二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

冒険の書をあなたに2

INDEX|86ページ/213ページ|

次のページ前のページ
 

「いいのいいの。負担がかからないの探してくれたんだよね、ありがとう」
「いえ。その剣は誘惑の剣といって、攻撃した時たまに相手を惑わせますよ」
 ティミーの説明を聞きながら、オリヴィエはベルトの位置をきゅっと調整して、周囲をうろうろと歩き出す。歩行の邪魔にならないように再び微調整をして、今度は鞘から剣を軽く引き抜いていた。
「へーえ、そういうのも面白くっていいじゃなーい。気に入った、私はこれ借りるよ」
 腰回りに違和感がないように調節し終わると、柄頭に長い指先を這わせて艶然と笑った。
 ティミーは次に、少し眉尻を下げたマルセルへ声をかけた。
「マルセル様は、何か気になる武器はありましたか」
「いえ、あの……ぼく、こういうのはちょっと……」
 あまりにも気乗りしない様子のマルセルに気付いたルヴァが、数ある武器の中から小さめの短剣を探し出す。
「マルセル。護身用にとりあえず何かは持っておきましょう。小さいもので十分でしょうから、これなんてどうですかー」
 ルヴァから差し出されたのはブロンズナイフ。一般市民、多くは力のない女性や子供が護身用に持つものだ。
 マルセルはそれへ視線を落としたが、それでもすみれ色の瞳を揺らがせて首を横に振った。
「ルヴァ様……でも、ぼくは……」
 はっきり断ろうかと迷っている様子のマルセル。ルヴァはそんな彼の手を取り、手のひらにそっとブロンズナイフを置いた。
 憂鬱に沈んだ顔でルヴァを見上げる────いつもの温和な瞳は少しだけ厳粛さを湛えており、マルセルは喉まで出かかっていた断りの文言を飲み込んだ。
「無理に戦わなくてもいいんです。しかしどんな敵が潜んでいるか分からない場所ですから、もしかしたら誰かがこれに助けられる可能性だって、十分あり得るんですよ」
 ね、と優しく念押しされたマルセルが、渋々受け取る。
「……分かりました。い、一応ってことでいいですよね?」
「ええ、勿論です。あなたは安全な場所に逃げられるよう、念のために持っていてください」
 大丈夫の意味を込め、ルヴァは大きく頷いた。
 不安そうな顔をしていたマルセルも腹を括ったようで、ブロンズナイフを胸にギュッと抱えて頷きを返す。
 そんな二人の耳に、オスカーの大声が飛び込んできた。
「おいリュミエール、やめろ!」
 オスカーの声とほぼ同時に、ティミーも叫んでいる。
「わぁああっ無茶ですよっ、リュミエール様!」
 その場にいた全員が何事かとリュミエールの方をちらと見て、一瞬固まってからギョッと二度見した。
 驚くのも無理はない。リュミエールは特大サイズの金槌を軽々と持ち上げていたのだ。
 ルヴァは目の前の出来事を呆然と眺め、誰にともなく呟く。
「常々怪力だとは言われてましたが……これほどとは……いやはや」
 ティミーは信じられないと言いたげに目を見開き、リュミエールに金槌を下ろすよう促している。
「お、重たいでしょ!? 骨折れますって、無理しないでください!」
 慌てふためくティミーにリュミエールはにっこりと微笑み、いつもの声色で答えた。
「いえ、それほどでもございません」
 厳つい金槌を片腕で支え微笑んでいるリュミエールを前に、ティミーが頭を抱えている。
「待って……どう見ても杖のほうが似合う見た目でさ、魔神の金槌普通に持ってるとかあり得ないんだけど!!!」
 父リュカですら装備できないほどの重量を誇る代物だ。剣士であるオスカーならまだしも、一見たおやかで女性的なリュミエールがまさか────と、もう一度目を擦って凝視した。
「それにしても大きいですね。これはどのように使うのでしょう……?」
 リュミエールは無人の場所へ向けて、魔神の金槌をえいと振り下ろした。
 風を切り床にぶつかる衝撃音に至るまでかなりの重量を感じさせる割には、顔色一つ変えないリュミエールに畏怖の視線が突き刺さった。
 一驚を喫したオスカーの喉仏が音もなく動いて、それからようやく言葉が発された。
「分かった。おまえが力持ちなのはよーく分かったから、いつものハープを持っててくれないか……俺がちゃんと守るから……」
 ネオロマンスが台無しの酷い絵面である。オスカーの心からの頼みが届いたのか、リュミエールは少し残念そうに金槌を下ろした。

 他の守護聖たちが賑やかに防具を選んでいる間、再び席で紅茶を飲み始めたアンジェリークの元へゼフェルが静かに歩み寄る。
「陛下、ちょっとイイ……デスカ」
 うっかりタメ口で話しかけそうになり隣の補佐官からすぐさま鋭い視線が飛んできて、慌てて言い繕いながら返事を待たずに空いている席へ腰を下ろした。アンジェリークは気にせずにこにこと笑みを浮かべたままだ。
「かしこまられるとやっぱりなんか変ね、いつも通りにして。なあに?」
「変っておい……まあいいや」
 促されたゼフェルは片手に持っていたミネラルウォーターのペットボトルをテーブルに置いて、少し言いにくそうなそぶりで口を尖らせる。
「……オレさ、こっち残ることにした。代わりに、ヘルバトラー? っておっさんが向こう行くから」
 そう言ってくるりと振り返り、手招きをした。アンジェリークがゼフェルの視線の先を辿ると、アンクルよりも更に大柄な色違いの魔物がこちらへ近づいてくる。
「こいつがバトラー。なんかあっちの時代で、デスピサロ側の四天王だったんだとよ」
「……!」
 アンジェリークとロザリアが驚きに目を瞠っている。
 再度の呼び捨てに、バトラーは不快そうに眉根を寄せて凄む。
「敬称をつけろ。ピサロ様を次に呼び捨てにしたら、ただじゃ済まさんぞ」
「へっ、知るかよ。おまえに指図される謂れはねーっつーの」
 何だと、という小さな呟きがバトラーから聞こえた瞬間、アンジェリークは手にしたティーカップをゆっくりとソーサーに戻し、バトラーを見上げた。
「喧嘩なら外でしてください。わたしの守護聖に何かあれば、こちらもただでは済ませませんけど」
 鈴の音のような声をした女王陛下の口から出た攻撃的な言葉に、バトラーより先にロザリアとゼフェルが硬直した。
 言われたバトラーは、ただじっと神鳥の女王陛下と呼ばれる人間を暫し見下ろして、口の端を片方ニイと吊り上げて笑い出す。
 睨みを利かせて動じない人間はそう多くないが、その中でも毅然と見返してくる者となると更に少ない。
「……いい度胸をしていますな」
「あなたもね」
 穏やかな声の中に潜む緊張感。辺りの空気をぴりぴりとしたものに変えながらも、それを言った張本人は素知らぬ顔で悠々とティーカップに口を付けている。
 ふいに表情を緩めたバトラーが、豪快に笑った────これならリュカ王を助けられるだろう、と確信めいた気持ちに満たされながら。
「わっはっはっはっは! 統べる者の貫禄ですな!」
 バトラーの笑いに呼応してようやく微笑みを取り戻したアンジェリークが、あっと声を上げた。
「そうだわ、それなら!」
 すぐに残りの水晶球を一つ手に取り、静かに目を閉じる。淡い金色の光と共に翼が現れ、瞬く間に水晶球も金色に輝いた。
 女王のサクリアを秘めた水晶球は、光の守護聖のものよりも優しく淡い金色をしている。
「ルヴァ」