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未来のために 10

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アムロの両腕を掴んで問い詰めるシャアに、コクリと頷く。
「まだ…自分の気持ちの整理が付かないんです。頭では分かってるんです。でも、心がついていかなくて…」
悲痛な表情を浮かべて、アムロがシャアを見上げる。
「……」
そんなアムロに、シャアは少し思案した後、もう一度問う。
「どうしても、私の側には居られないか?」
その問いに、アムロはコクリと頷く。
「すみません…貴方と共にいると…恨んでしまいそうで…」
シャアは溜め息を吐くと、アムロの両腕を掴む手に力を込める。
「…分かった…。しかし、次に地球に降りた時には、何があっても君を宇宙に連れて行く!いいな?」
有無を言わせない口調のシャアに、アムロは戸惑い、頷く事が出来ない。
次に会う時までに、自身の心が整理出来る自信が無かったのだ。
「アムロ!」
返事を求めるシャアに、アムロは困った様に視線を上げて小さく答える。
「…分かりました…」
その返事を聞き、シャアは少しホッとした表情を浮かべ、アムロから手を離し、優しく肩を叩く。
「絶対だぞ」
そして、ハヤトとこれからの事を決める為、医務室を出て行った。
それを見送ったアポリーがアムロを心配気に覗き込む。
「本当に残るのか?」
アムロはアポリーを見つめ、コクリと頷く。
「すみません。勝手にアポリー中尉のリックディアスを借りるなんて言って…」
「元々置いて行く予定だったんだ。構わんよ。ティターンズの妨害は充分考えられるしな。お前に守って貰えるなら心強い。それよりも…クワトロ大尉と…離れ離れなんて…本当に良いのか?」
「…はい…自分で…自分の気待ちが分からないんです。憎いのに…愛してる…。あの人にどう接して良いか…頭の中がグチャグチャで…」
「…まぁ…そうだな。分かったよ。ゆっくり考えな。でも、二度とさっきみたいな真似はするなよ」
アムロが馬鹿な真似をしない様にと釘をさす。
「はい、ありがとうございます。アポリー中尉」
アポリーは、アムロの頭をクシャクシャと撫ぜると、クワトロに続いて医務室を出て行く。
そして、最後まで言葉を発しなかったカミーユも、アポリーについて部屋を後にした。
後に残されたベルトーチカが、アムロへと視線を向ける。
「さっき、クワトロ大尉があなたの事を“アムロ”って呼んでたけど…やっぱりあなた、アムロ・レイなんでしょう?」
ベルトーチカの無神経な言葉に、アムロは少し表情を曇らせる。
「ねえ、違うの?」
自分に詰め寄るベルトーチカのグリーンの瞳に、アムロは少し苛立ちを感じて視線を逸らす。
「出撃準備をするので…」
アムロはそう言うと、ベルトーチカの横をすり抜け、足早にドックへと向かって医務室を飛び出した。
「あっ、もう!どうして教えてくれないのよ!」
皆が出て言った扉を見つめ、ベルトーチカが声を荒げる。
それを遠くに聞きながら、アムロは唇を噛み締めた。


ドックでは、ノーマルスーツに着替えたシャア達が準備を進めていた。
アムロはアポリーのリックディアスへと乗りこみ、起動準備を始める。
と、そこにシャアが現れた。
「シャア…」
アムロは手を止めてシャアを見つめる。
シャアゆっくりとアムロに近付き、そっとアムロの頬に触れる。
「今度は…振り払わないんだな…」
ホッとしたように呟くシャアに、アムロが切なげな表情を浮かべる。
「…さっきは…すみません…」
「本当は…君を手放したくなどない。しかし…今の君には時間が必要なのだろう?」
アムロは、辛そうに自分を見つめるシャアに、胸が締め付けられる。
「…レイ、私は君を愛してる。レイも…私を愛してくれているだろう?」
「シャア…」
シャアはアムロの顔を引き寄せ、そっと口付ける。
「出来る事ならば…“アムロ”にも私を愛して貰いたい」
アムロは何も答えられず、涙を堪えるように、唇を噛み締める。
そして、自分のままならない心に、どうして良いか分からずにノーマルスーツの胸元を握り締めた。
「私は必ず君を迎えに来る。その時まで…どうか無事で…」
最後にもう一度キスを贈ると、名残惜しげにコックピットを去っていった。
アムロは、シャアの温もりが残る唇に指を這わせ、胸を締め付けるこの想いに息を止める。
「これは…“レイ”の…想いなのか?…俺の想いは…」
答えの出ない疑問に、アムロの瞳からは涙が一筋零れ落ちる。
「ごめん…シャア…少し…時間をくれ…」

ベルトーチカの先導の元、シャア達一行はヒッコリーへと向かった。
やはりアムロの予想通りティターンズの妨害にあったシャア達だったが、アムロのフォローに入ったカミーユを残し、シャトルは無事に宇宙へと還っていった。
そのシャトルの残した飛行機雲を見つめながら、アムロは涙を流す。
自身の揺れる想いを抱えながら…。


to be continued...

次こそ完結!


作品名:未来のために 10 作家名:koyuho