二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

冒険の書をあなたに2

INDEX|33ページ/213ページ|

次のページ前のページ
 

 このとき、緊張をほぐすように乾いた唇を微かに噛み締めたランディをオスカーは見逃さなかった。すいと目を細めて見下ろすと、おもむろに剣を鞘から引き抜く。
「いつでもかかって来い」
 惑星の視察とは名ばかりの守護聖暗殺といった類の謀にも、決して怯まない「強さ」を司る守護聖オスカーの聖地ではまず見かけない厳しさを目の当たりにして、ランディは息を飲む。それでも負けるものかと気力を奮い立たせ、腹から声を出してみる。
「っ……はい!」
 緊張した面持ちで剣を引き抜き、出来得る限りの無関心を顔に装ってじっとオスカーの隙を伺う。だが視察先での実戦経験もあるオスカーに睨み合いで敵うはずもなく、ランディはとにかく気迫だけでも認めて貰おうと腹を括った。
 気合いの声と共に振り下ろした剣は木刀の素振りよりも軽く、剣を振るった当人でさえ呆気に取られる程の速さでオスカーの剣にぶち当たる。
「……ッ!」
 剣を受け止めたオスカーの手に、びり、と痺れが走る。
 受け止めた衝撃自体はいつもとさほど変わりはない。次は自分の番だとオスカーが思った刹那、交差していた剣があっという間に滑り抜けていき、ランディから即座に二撃目が打ち付けられた。
「やぁっ!!」
 ランディの掛け声と共に、激しくぶつかり合った金属音が火花と共に辺りに響き渡る。
 こちらの反撃を待たずしての連撃に、オスカーはほんの僅かに片眉を上げた。
 結論から言えば、オスカーはランディの二度目の攻撃を愛剣で受け止めたまま、姿勢一つ崩してはいなかった。
 これが何かの勝負事ならば、攻撃の余力を残し二打撃を耐え抜いたオスカーの勝ちである。
 そして威圧を続けていたアイスブルーの瞳には愉悦の色が微かに混じり、にやりと笑みを浮かべた。
「……坊やの癖に、やるじゃないか」
 そこへランディが切羽詰まった声で懇願する。
「俺を連れて行ってください、オスカー様!」
 こと戦場においては、相手の正体が誰かなどと悠長に考えている暇はない。魔法を駆使するものたちが跋扈するこの世界で、もし身内に化けられていても剣を向けられるかどうか、心や体が操られていても斬れるのかを、オスカーは試した。
 そしてランディは、その実力はともかくとして意識の面で合格点だと言えた。
 静かに剣を引いて鞘に納めると、オスカーはすっと姿勢を正した。
「いいだろう。その度胸と腕なら足手まといにはなるまい……陛下をお護りするぞ、いいな」
 尖刃のようだったオスカーのまなざしがようやく緩み、白い歯を見せてにこりと笑んだ。それは先程のどこか皮肉げな笑みではなく、いつもの見慣れた笑顔だった。
 合格を貰えたことにすっかり安堵したランディもその笑みに釣られ、零れるような笑顔を顔中に広げ、大きく頷く。
「はいっ!」
 二人が対峙していた間に、ポピーからアンジェリークとルヴァにはかつて使った理力の杖と祝福の杖が手渡された。
 二人は顔を見合わせて、どちらからともなく微笑む。この世界での冒険の記憶が蘇っているようだった。
 アンジェリークは杖を抱え、ルヴァ、オスカー、ランディへ順に視線を移し、口角を上げてみせる。
「じゃあ、まずはわたしたちがグランバニアに向かいましょうか」
 荷物の確認をし終えたポピーが振り返り、マーリンたちへ声をかけた。
「マーリンお爺ちゃまたちはここにいてね。敵が来たらお願い。馬車も置いていくから」
 馬車を引く音は大きくすぐに敵に見つかりやすいため、少人数で向かうのだ。
 その言葉にジュリアスが歩み寄り、ポピーへ話しかける。
「ではパトリシアの世話は私が請け負おう。面倒をかけるがよろしく頼む」
「ありがとうございます、ジュリアス様。こちらこそよろしくお願いします」
 ポピーは長身のジュリアスを見上げ、にこりと笑んで一礼をする。
「ああ、そなたたちに比べれば安全なものだ。皆、怪我のないよう祈っている。オスカー、陛下をしっかりお護りするように」
 ポピーへ向けては優しい雰囲気だったジュリアスの目がオスカーに話し掛ける際にすぐにきりりと元に戻ったのを見て、この切り替えの早さはさすが筆頭守護聖なだけはある、と感心するポピーだった。
「お任せください、ジュリアス様」
 オスカーが余裕を感じさせる声音で堂々と言い放ったところへ、今度はクラヴィスが歩み寄って来た。
 おもむろに袂から水晶球を取り出し、それへと視線を落としつつ口を開く。
「ポピー」
「は、はいっ」
 ふいに名を呼ばれたポピーが、何事かとクラヴィスを見つめている。
「人と魔性……例え形が同じであっても、その線引きなど曖昧なものだ」
 何かの謎かけのような言葉の意味が分からず、ポピーは小首を傾げて更にクラヴィスの言葉を待った。
「…………?」
「おまえの行く先を阻む者の中にも、曖昧なものがいるようだ……気を付けるがいい」
 ルヴァが今のクラヴィスの発言を聞き、じっと考え込んでいる。
 言うだけ言い切るとクラヴィスはさっさと踵を返し、手近にあった椅子に腰かけたのを見て、これで話が終わったものと判断したポピーが深く息を吸った。
 知らず知らずのうちに、何故だかほんの少し息を詰めていた。魔法力の高い彼女はごく自然にクラヴィスの司るサクリア、安らぎの本質に触れていたのだ────尤も、彼女自身にその自覚はないのだが。
「はい、覚えておきます。安全になりましたらお迎えに上がりますので、それまでご辛抱……、アンジェ様?」
 ふと見ればアンジェリークがロザリアと話し込み、馬車の中を指差していた。
「……かしこまりました。陛下もどうぞお気をつけて」
 そんなロザリアの声の後、つかつかとアンジェリークがポピーの側に戻ってくる。
「ごめんなさいね、ちょっと話し忘れたことがあったの。行きましょうか」
 にこりと口角をあげたままのアンジェリークだったが、そのまなざしは女王然としたもので、場の空気がぐっと引き締まった。
 居残りが確定した守護聖たちが口々に気をつけて、早く迎えに来てねなどと言って見送る中、移動呪文ルーラが唱えられた。