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未来のために 9

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未来のために 9


ケネディ基地を出立した『アウドムラ』はエゥーゴのモビルスーツ隊を宇宙に上げるべく、霧の中ヒッコリーへと移動していた。
アウドムラの艦橋では、ハヤトとクワトロが今後の予定を確認している。
「クワトロ大尉、ヒッコリーからシャトルで皆さんを宇宙に上げます。衛星軌道上でアーガマが待機していますので、回収してもらって下さい」
「ティターンズの妨害に合わなければ良いがな」
「ええ、この霧が我々を隠してくれることを祈るばかりです」
「そうだな…」
『そう上手くはいくまい…』
クワトロは心の中で呟く。

その頃、ドックではアムロとロベルトがリックディアスの調整をしていた。
「なぁ、レイ」
「ん?何、兄さん」
「お前…、大分記憶が戻ってきてるんじゃないか?」
ロベルトの問いに、アムロが整備の手を止める。
「……何で?」
「何となくな。大気圏突入の時や、ハヤト艦長やカイ・シデンと会った事で…大分思い出したんじゃないかと思って」
アムロは、工具を置くと、ロベルトに向き合い、少し目を伏せながら答える。
「…少し…ね…」
「少しって?」
「…子供の…頃の事…。まだ、小さかった頃…地球で、両親と一緒に暮らしてた」
「そうか、自分の名前も思い出したか?」
それに、アムロは首を横に振る。
「何故か…名前は…思い出せない」
「他には?」
「あとは…断片的過ぎて、よくわからないんだ。映像だけが、ただ脳裏を掠める。摩擦熱で真っ赤に染まった戦艦のカタパルトデッキとか…手を振って俺を見送る…母親の泣き顔とか…」
アムロは目を閉じて、胸元を押さえる。
「学校で…授業を受けてる映像もあった。若いハヤト艦長と、カイさんがいた。それから、茶色の髪に、そばかすの女の子。俺はいつもその子に怒られてた。でも、怒りながらも俺の世話を焼いてくれるその子を、嫌いじゃなかった」
少し笑って話すアムロに、ロベルトも微笑み返す。
「そうか、良い思い出だな」
「ふふ、そうだね」
「その子の事、好きだったのか?」
「好き…うーん。友達としては…好きだったと思う。何て言うか…兄妹とか、母親みたいな…そんな感じ?」
アムロの答えに、まだまだ子供だったんだなと、少し微笑ましく思う。
「兄さんは…俺に記憶を取り戻してもらいたい?」
アムロの質問に、ロベルトは息を止める。
「…そうだな…。記憶は…お前の生きた歴史だからな。きっとお前にとって必要なものだ。良いものもあれば、嫌なものもあるだろう。でも、それも全てひっくるめてお前のものだ」
「俺の…」
「まだ、記憶を取り戻すのは怖いか?」
「……うん…」
アムロは目を伏せて、唇を噛みしめる。
「多分…すごく…怖い事があったと…思う…」
「怖い事?」
「うん…、怖い事…悲しい事…辛い事…」
アムロはつなぎの胸元をギュッと握り締める。
「俺は…多分、前の戦争で沢山…人を殺したんだと…思う。最近見る夢で…俺が殺した人の最期の断末魔を聞くんだ。みんな…俺を“白い悪魔”って言って死んでいく…。兄さんだって本当の俺を知ったらきっと…!」
「レイ!」
震えながら、絞り出すように言うアムロを、ロベルトが抱き締める。
「戦争だったんだ、お前だけじゃない。俺だって何機も撃墜した。だから、そんなに自分を責めるな!」
「兄さん…」
「それに、お前が何者だろうと、そんなの関係ない、俺はずっとお前の兄貴だ。それを忘れるな!」
ロベルトから伝わる優しい思惟に、アムロの瞳から涙が零れる。
「…兄さん、兄さんは…どうして、こんなに…俺に優しくしてくれるの?俺は連邦の…敵兵士だったのに…」
「…どうしてかな。初めは、お前に死んだ弟を重ねてたと思う」
ロベルトは、抱きしめる腕を緩めて、アムロを見つめる。
「でも、一緒に過ごす内に、段々と弟とお前との違いが見えてきて…お前と弟は違うんだと思うようになった」
涙を浮かべながら、自分を見つめる琥珀色の瞳に、ロベルトがクスリと笑う。
「アイツは野菜だって好き嫌いなくちゃんと食べたし、こんなに泣き虫でも無かった」
そう言いながらアムロの鼻先をチョンっと指先で突つく。
「痛っ、兄さん!」
「ははは。俺はさ、お前だから一緒に居たいと、兄貴でいたいと思うんだ」
アムロの涙を、指でそっと拭いながら、ロベルトが微笑む。
「野菜嫌いで、泣き虫で、でも意外と負けず嫌いで、機械いじりに夢中になると時間も忘れて没頭しちまうけど、俺を見つけると満面の笑顔を向けてくれる。そんなお前が好きなんだ。お前が大事で仕方ない」
「兄さん!俺も兄さんが好きだよ!すごく大事だ」
「ああ。正直、大佐から、“お前と付き合いたい”と言われた時は、複雑な気持ちだったな。なんて言うか、娘を嫁に出す父親の気持ち?だった」
「な!シャアは兄さんにそんな事を言ったのか!?それに嫁って…!」
「ははは、それだけ大佐は真剣にお前の事を考えて、想ってくれてたんだ。お前だってそんな大佐に惚れたんだろう?」
「うっ…うん」
顔を真っ赤にして、目を逸らすアムロの頭を優しく撫ぜる。
「だからな、レイ。お前の記憶が戻っても、俺も大佐も変わらない。ずっとお前を想ってる。怖くて、辛い事を思い出したら、俺か大佐のトコに来い。ちゃんと抱き締めてやるから」
「兄さん…」


そんな二人の会話を、リックディアスの影に居たアポリーが偶然聞いてしまう。
「レイが…連邦の…白い悪魔!?」
アポリーは驚愕の表情を浮かべ、その場に立ち尽くす。
確かに、ガンダムの旗艦『ホワイトベース』の元艦長であるブライトはレイを知っているようだった。しかし、ロベルトがア・バオア・クーでレイを連れてきた時、あいつはまだ十五、六歳の子供だった。当然、士官学校だって出ていない年齢だ。
そんな子供が、連邦の最新兵器であるガンダムに乗って最前線で戦っていたというのか?
そして、それを聞いたロベルトの反応に、アポリーは思う。
『ロベルトは既にレイの素性に気付いているのか?』
アポリーは複雑な表情を浮かべながらも、その場を後にした。


ヒッコリーへ向かう途中、カラバのメンバーである、ベルトーチカ・イルマが案内役としてアウドムラに合流した。
「私が皆さんを先導してヒッコリーへ案内します。アーガマからは、クワトロ大尉の百式は絶対に上げるように指示を受けています」
「シャトルには何機積める?」
「三機です」
「MSは4機ある」
「ええ、ですから申し訳ありませんがリックディアス一機はアウドムラに置いていって頂きます」
その言葉に、アポリーとロベルトが嫌な顔をする。
「でも、ご安心ください。アナハイム社から、アーガマにリックディアスが一機、納品される事になっていますから、そちらを使用して下さい」
「そう簡単に言うが、パイロットそれぞれに合わせた調整がある」
アポリーがベルトーチカに食ってかかるのを、アムロが押し留める。
「アポリー中尉、俺が!俺が一から調整し直しますから」
アムロの言葉に、アポリーが上げた拳を下ろし、小さく溜め息を吐く。
「…わかったよ」
アポリーはアムロの肩を軽く叩くと、ベルトーチカに話を続ける様に促す。
一通り説明を受けた後、艦橋を出たところで、アムロはベルトーチカに呼び止められる。
作品名:未来のために 9 作家名:koyuho