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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 防具そっちのけでアンジェリークの動向を見つめていたルヴァを呼ぶと、彼はすぐに歩み寄ってきた。
「これを持って行って頂戴。もしかしたら向こうでは言葉が分からなくなるかもしれないし。ポピーちゃんがいるから必要ないでしょうけど、一応ね」
 魔物たちとの連携を考えるなら、言葉の壁はないほうがいい。そう思っての行動に、ルヴァは頬を上げて頷く。
「あー、そうですね。調和のサクリア、確かにお預かりしますよー」
 水晶球を受け取る刹那、ルヴァの手がアンジェリークの手を包み込みするりと撫でていく。
 素知らぬ顔で行われたささやかな触れ合いに、アンジェリークはほんの少し照れ臭そうに唇を綻ばせつつも平常を装っていると、足元にぷよんと何かが当たった。
 視線を下に向けたと同時にルヴァから変な声が上がった。彼女の足元に青いゼリー状の魔物、スライムがこちらを見上げていたのだ。
 素早く数歩後ずさったルヴァへは目を向けず、アンジェリークは小首を傾げて問いかける。
「スラリンちゃん……だったわよね? 何かしら」
 声をかけられたスライムがぽよんと飛び跳ね、こわごわと話し出した。
「天使様あのね、あのね、バトラー連れてくなら、ボクも連れてって欲しいの」
 突然の申し出に驚き翠の目を丸くさせるアンジェリークに、スラリンは更に続けた。
「ボクただのスライムじゃないよ。いっぱい頑張って強くなれたし、プックルを別にすると魔物の中ではボクが最初の仲間だからね、リュカを助けに行きたいの」
 てっぺんのとんがりをぴんと立てて話すスラリンは、以前彼女の膝の上でとろけて寝ていた彼とはまるで印象が違い、とても頼もしく見えた。
 スラリンの嘆願を聞き付けたバトラーが横から口を挟む。
「このチビ助なら真っ先に炎を吐くし、小回りが利くぞ。なかなか侮れんのです」
 バトラーの声には身内自慢の悦が混じり、スラリンはえへへと笑う。本来ならバトラーがフウと息を吹きかけただけでも吹っ飛んで即死してしまうほど力の差がある二人。だがこの小さなスライムは地道な努力を続けた結果、バトラーが一目置くだけの力量を身に着けたことを、それは生半可な努力では到達し得ないことを彼は理解しており、素直に尊敬している。
 ロザリアがちらとアンジェリークに視線を送った。彼女が困っているなら助け舟をと考えた矢先、アンジェリークが口を開く。
「うーん……行けるかどうかはわたしには決められないわ。一緒に行ってみて、妖精の女王様にお願いしてみたらどうかしら」
 その言葉に一瞬、スラリンのてっぺんがしょんぼりと項垂れた。が、すぐに持ち直してぴょこんと飛び跳ねる。再びルヴァから「ひっ」と小さな悲鳴が上がった。
「そっかー、そうしてみるね! ありがとー天使様!」
 どういたしましてとにっこり笑みを返したアンジェリークが、今度は出立する者たちへと視線を巡らせた。
 補佐官ロザリアとともに歩み寄り、守護聖一人ひとりの顔を見つめながら言葉を告げる。
「じゃあ皆さん、そろそろ出立を。無事に戻ってきてくださいね」

 そうしてアンジェリークら残留組に見送られ、ポピーの移動呪文で再び妖精の城を訪れた出立組は大きな絵画の前に集まっていた。
 小さなスライムがリュカを探しに行きたいのだと懇願してきて、妖精の女王は快く許可を出した。スライムとヘルバトラーの代わりに一人の守護聖が残ったため、魔力の合計にさしたる超過はなかった。
 自らも筆を執り絵を描くリュミエールがしげしげと絵を眺めて感嘆の声を漏らしている。
「これが、過去へ行ける砂絵なのですね……!」
 顔を近づけて砂粒のきらめきを見ていたマルセルも、少し遠ざかって全体を見てはぽかんと口を開けた。
「……ほんとにぼくたちですよね、これ」
 マルセルの一言で他の守護聖たちも引きで全体を見始めた。
 オスカーが親指を顎にぐっと押し付けながら視線を上下左右に動かし、おもむろに話し出す。
「ふむ……全員いるな。陛下とロザリアもはっきりと分かる……不思議なもんだな」
 以前この世界へやってきたアンジェリークとルヴァだけならともかく、姿を知られていないはずの存在までが描かれている不気味さを前にオスカーはうすら寒いものを感じ取り、それを周囲に気取られぬように注意を払った。
 これが片道切符の旅であることを突き付けられ、他の者は言葉少なだ。
 不安が辺りの空気を飲み込み始めたのを振り払うように、ぐっと胸を張ったオリヴィエが挑戦的な表情を瞳に浮かべた。
「ここで突っ立ってても仕方がないよ……行こっか」
 オリヴィエから視線を向けられたルヴァが鞄からドラゴンオーブを取り出し、戸惑いながら絵の前に掲げる。
「こ、これでいいんでしょうかねえ……?」
 何か呪文のようなものが必要なのではと考え始めた頃にドラゴンオーブが燦然と青い光を放ち、その強い輝きに視界を奪われていった。

 室内を満たしていた光が治まり、案内役の妖精がそろりと目を開ける。
 そこにいた全ての出立組の姿はなく、ほっとした様子で階段を降りていった。
 妖精の女王は気配で察知していたのか、彼女の顔を見るなり話を切り出した。
「皆さん過去へ渡れたようですね」
「はい、女王様」
「後は彼らを信じます。この世界の未来を、きっと変えてくれると……」
 静かに目を伏せた妖精の女王は、ただ一心に全員の無事の帰還を祈った。