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intermezzo ~パッサウ再会篇 番外編

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ユリウスに手を引かれて訪れた医務室は、生憎校医が不在だった。

「すみません。先生?お留守ですか?」

呼びかけたユリウスのソプラノにも返事がない。

「どうしよう…」

ユリウスが片手でヘルマンの手首を握ったまま、もう片手を握って口元に当て、どうしようかと小首を傾げている。

ー やべ!…可愛い

その愛らしい仕草に再びヘルマンの鼓動がドクンと大きく脈打つ。

「先生?…なんか、脈、早くないですか?」

ユリウスが手首を握りしめたヘルマンの脈の早さに気づく。

「え?え?!…そうか?…最近運動不足だからなぁ〜。ハハ」

自分の動揺を指摘されたヘルマンが笑ってごまかす。

ー まさか、お前の愛らしい姿に昔の恋人を重ねた…なんて口が裂けても言えねえよなあ〜。

「…そう?先生、ぼくが手当します。…大丈夫!棘は半分頭を覗かせてるし、器具さえあればぼくでも取れます」

そう言うとユリウスは、手を引っ張ったまま、医務室へ入って行った。

スツールにヘルマンを座らせると、「えーっと、毛抜きはどこだろう?」と、棚を開けて道具の在り処を探っている。
ふとした瞬間に肩の辺りで波打っている金髪の下からわずかに覗く白い首筋と柔らかそうな頰のラインが眩しい。

「あ、あった!」

ユリウスが小さく歓声をあげる。

「一瞬で終わりますからね?」

そう言うとユリウスは再びヘルマンの手を取ると、片目を瞑り棘に的を絞り、皮膚からわずかに頭を覗かせた棘を毛抜きで摘むと、「エイ!」と一気にそれを引き抜いた。

チクリという刺激と共に棘がヘルマンの指から抜ける。

「ホラ!結構大きい!」

ユリウスが得意げに、棘を摘んだ毛抜きをヘルマンの目の前に翳して見せた。
達成感で碧の瞳がキラキラと光っている。

「あ、ああ。ありがとうな…」

そう言って手を引っ込めようとしたヘルマンの手をユリウスが握って止める。

「まだです。ちゃんと消毒しなくちゃ」

そう言うと、ユリウスは自分の手の平にヘルマンの手を乗せたまま、傍のアルコール綿をピンセットで摘んで消毒し、軟膏を細い指先に取って患部に塗る。ユリウスの細い指先の感触が何ともこそばゆい。

ヘルマンの指に集中するユリウスの伏せた長い睫毛が白い顔に影を落す。

包帯を巻き終わったユリウスが「これでOKです」と満足げにニッコリと笑いかけた。

「あ?ああ。ありがとう。…すまなかったな、ユリウス」

その笑顔に思わず見とれたヘルマンが、手当して貰った手をサッと引っ込め、ドギマギと礼を言う。

「…先生?顔、赤いですよ?…具合、悪いですか?…レッスン、休講にしますか?」

そんなヘルマンの顔を心配そうに下からユリウスが覗き込んだ。

不意に近づいてきたその愛しい恋人そっくりな顔に、思わずヘルマンが椅子から飛び退く。

「だ、だ、大丈夫だ!じ、時間を取って、わ、悪かったな!…さあ、レッスンへ戻ろう!」

「はい。…お願いします」

ヘルマンのその不審行動に、ユリウスが僅かに小首を傾げながら訝しげに返事をした。

その後のレッスンは、最早レッスンにならなかったのは、言うまでもない。