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intermezzo ~パッサウ再会篇 番外編

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「ツッ!」

だいぶ古くなったレッスン室のドアがささくれていたのだろう。
何気なくそこに手に触れたヘルマン・ヴィルクリヒの指にささくれた部分の棘が刺さった。

「大丈夫ですか?」

レッスン室のピアノの前に腰掛けてヘルマンを待っていたユリウスが、その声に弾かれたように立ち上がると、彼の元に駆けつけ、その手を取って傷ついた部分を覗き込む。

男にしておくには美しすぎると転校初日から話題を攫ったこの教え子の眩い金の頭が丁度ヘルマンの鼻先に接近する。

窓から差し込む午後の日差しを受け、彼の金の髪はますますキラキラと輝きを増す。

ー クリームヒルト⁈

時折鼻先を掠めるその金色に光る柔らかな髪の感触は、不思議と十数年も昔に彼の前から突然姿を消した運命の恋人の眩い金髪を想起させた。
その感触、輝きばかりではなく、髪から立ち上る芳しい香りさえも、記憶に残る彼女とよく似ているような気がしてくる。

ー ば、馬鹿な!いくら綺麗な顔をしているからと言って、彼は男!ましてや、あの宿敵、アルフレートの息子だぞ?

ヘルマンは一瞬眩惑されて脳裏に浮かんだその馬鹿げた妄想を、激しく首を振って脳内から追いやる。

「どうかしましたか?先生」

ヘルマンの挙動に気づいたユリウスが、彼の指から顔を上げて尋ねる。

その見上げた顔立ちもまた、男にしておくのは勿体無い…ばかりかもはや不自然とさえ思える愛らしさで、そしてその表情もまた、かつての恋人の面影を想わせ、「一体どうしちまったんだ⁈俺は」と、しぱしぱと瞬きして今一度目の前の教え子を見つめる。

「先生?どうしました?…痛い?」

かのクリームヒルトと同じ碧の大きな瞳がヘルマンを上目遣いに見上げる。

ー ドキッ!!!

ヘルマンの鼓動が大きく脈打つ。

「…ダメだ!やっぱ取れない。先生、医務室行きましょう。医務室でちゃんと取ってもらって、消毒してもらいましょう!」

そう言ったユリウスがヘルマンの無骨な手首を取り立ち上がった。

レッスン中でも細いと思っていた指は、こうして手首を握られるとその細さが改めて感じられ、男の子の手というよりも、これは女性の、少女の指の細さである。

「え?あ、だ、大丈夫だ。このぐらい…」

ドギマギしながらそう言ったヘルマンの言葉をユリウスのソプラノが遮る。

「ダメですよ!古い木材の棘は甘く見てはいけないと、母さんも言っていました!すぐに医務室へ行って処置してもらいましょう?ね?」

そう言うとユリウスはヘルマンの手を引いてレッスン室を出た。

自分の手を引き前を足早に行くユリウスから仄かな甘い香りが漂ってくる。

ー ど、どうしたんだ?俺は!…クリームヒルトに去られて十数年…欲求不満もとうとう末期的症状を迎えたか〜〜?