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intermezzo ~パッサウ再会篇9

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なぜ?…なぜ?こんな事になった?そうして呆然と佇んで答えの帰ってこない自問自答を繰り返している俺の前に…そいつは現れた。そして、俺に告げた。「ミハイロヴァ夫人と執事を無事保護している」と。そいつに連れられてやって来た先は、そいつの家の今は使っていない別邸だった。相当ショックは受けたものの、お祖母様も無事であるとオークネフー、ミハイロフ家の執事から報告を受けて俺はひとまず胸を撫で下ろした。しかし、あの時に若い男に連れ去られたというユリウスの行方が杳としてわからないままだと言う。俺は不安に胸を掻きむしられるようだった。あいつは一体どこへ…どこへ連れ去られたのだろうと。一方で、俺にはやる事も山積していた。まずはお祖母様を始めとするミハイロフ家の人間を新たな住処へ移す事。俺の幼馴染は王党派の人間に仕えていたから…いつまでも彼女の好意に甘えている訳にはいかなかった。しかしミハイロフ家は1905年に兄の反逆で爵位を剥奪された折に領地一切を皇室に返還していたから、他に住む所がない。万事休すのところに、執事が一つだけあの時に台帳に記載していなかった為に没収を免れた屋敷の存在を思い出してくれた。ー それは、俺の母の為に、俺を身篭った母の為に亡き父が密かに用意させていたこじんまりとした屋敷だった。結局俺の母は身を引いて故郷へ帰って俺を産んだ為に、その屋敷は使われる事なく間も無く父も亡くなり、そのまま忘れ去られていたんだ。早速俺とオークネフがその屋敷を見に行ったよ。…30年放置されたままになっていたその屋敷は…暴徒に荒らされたミハイロフ屋敷と同じくらい、いや、それ以上に惨憺たる有様だった。オークネフ以下ミハイロフ家の使用人達が奮闘してくれたお陰で、何とかお祖母様と屋敷の人間が過ごせるスペースを確保出来た時点で、お祖母様たちはその屋敷へと移った。数日後、ユリウスとも再会を果たすことが出来、ミーチャも戻って来て、身重の身体のユリウスの代わりにミーチャが屋敷の補修に通ってくれた。その間も国内の状況は刻々と変化し、コルニロフ将軍の軍事クーデターが失敗に終わり、戦争の責任問題で臨時政府のケレンスキーが失脚し、冬宮を逃れ、戦争の即時講和を掲げていた俺たちボリシェビキが権力を握った。弾圧を受けて散り散りになっていた支部の奴らがペテルブルクへ戻って来て、弾圧の際に襲撃で失った事務所の臨時として、その廃墟…もとい屋敷の空室を提供する事を思いついた。事務所を失った俺たちと人手が足りないミハイロフ家の人間。お互いないものを補い合ってこの苦境を乗り越えていこうってな。お祖母様も貴族の婆あとは思えない適応力で支部の奴らと打ち解けて、支部の奴らも女房や子供を連れて来て、屋敷内の掃除や日常生活の手助けなんかを進んで買って出てくれて、あそこは…俺たち支部の人間のユートピアのような場所になった。皆が集い、助け合い、労わり合う…そんな俺たちが夢見た理想があの小さな屋敷にはあった。革命後支部の臨時事務所は解体したが、その後も空室と庭を共同の賃貸しダーチャとして解放し、あの屋敷には老若男女の笑いがいつも溢れていた。無論金などない俺たちに、家賃を払える人間なんて殆どいないからさ、最低限の共益費だけ払って、あとは物々交換と労働力でその家賃を皆支払っていたな。老人ばかりで人手がないミハイロフ家の人間を助け、その代わり屋敷を使い、庭で野菜やハーブを作り、ニワトリやヤギや豚を飼う。その後ひょんなところで奇跡的に生き別れていたアルラウネと再会して、彼女もその屋敷で暮らすようになり、お祖母様は気のいい奴らに囲まれて、亡くなった兄の婚約者だったアルラウネに手厚く面倒見てもらい賑やかな幸せな晩年を過ごして、天寿を全うしたよ」

「…そうか」
アレクセイの語るその後の話に、ヘルマンがホッとした顔を見せる。

「懐かしいね…。あのお屋敷の共同ダーチャ」

「俺らはあの後間も無くフランス駐在を命じられたから…結局殆どあそこにはいられなかったな」

「うん。…でも短期間だったけど、家族がいて支部の皆がいて…あそこは夢のような場所だったよ」

「そうだったね。…僕はあそこで初めて乗馬を習ったんだっけ」

「お前、ぜんっぜんセンスなかったけどな。マルコーみたいなおとなしい老馬も乗りこなせなくてどうするんだって話だよ!裸馬で走る列車を追いかけた母親の息子とはとても思えないぜ」

アレクセイが当時の思い出をほじくり返す。

「あー!もう、やめてよ。ファーター!…そのおかげで、馬には早く見切りをつけて、自動車の運転の腕を磨きました」

「そうだねー。ミーチャは車の運転上手だったよね〜。トラックに沢山荷物積んでペテルブルクの細〜い道もスイスイ走っていくの」

ユリウスが絶妙のフォローを入れる。

「逆にお前の運転は酷いもんだったな。何度トラックで壁をぶっ壊した?」

アレクセイの言葉にレナーテの顔色が思わず変わる。

「もう!ひどーい!そんな…壁を壊したのの一回や二回…いや三回…」

ユリウスの言葉にその場の人間が凍りつく。

「死人が出なかったのが、あとお前が死人にならなかったのが奇跡だよ!ったく」

「あの夏を生き延びたのだもの。そうそう皆簡単にはくたばりませんよーだ」

再び食卓が笑いに包まれた。

「…これが…、一青年ボリシェビキ革命家と、その押しかけドイツ人妻の歩んだ20年でした。ふふ…。こうして辿ってみると…結構ぼくらの人生も波瀾万丈だったねえ?」
ユリウスが夫の顔を見やる。

「ああ。まぁな。死にそうになったのも…一度や二度じゃないしな。でもしぶとくこうして革命後の新世界を生きていて、しかも、すばらしく強いヒキで奇跡の再会まで果たした」
ユリウスの言葉にアレクセイがニッと笑って返す。