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花一輪

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「今日は何だか変よ、林殊哥哥。」

林殊の目論見が外れる。

林殊は、聶峰に言われたのだ。
『野駆けをしたり、武術の手合せをするばかりで、詰まらないと、霓凰に言われないのか』と、、、、そう言われた。
確かに、霓凰とはそんな遊びしかしない。
靖王と遊ぶ時と何ら変わらないのだ。
"男の遊び"ではないか、そう言われた。
だが、霓凰だって、楽しそうなのに、、、。
霓凰が楽しそうだから、一度もそんな風に、考えた事など無かったのだ。

『私は、冬をちゃんと楽しませているから、冬は私に優しい。あの、玉が零れるような笑顔、、、。可愛いったら、、。』
要するに、聶峰のノロケだったのだ。

だが、そんな事を言われたら、嫌でも気になってしまうのだ。
自分が好きな物や遊びは、霓凰も好きだ、そう思っていた。

『霓凰を可愛いと、言ってやった事はあるのか??。
口に出す、そこが大事なのだ』と、聶峰は力説する。
━━━可愛いと思ってる、ちゃんと思っているのだ、何故口に出す必要があるんだ。━━━
『それでは駄目だと、、、言って伝えねば分からぬのだ』と、聶峰先生はそう言った。
だから、霓凰に『可愛い』そう言ったのだ。
そしたら、『変』だと言われた。

━━━霓凰は可愛いのだ。━━━
ちゃんと自分にも笑顔を見せてくれる。
━━━、、、、、、もっと、別の可愛い霓凰がいるんだろうか?。
、、、、、、、どんな?、、、。━━━
どうやったら、そんな霓凰を見れるのかと、、、。
『歯の浮く様な、くすぐったくなるようなそんな言葉をかけてみろ』
聶峰先生のご指導だった。
例えば、、
「霓凰、君はなんて可愛いんだ。ツンとしたその顔がたまらない。」
聶峰の言葉を、そっくりそのまま言ってみる。
「林殊哥哥、、、凄く、、、気持ち悪いwww。」
露骨に嫌な顔をして、ぷいと向こうに行ってしまった。

━━━聶哥哥www、言ってた事と全然違うんですけど!!。━━━
聶峰が教えたそっくりそのまんま言ったのに、この結果だった。
他にも色々と入れ知恵されたが、使わない方が良さそうだった。
━━━だよなぁ、、、。私でも聶哥哥が、気持ち悪いと思ったもん。━━━
多分、聶峰は夏冬に試して、成功したものを教えているのだろう、恋の先輩として。
━━━冬姐が可愛いだって?。━━━
夏冬の笑顔が可愛いなど、、、林殊にとっては、夏冬の笑顔は、恐ろしいものでしかない。
笑顔の後には、恐ろしい制裁や、罰が待っているのだ。
夏冬の笑顔に、背筋が凍るのは、林殊だけでは無いだろう。
━━━聶哥哥、、、冬姐に殴られて、どこかおかしくなったんじゃないだろうか、、、。━━━
それとも、脅されて可愛いと言わされているのだろうか。
見た感じは決して、脅されているようには見えない、聶峰は夏冬が好きで仕方がないといった感じなのだ。

━━━私には、無理だ。いくら霓凰が好きでも、霓凰が喜んでいる顔が見たくても、、あんな歯が浮く様な言葉は、私の頭には浮かばない。━━━
人には性格というものがあるのだ。聶峰が夏冬で成功したからと言って林殊達にも当てはまるとは限らない。
案の定、霓凰には気持ち悪がられた。
言っている林殊だって、鳥肌が立ちそうだった。

ふと、霓凰の様子を見た。
穆王府の霓凰の部屋の前、霓凰は庭の端に行き、花を見ていた。
小さな小菊のような、、、。
霓凰は、一輪摘み取って、花の香りを楽しんでいるようだ。
名も知らぬ小菊。
だが、早朝の優しい光の中で、可憐に凛としていた。
林殊は霓凰の側に行き、その様子を見ていた。
林殊は、霓凰の手の中の小菊を受け取り、霓凰のように花の香りを楽しんだ。
爽やかな香りがする。
白くて、花弁の先にほんのり紅が差しているような、可愛らしい花だった。
━━━小さい花だけど、可憐で、、、気高くて、雨にも、強い日差しにも負けず、活き活きと咲いている。
、、、、霓凰みたいだな。━━━
霓凰は、林殊の様子を、頬ずえをついて見ていた。
霓凰の機嫌は、もう直っているようだ。

━━━似合うだろうな、、、。━━━
林殊は何気なく、そう思い、霓凰の髪にその花を挿してやった。
霓凰は、幾らか驚いていたが、抵抗はしなかった。
霓凰の簪の隣に、花は自然に収まった。
華美な飾りは付けない霓凰に、よく似合っていた。
「うん、似合う。」
満面の笑みを霓凰に向ける。

思いもかけない林殊の行動に、驚いたのと、そして、似合うと喜んでくれた林殊の笑顔に、霓凰の鼓動が早くなった。
恥ずかしさと、くすぐったさと、何より似合うと言ってくれた、林殊の笑顔が嬉しかったのだ。

少し戸惑い、頬を赤らめて恥ずかしそうにする霓凰に、林殊の胸が締め付けられる。
━━━━あ、、可愛い、、、。━━━
見た事もないような、霓凰のはにかんだ笑顔。
こんな笑顔は、自分以外には誰も見たことはないだろう、そう思った。


霓凰の様な恥じらった笑顔を、夏冬もするのだろうか。
夏冬は聶峰に、こんな表情を見せるのだろうか、、、。
━━━あの冬姐が、、、嘘だろ、、、。━━━
無い無い、と、全否定した。
夏冬の何に、聶峰が惹かれるのか、全く想像もつかないが、、、大人にしか分からない、心、結び合うものがあるのかも知れない。

━━━どうしたら、また、私は霓凰の、こんな笑顔を見れるだろう。━━━
いつもの遊びじゃ、きっと見せない。
武術の手合せをしたり、靖王と三人で遠駆けしたり、聶峰が言う通り、やっぱりおよそ女の子が遊ぶ事には程遠い。
林殊には、霓凰と遊ぶのは、これしか思い浮かばないのだ。
自分達といつもの様に遊ぶ霓凰が、一番霓凰らしくて、一番輝いている。

ふと、林殊は思いついた。
「霓凰、、今度、皇宮の東の外門で『市』が立つから、遊びに行こうか。」
霓凰の顔がぱっと明るくなった。
だが、直ぐに疑るような表情になる。
「また、、すっぽかすもん、林殊哥哥は。」
ぷうっと霓凰の頬がふくれた。
「絶対に行くよ、必ず行くから!。」
━━━そんなに私は、すっぽかしたっけ?。ま、多少は、すっぽかしがあるけど、、仕方なかった事ばかりだし、、。━━━
林殊の記憶に残らぬだけで、誰との約束も、相当、反故にしていた。
林殊は、やる事が多過ぎるのだ。
誰との約束も、果たし切れないのだ。
霓凰とのこの約束は、果たしたい、絶対に果たしたい、、林殊はそう思った。
霓凰が恥ずかしがったり、一緒に何かを食べたり、霓凰が好きな物は何なのか、靖王や自分と遊ぶ以外の、霓凰の一面を知りたいと思った。
林殊は、思っていたよりも、ずっと霓凰の事を知らないのだ。
『市』を歩いて、そこで霓凰に似合う簪を、選んでやりたい、と、思った。
「ほんとに?、すっぽかしたら、絶交よ。」
霓凰が林殊を、疑っている目だ。
こんな事を言われるほど、こんな目で見られるほど、霓凰に待ちぼうけを食らわせた覚えは、林殊には無かった。
林殊には全く思い当らない。何度かはあるだろうが、それも抜け出せない用事が出来て、、、全て仕方がなかったのだ。
そして今は、こんなに楽しみなのに、霓凰と遊びに行くのを、すっぽかすわけが無い、そう思っていた。

霓凰は小指を出す。
「指切りよ!!。破ったら酷いんだから。」
作品名:花一輪 作家名:古槍ノ標