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花一輪

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林殊は笑いながら指切りをする。
━━━指切りしたのなんか、いつ以来だろう。━━━
「大丈夫だ、私だって行きたいんだから、絶対、反故にはしない。」
ようやく、安心をしたようで、霓凰に笑顔が戻る。
「林殊哥哥と市を歩くなんて、初めてだわ。」
━━━霓凰が嬉しそうだ。まだ、行ってもいないのに。━━━
「哥哥に何か、贈り物をあげるわね。」
━━━そうだな、市で何か選んで、贈り物を交わすのも悪くない。
互いの心は分かっている。━━━

隣で、無邪気に喜んでいる霓凰を隣で見ていると、また林殊の悪い虫が、ムズムズと顔を見せる。
何だか霓凰を困らせたくなる。
「じゃ、陳さんの店の餅が美味いって、義兄達が言ってた!。餅を買ってくれ。」
「え???、お餅???。」
「駄目か?、なら洪さんトコの饅頭も美味いって、、、。」
霓凰がジリジリと怒っているのがわかる。
「もう!!!林殊哥哥って!!。」
分かってる、分かっているのだが、、からかいたくなるのだ。
霓凰から、胸に一撃がくる。
難なくかわしたが、次々に霓凰の手刀が繰り出される。
霓凰は、かなり怒ってる。
暫く霓凰の"怒り"に付き合っていたが、何だか、お互い手合せしてるのが楽しくなってしまって、、、。
━━━やっぱり、こんな遊びになっちゃうよなぁ。━━━
楽しいが、キリが無くなってしまうのだ。
軍営に行く前に、ちょこっと寄ったつもりなのだが、、、。
霓凰が居たら、顔を見て行こう、その程度のつもりだった。
そのつもりで、穆王府の塀を越えたら、霓凰が居たのだ。
大分、長居をした。
━━━楽しいけど、そろそろ行かなきゃなぁ、、。━━━
そろそろ所か、もうとっくに、、恐らく間に合わない。
厳しい主帥には間違いなく怒られる。
聶峰の所に行ったら、少しはかくまってくれるだろうか。
━━━見習いだし。━━━
見習いならば、尚のこと早く行かねばならないのだが、、。

霓凰に、少し疲れが見えてきた。
霓凰が繰り出した手刀を、林殊が掴んで引き寄せたら、霓凰が体勢を崩した。
「おっと、危ない。」
転げそうな霓凰を支えて、体を起して立たせてやった。
「お転婆さん。」
「、、、、、あっ、、。」
林殊は霓凰の額に口付けた。
突然の事に、呆然とする霓凰を置いて、林殊は塀の方へと駆けて行く。
あっという間に、林殊は塀を越していった。
「約束!!、忘れないでね!!林殊哥哥。」
「、、ぉぅ!───、、」
塀の向こうで林殊の声がする。
そして蹄の音。

「何だったんたろう、、、林殊哥哥、、。」
早朝の穆王府に、塀を越えて林殊が姿を現した。
そして、慌ただしく去って行ったのだ。
「、、、、、あっ、、、。」
、、思い出した。
今ここで、林殊と何があったのかを思い出して、顔が紅潮したのを感じる。
自分の頬を、手で触っても熱いのが分かるのだ。
「何だか、一度に色々、、、、。」
「、、やだ、、、。」
林殊が小菊を簪にしてくれた。
頭をそっと触ると、まだちゃんと挿されている。
「良かった、、、。」
気になって、落としてはいけないと思って、きっと動きが変だったかもしれない、そう思った。
変に力が入って、疲れてしまった。
林殊が挿してくれた花が見てみたくなって、霓凰は部屋に入った。
誰かが見ていたら、自分を笑うだろうか、、霓凰らしくないと。

胸の高鳴りは止められない。
他の誰にも、、、自分にも、、、、。



霓凰は暫く、部屋から出てこなかった。



────────糸冬─────────
作品名:花一輪 作家名:古槍ノ標