執務机に布地を置いてからようやく一同を見た。
「おーや、どうしたのさ……あら、そのワンピース……あんたが王女様だね?」
 男の人だというのにとても滑らかな肌をしているオリヴィエに見つめられ、ポピーは緊張のあまりぎこちない動きで礼をした。
「はっ、はいっ。ポピレア・エル・シ・グランバニアと申します。着替えなど諸々手配していただき、感謝します」
 頬が熱くなるのを感じ、ポピーはどうしたらいいのかと身を竦ませる。それをちらと見たオリヴィエが明るく笑い飛ばした。
「堅苦しい挨拶はナシ! それより元気になって良かったね。それも似合ってるんだけど、ちょっとおいで」
「? はい」
 呼ばれるままオリヴィエの目の前に立つポピー。それに対して三人がまた始まったとうんざり顔になる。
「メイクしたほうがもっと可愛くなるよ。ちょ〜っと目を閉じててくれるかな」
 早速メイク道具を引っ張り出して化粧を始めたオリヴィエの前で、ポピーは不思議そうな表情で固まっている。
 顔の上を縦横無尽に走るふわふわしたブラシの柔らかさが何かに似ている────何だったろうと暫し考え込んで、ビッグアイのガンドフの毛だと思い至り、思わず笑みが零れた。
「くすぐったかった?」
「あ、いえ……なんでもないんです。ガンドフの毛と似てるなって思って」
 仄かに漂う粉の香りは、何かの花を思わせる優しさだ。
 口に咥えた細いブラシを手に持ち、真剣な顔をしながらもこまめに手首を動かしているオリヴィエが、まだ緊張した様子のポピーを落ち着かせようと穏やかに聞き返す。
「ガンドフ〜? あんたのお仲間?」
 唇に色を乗せられたところで、ポピーは小さな声で話し出した。