花一輪 続編
自然と林殊は笑顔になり、それを見た霓凰が、安心をした。
だが、下を向いて、もごもごと話す。霓凰には珍しい。
「私は、、、哥哥に贈る物を用意してないわ、、。」
「ふふ、、、。」
林殊は寝台の横にある、小机を見る。
「私は、これを貰っていくよ。」
小机の上に、林殊が贈った簪と、その横に器の水に活かされた、あの日の小菊があった。
林殊はその小菊を手に取って、花の香を感じた。
数日経つのに、菊はまだ香っている。
器の水を替え、霓凰がどれ程、大事にしていたのが分かる。
「哥哥、そんな物でいいの?。」
「ん、これがいいんだ。」
この花には、霓凰の心が入っている。どんな贈り物よりも相応しい、林殊はそう思った。
「じゃぁな、良い子でいるんだぞ、じゃじゃ馬さん。」
「もう!、、、落馬しないでね、怪童さん!。」
笑いながら、林殊は背を向け、外への扉へと向かう。
霓凰には、林殊の背中が、大人のように見えた。
この間ここで、市へ行くと約束した林殊とは、まはで別人の様だった。
───何だか、男の人みたい、、、、。───
林殊の後ろ姿が、何かに挑んでいる者の背中のようで、煌めいて見えるのだ。
こんな林殊が好きなのだ。
夢中で何かを追い求めている、そんな林殊の姿が好きなのだ。
支えていたい、、、林殊がやりたい事を追えるように、その為ならば、全てを捧げられる、霓凰はそう思う。
林殊は振り向かずに、去り際に花をもった手を、『またな』とでも言うように上げて、颯爽と部屋を去って行った。
いつもと変わらぬ林殊だった。
また、明日もここに来るかのような、、、。
扉が閉まり、、、帰ってしまう林殊を急いで追った。
部屋の扉を開けたが、もう外には林殊の姿は無かった。
今日は蹄の音は聞こえない。きっと、遠くに繋いであるのだろう。
月明かりが庭を照らす。
一人待つ時は、心細く映った月を、今は心強く感じている。
居る場所は違えども、霓凰を照らす月の光も、林殊を照らす月の光も、どちらも同じ月から注がれる。
そして掌の中にある、互いの花一輪が、二人の心を強く繋いでいるのだ。
例えどこに居ようとも、どんなに時が経とうとも、、、、。
───────糸冬───────