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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 オリヴィエの愉快そうな声とは裏腹に、長いまつげの下の瞳にありありと浮かんだ覚悟を見て取り、ルヴァは静かに頭を下げる。
「私の説明は以上です。早速荷物を積んで、お城へ急ぎましょう」
「お待ちください」
 ざらついた声のしたほうへ、ルヴァを含めその場の人間が顔を向けた────マーリンが再び険しい顔で一同を見渡す。
「これより再び移動呪文ルーラにて皆さまをお連れいたしますが、城の前、いえ……周囲では激しい戦闘が行われているやも知れません」
 マーリンの言葉にそれぞれの表情が一気に引き締まる。そこへオスカーが真っ先に案を出した。
「それなら、まずは先に戦える者だけで向かったほうがいいだろう。サクリアの問題については、それが片づいてからでいいのでしょう? 陛下」
 初めからこの事態に気づいていたのか、はたまた偶然か────オスカーの視線にはそんな問いかけが浮かんでいたが、アンジェリークはそちらには触れず、発言への返答だけにとどめた。
「ええ、とにかく安全最優先で行くわ。誰一人欠けることがないようにお願いします」
「仰せのままに」
 背後では若手守護聖たちが荷物を馬車に運び入れていて、箱が重いだの邪魔臭いだのと賑やかだ。
 その間にオスカーはつかつかとルヴァの側へ近づき話しかける。
「問題は誰を連れていくのか、だな。ルヴァはこっちの呪文が使えたと聞いているが」
「そうですねえ、それに今回はオロバスという味方もおりますし、私と剣の使い手であるあなたは必要人員でしょう」
 話の中で思い出したのか、懐からオロバスを出して表紙の目と視線を合わせるルヴァの顔は、オスカーには心なしか嬉しそうに見えた。
「これで二人。あとは?」
 オスカーの脳内では、オロバスはルヴァの所持品扱いでノーカウントのようだ。
「……陛下も連れて行きましょう。城の方たちと面識がありますし、回復と補助はお任せできますから」
 ルヴァはゆったりと柔らかい口調でそう告げて、頁を開き読めとぐいぐい迫るオロバスをなだめ始めた。
「ふむ……あとはオリヴィエかランディってところか……ジュリアス様もだな」
 嗜みの一つとして剣を持ったことがあるという話を思い出したオスカーは顎に片手を宛がう。
 口を開く前に、ルヴァの目は研磨され尽した金属の如き鋭い光を湛え、じっとどこかを見つめていた。時間にすれば一秒にも満たないものであったが、その僅かな間に脳内では目まぐるしくデータというデータを引っ張り出していた。
 ゆっくりと一度まばたいてから、おもむろに言葉を発する。
「ジュリアスは私たち守護聖の首座ですから、念のため待機が望ましいです。オリヴィエは危急の事態に強いですし、ここで見張り役になって貰ったほうがいいかも知れませんねえ。ランディなら……城壁を越えたりできそうですよね」
 矢継ぎ早に出て来た案に、この男はあの一瞬で一体どれだけの情報を巡らせ、熟慮し、策を練ったのかとオスカーが目を丸くさせた。
 正門を突破するルートの他に周辺から城壁を越え入城するルートを思いついたオスカーだったが、ルヴァの中ではそれ以外の策まで頭に浮かんでいるようだった。
「ランディを連れて行くのはいいが、武器はどうする? 剣を置いてきたようだが」
 オスカーの言葉に、ルヴァは軽く丸めた人差し指の側面を顎に当て、とんとんと叩く。
「あー、それについては……ポピー、ちょっと来てください」
 ルヴァに呼ばれたポピーがすぐに駆け寄る。
「はい? 何ですかルヴァ様」
「剣をお借りできますか?」
「え、ルヴァ様がお使いに……?」
 きょとんとした表情のポピーに、ルヴァは慌てて手を振り否定する。
「いえいえ、私ではありませんよ。ランディがね、聖地に剣を置いてきちゃったので、彼用に」
「あ、そうだったんですね。大丈夫です、馬車に積んでありますから今出しますね!」
 そう言うなり馬車の奥からごそごそと紐で括られた剣の束を持ち出そうとして、余りの重さに負けたポピーが思い切りよろける。馬車の中にいた魔物たちがめいめいに支えるが、使われなくなった剣を一まとめにしてあったため、倒れた束がごとりと大きな音を立てた。
「ご、ごめんなさい。わたしじゃ持ち出せそうもないんで、ランディ様、こちらへ来ていただけますかー」
「あっ、うん。ごめんよ、気が付かなくて……どれどれ」
 呼ばれたランディは軽やかな動きでひょいと馬車の中へ飛び込み、冒険の間にリュカたちが手に入れて来た剣の美しさに思わず魅入る。馬車の壁にもぎっしりと武器が立てかけられており、紐でまとめられた武器はそこからあぶれたもののようだった。
「わ……凄いなあ。見たこともないような形の剣もあるね。俺はどれを使えばいいんだろう?」
 視線が一カ所に定まらず、沢山ありすぎて選べない様子のランディに、ポピーが助言をする。
「パッと見て惹かれるものを持ってみてください。重さを感じないようなものがあれば、それがいいと思います」
 曲刀などは使ったことがなかったため、ランディの視線は自然とオーソドックスな形の長剣にばかり向いていた。
「そう言われてもなあ……うーん。これはどうかな」
 うろうろと視線を彷徨わせた後、彼はどこか高級感のある、それでいて使い馴染の良さそうな一本を手に取った。それを見てポピーの空色の瞳が嬉し気に弧を描く。
「あっ、さすが風の守護聖様ですね!」
 ランディが手に取った剣は、すらりとした細身の片手剣ながら隼を模した鍔が特徴的な、とても優美なデザインだ。
「え、ほ、ほんと? なんで?」
「それは疾風のように攻撃ができるんで、はやぶさの剣って呼ばれてるんです。特殊な金属を使ってるから刃をとても薄くできて、それで軽量化してるんだって武器屋さんが言ってました」
 屈託なく笑うポピーの説明を聞きながら、ランディは隼の剣に視線を落とす。
「へー、そうなんだ。確かに……木刀くらいの重さしかないね。これなら普段通り使えると思うから、借りてもいいかな?」
「はい、どうぞお好きに使ってください!」
 ポピーに満面の笑みで促され、ランディは隼の剣を装備してみる。オスカーとの訓練で使っている剣よりもずっと軽く、身に着けている感覚の薄さがむしろ気にかかるくらいだった。
 日頃オスカーに鍛えられているとはいえ、ランディ自身にはまともな実戦経験がない。その事実に少しの躊躇いと不安を覚えつつ、こういうときのために訓練してきたんじゃないのか、しっかりしろと己に発破をかけていた。
 そこへ一連のやりとりを聞いていたオスカーが近付いてきて、口の端を上げた。
「なかなか似合ってるぞ、ランディ。少し腕慣らしといくか?」
 どこか底冷えする光を目に宿したオスカーが口調だけは軽い調子で話しかけてくる。
「……お願いします」
 戦地では喜怒哀楽を出さないこと────これも、オスカーから教わった。
 どれだけ恐怖に慄こうと、喚き散らしたい気持ちになろうと、怒りに打ち震えようと、敵にはこちらの感情を一切悟らせるなと、彼は常日頃の訓練の中で言われてきたのだった。
(今、俺はオスカー様に試されているんだな……不合格なら、足手まといとして置いて行かれる!)