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南楚が、雲南を攻めてきた。

一時、南楚軍が雲南の一部に入り込み、そこを占領されてしまった。
雲南王は梁帝に頼み、赤焔軍が援軍として、駆けつける事となった。

赤焔軍が来たことで、雲南軍の士気が上がり、元々の国境まで押し戻した。

赤焔軍は全軍が来ていた訳ではなかったが、援軍の中には林殊の赤羽営と、赤焔軍とは別に、靖王が率いる靖王府の軍が含まれていた。

南楚も必死だった。
一時は侵攻を成功させたものの、直ぐに奪還され、更に雲南軍と赤焔軍に逆に攻められ、自領地を狭めてしまう危機に陥ったのだから。

南楚の平原で、援軍に来た赤焔軍と、南楚軍が激突した。
これが最後の進軍と、雲南軍営では、皆思っていた。
度々、雲南を攻める南楚を、懲らしめることが目的でもあった。
暫く、南楚王が、雲南に入ってこようなどとは思わぬ様に、とことん痛手を負わせる目的が大きかった。

最後の進軍は、雲南全軍で猛撃をかける。
それで南楚と雲南が、調停をする、そうな筋書きだったのだ。
そして、その目論見はその通りに進んだ。
あとは雲南の王が南楚の王に、どれだけ賠償を求められるかだった。

その戦いの後、雲南軍も南楚軍も、互いの軍営に撤収した。
南楚の戦況は散々だった。
一応の停戦の後、離れた雲南と南楚のそれぞれの軍営が、まだ互いの動きを探っていた。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

あと半刻も経たぬうちに、空が白み始めるだろう。
まだ辺りは闇の中だった。
所々、篝火が燃えている。

雲南軍営の入口を、馬を引いて、そこから出発しようとしている者がいた。
赤羽営の小帥、林殊だった。
鎧も着ずに、単騎で出陣しようとしていた。

「林殊哥哥!!!」
後ろから、大声で呼び止められる。
「しぃっ───!!」
霓凰だった。
慌てて林殊は、霓凰の方に駆けてゆき、静かにするように手で合図する。
霓凰は、また林殊が、良からぬ事をしようとしているのだと、ピンときた。
「ねぇっ、何しに行く気?!。」
「あっ、、静かに話せ、、。」
わざと霓凰は大声で話すのだ、林殊は気が気ではない。
「何処にも出軍の令は出てないわよ!。」
少し悩んで、林殊は打ち明けた。
「衛箏を救出に行くんだ。」
「衛箏??!!。」
確かに昨日、衛箏は戻ってこなかった。
皆、命を落としたのだと、落胆していたのだ。
殊に戦英の落ち込み様は、気の毒な程だった。
そうだろう、衛箏と戦英は、共に腕を競い共に学び合った仲間でもあるのだ。
一度、戦場に出れば、怪我もあり、死もある。
戦英も衛箏も、戦場に赴く折は、互いの死報は覚悟していた。
覚悟をしていても、悲しみは心を締め付けるのだ。

「衛箏は生きてるよ。敵将と闘って、馬を落とされた。
私が、衛箏を連れ出して、戦場から離れた場所に隠したんだ。
足を負傷していたが、一晩位、大丈夫だろ。」
最前線で、赤羽営の騎馬は戦っていた。
南楚の将と、衛箏が騎馬で一騎打ちとなり、衛箏が槍の一撃を食らった。
落馬してとどめを刺されかけた衛箏を、林殊は自分の馬に引き上げて、一時、戦線を抜け出し、そのまま離れたところに置いてきた。
撤収の鐘が鳴ったら、衛箏を連れて引き上げようと思っていたのだ。
しかし、撤収の鐘は、衛箏とは離れた場所にいる時に打ち鳴らされた。方角すら逆だった。
撤収している軍隊の流れに、逆らって助けに行く訳にも行かず、そのまま衛箏を置いてきたのだ。

場所は覚えている。
「戦英に教えてあげたら良かったのに、、、。林殊哥哥、衛箏を助けに行くつもりなのね。」
霓凰は、当然自分も行くという顔で、口角が上がる。
「林殊哥哥、単騎で行くつもりだったの?。赤羽営を連れて行った方が良いわ。それに、鎧くらい着けた方が安全だわ。」
事実上、停戦状態とは言え、無鉄砲にも程があった。
昨日戦場となった場所は、南楚の領土だ。そして衛箏はそこに居る。
林殊は霓凰に小声で答える。
「赤羽営で行ったら、また戦になる。私、一人で行くから、戦にならずに済むんた。鎧なんか着けたら、重くて逃げ切れない。」
確かに、単騎で行けば向こうの軍も、警戒は薄い。
なるべく、停戦の静けさを乱したくはなかった。
林殊は、単騎でこっそり行けば、見逃してはくれないだろうか、という調子の良い望みすら抱いていた。
「そうね、じゃ、私も行くから、林殊哥哥。」
絶対に譲らない、そんな視線を霓凰からヒシヒシと感じた。
───霓凰は、絶対に付いて来る気だな、、、、。───
面倒になる予感がする。
林殊は幾らか考えて、「分かった。」そう答えた。
「じゃ、霓凰、自分の馬を連れて来いよ。」
自分の馬を取りに背中を向けて、霓凰はハッと気がついた。
「林殊哥哥、私が馬を取りに行ったら、そのまま置いていく気でしょ!!。」
そうはいかないから、と、側に繋いである馬を引いてきた。
たまたま、その馬には鞍まで付いている。
林殊には信用がなかった。
「はぁ、、。」
林殊から溜息がもれた。

まだ暗いうちに、二人で軍営の門を出た。
急がなくていい、霓凰にはそう伝えた。
気持ちだけが逸り、駆け出したい気持ちになるが、衛箏のいる場所の近くは、敵軍の南楚の見張りが、監視しているだろう。
馬を駆けさせて向かおうものなら、例え、林殊一騎だけだろうと、只事では無いと、迎え撃つ南楚軍が出てくるだろう。
そうしたら、また、全軍での戦が始まってしまうのだ。
この度の雲南と南楚との戦は、一応、終結をしたのだ。
衛箏一人の為に、また戦になるのは望まない。

雲南と南楚だけの戦いならば拮抗しようが、今は赤焔軍の援軍があり、どちらに分があるかは目に見えていた。
力の差が歴然とした戦いなのに、、そんな戦いで衛箏を失いたく無かった。
本来ならば、衛箏は自分で命を繋ぎ、自力で戻ってこなければならないのだろうが、林殊は目の前で馬から落とされたのを見てしまった。
衛箏を、助けずには居れなかった。



✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

夜が空ける、段々と空が白んで来る。
その頃、雲南の軍営では、戦英が靖王から怒られていた。
「何故もっと早く見せぬのだ!。」
林殊からの書状を読んだのだ。
書状には、衛箏の一件と、衛箏のいる方角と、そして迎えに来いと一言だけだった。
「申し訳ありません、夜が明けたら殿下にお渡しせよと言われ、、。」
ただの書状では無いと思っていた。
夜明けは近いが、まだ辺りは真っ暗だった。
靖王は休んでいる靖王を起こしてはいけないと、精一杯靖王に気を使い、、、それでも空が白む前に靖王に渡そうと、靖王の軍幕を訪ねたのだ。
靖王は既に起きていた、いや、眠っていなかったのかも知れない。

靖王は戦英に、林殊からの書状を見せる。
戦英は目を通して、驚いていた。
「衛箏は生きているのですか?。」
戦英は靖王を見る、靖王は黙って頷いた。
「私とお前だけで行く、極秘に動くのだ。」
「は。」
「戦英、武装はするな、このまま行くぞ。」
「はい。」
もとより、軍営では常に手甲胸当てなどは、常に身に付けていた。何が起こっても対応出来るようにだ。
完全な武装ならば、南楚軍と出くわせば戦わねばならぬ。
作品名: 作家名:古槍ノ標