intermezzo ~パッサウ再会篇 番外編
「俺を除くと、こいつと親友だったイザーク、それから演奏のパートナーだったダーヴィト、その次にこいつと密に接してたのが担当教官だったあんただ。ヘルマン・ヴィルクリヒ。こいつと普段接していて、こいつのこと、なんか変だと思ったことは一度もなかったのか?」
とアレクセイに訊かれたヘルマンが、「そう言えば…こんな事があったな」と語って聞かせたそのエピソードに、ユリウス以下そこにいた一同が「え〜!?」と思わず声を上げる。
「おま…、俺のユリウスに、何邪な欲情を掻き立ててんだよ?」
自分で話を振っておいて、今にも掴みかからんとしているアレクセイに、「し、仕方ないだろう?こんなに似た顔が不意に接近して来たんだ!…それに…、ユリウスは当然男だと思ってたから…。レナーテの、クリームヒルト以外の女に心を動かすよりは…OKかな…と」
「はあ?…なーにがOKだ?!お前、寧ろ二重にアウトだよ!」
「そ、そうよ!…ヘルマンたら。…それに、ユリウス!あ、あなた、あれ程女の子だとバレないよう気をつけなさいと、口を酸っぱくして言っていたのに…」
母親のお鉢が思いがけず自分のところに回って来たユリウスが困惑気味に
「えー!?だ、だって…。まさかそんな風に見られていたなんて…。第一周りに自分がどう見られているかなんて…分からないよ」
と当時の自分の行動を弁解する。
そんな動揺収まらない大人達を、傍から冷ややかに見ていた子供らー、ミーチャとエレオノーレが、呆れたように顔を見合わせてこの事態の収束に乗り出す。
「ファーター、落ち着きなよ。…ヴィルクリヒ先生だって母さんを当時は女の子として認識していた訳じゃないんだから…これは事故のようなものだよ。ね?そうでしょう?」
ミーチャに同意を求められたヘルマンが、「あ、ああ。そうとも…言えるな」と大きく頷いてみせる。
「お母さんも!…お姉さんに今更そんな事言ったってしょうがないでしょう?お父さんがお姉さんにときめいたからって、妬かない妬かない!…お姉さん、ごめんなさいね。相変わらずこんな人で」
エレオノーレが呆れたように母親に中々鋭いツッコミを入れて、傍の姉に意味深なウインクを投げかける。
そんな娘に「や、やいてなんか、い、いないわよ!もう!この子ったら、いつも憎たらしい事ばっかり!」とムキになってエレオノーレに食ってかかる。
「ハイハイ。…それが、妬いてるって、言うんです。全く、ホンット〜にメンドくさい性格してんだから…」
レナーテの憤慨を何処吹く風といった調子でいなし、肩を竦めてユリウス達に目配せすると、エレオノーレはまだ憤慨収まらない母親の肩をポンポンと叩いた。
「大人をからかうんじゃありませーん!この子ったら…この子ったら…。一体…誰に似たのかしら!もう!」
頭から湯気を出さん勢いのレナーテに、「キャー!お父さん、助けて!」とヘルマンの背後に回り、父親を盾にしていたずらのバレた子供のような顔をひょこりと覗かせる。
そんな家族ー、母親と彼女の新しい伴侶、そして二人の間に生まれた半分だけ血の繋がった妹の様子に、ユリウスがプッと吹き出す。
「アハ、アハハ。その減らない口は、案外、ぼくに似たのかもね。…ぼくもゼバスにいた頃は、そのぐらいの減らず口は毎日叩いていたよ。それで…何度姉様達を怒らせたか…。何度モーリッツと取っ組み合いの喧嘩になったか!」
可笑しくてたまらないといったようにお腹を抱えて笑うユリウスに、「そう言えば、お前は本当にクソ生意気な下級生だったよ」とアレクセイまでもが、当時のユリウスの武勇伝の数々を思い出し、可笑しそうに笑い出した。
「そうだった!俺も、何度こいつらの取っ組み合いを止めたか。…なんたって最初の出会いが、取っ組み合いをしているお前さん達を引き剥がすために、水をぶっかけたんだったよなあ」
ハッハッハ とヘルマンも往時を可笑しそうに振り返り、笑い出す。
「ムッターが?ファーターと?取っ組み合い?!」
想像を絶する母親の少女時代のお転婆振りに、思わず目を丸くするミーチャに、
「ああ、お前のムッターはな、飛び切りキュートで愛らしくて、とんでもないジャジャ馬だったんだよ」
ー な?
アレクセイに目で同意を求められたユリウスが、恥ずかしそうにコクリと頷いた。
作品名:intermezzo ~パッサウ再会篇 番外編 作家名:orangelatte