甘い水の中で 5
甘い水の中で 5
コロニー『スウィート・ウォーター』、今日ここで、ネオ・ジオンと連邦政府高官との会談が開かれる。
ネオ・ジオンと言っても、ハマーン・カーンが率いていた、ザビ家復興を目的としたものではなく、ジオン・ズム・ダイクンの息子、シャア・アズナブルが、スペースノイドの自由自治を求める為に立ち上げた組織だ。
「なぁ、本当に俺を同席させる気か?」
長い通路を歩きながら、アムロは前を歩く真っ赤な総帥服の男に語り掛ける。
しかし、男からは返事がない。
「おい!シャア!聞いてるのか?」
すると、前を行く男の足が突然止まり、アムロはその背中に衝突してしまう。
「痛てっ!急に止まるなよ!」
顔に手を当てて痛がるアムロの肩をシャアが掴む。
「君に、今一度確認しておきたい」
「な、なんだよ」
「私を愛しているか?」
「は?」
真剣なシャアの瞳に、アムロが戸惑い、固まる。
「返事を…アムロ」
「シャ、シャア…」
アムロは顔を真っ赤にしながらもシャアを見つめる。
「…こんな所で言うことかよ」
「連邦の人間に会う前に…確認したい」
「俺が…連邦に戻ると思っているのか?」
アムロがシャアを睨みつける様に見上げる。
「君を信じている…だが…君の言葉が欲しい。臆病な私の為に、君の心を聞かせてくれ」
情けない顔をして自分を見つめる美丈夫に、アムロは盛大にため息を吐く。
「貴方ほどの人が、何を情けない事言ってるんだよ」
「君に関してはどうしようもない」
「ったく」
アムロはおもむろに制服の襟を緩め、首に掛けていたネックレスを取り出す。
そして、チェーンに通された指輪を抜くと、自身の指にはめる。
「アムロ?」
「このリングに誓うよ。俺は、貴方を…シャア・アズナブルを愛してる。一生そばにいるよ」
そう言いながらリングにキスをする。
「これで良いか?言ったからな!」
羞恥に顔を真っ赤に染めて、目を逸らすアムロに愛しさが込み上げる。
「アムロ」
そのままギュッと抱きしめ、緩んだ襟元に唇を寄せる。
そして、そこにキュッと吸い付き、紅い花を咲かせると、嬉しそうに微笑む。
「ちょっ!バカ、痕つけるなよ!」
「見えないよ」
「そう言う問題じゃない!」
「すまない、嬉しすぎて我慢が出来なかった」
その蕩けるような笑顔に、アムロはもう何も言えなくなり、小さく溜め息を吐く。
「ほら、行くぞ」
襟元を正して、アムロがシャアの背を叩く。
「ああ、行こうか」
二人は並んで前を向き、颯爽と歩いて行く。
そして、その後ろを側近と護衛の二人が、げんなりとした表情でついて行く。
「何て言うか、アムロ大尉のああいう所は潔くてカッコいいですね。ただ、あの二人、俺たちが後ろにいる事忘れていませんかね」
「アムロ大尉は忘れていたでしょうね。大佐は分かっていて、やっていたでしょうけど」
「ですよね」
二人の後ろで、ギュネイとナナイが盛大に溜め息を吐いた。
そして、連邦の高官達が待つ部屋のドアを開けると、シャアは先程までの不安げな表情は何処へやら、堂々とした態度で高官達に対峙する。
シャアの後ろについて、アムロが部屋に入ると、その姿を見た連邦の高官達が騒めく。
『…まぁ…そうだよな。っていうか俺、脱走兵になるのか?でも拉致されたんだし…捕虜扱い?』
などと考えながらも顔を上げて高官達へと視線を向ける。
と、そこには、高官達に混じって自分のよく知る人物が驚愕の表情を浮かべてこちらを見つめていた。
「ブライト!」
ブライトはシャアの後に続き、部屋に入って来た見覚えのありすぎる人物に、ただ驚き、声が出ない。
行方不明のクワトロ・バジーナ大尉、否シャア・アズナブルを探すと言って、ずっと恐れていた宇宙に上がり、たった一人で捜索を続けていたアムロ。
誰もが彼は死んでしまったと思っていたが、アムロだけは生きていると言い張り、探し続けていたのだ。しかし、数ヶ月前からそのアムロと連絡が取れなくなった。
何処にいても、必ず定期報告だけはして来ていたのに、それが途切れたのだ。
アムロの身に何かがあったのだろうと思い、軍にアムロの捜索を依頼したが、連邦にとってアムロはシャイアン基地を脱走した元脱走兵であり、扱いに困り、持て余していた存在だった為、連邦による捜索は形だけで殆ど行われなかったのが実情だ。
そのアムロが、ネオ・ジオンの制服に身を包み、表舞台に舞い戻ったシャア・アズナブルの隣にいるのだ。
この瞬間、ブライトはアムロの無事を喜ぶと共に、アムロ・レイがネオ・ジオンに渡れば、戦争になった場合、間違いなく連邦は敗れると悟り、ゴクリと息を飲む。
今回の会談は、まだ正式には立ち上がっていないネオ・ジオンに対し、連邦の高官がジオンに有利な条件を提示してその活動を制限しようと目論んだ事により開かれる事になった。
しかし、シャアがそれを簡単に受け入れるとは思えない。むしろこの機会を上手く利用し、連邦が気付かぬ間にネオ・ジオンに有利な情況に持って行くのだろう。
それに、新生ネオ・ジオンは連邦が思っている以上に大きな規模なのではないだろうか?
彼が求める根本は、ザビ家のようなジオンの復興ではなく、エゥーゴで活動して来た時同様、スペースノイドの連邦からの独立だ。当時、連邦を内側から改革しようとした彼は、その腐った実情に見切りをつけ、自ら対抗組織を立ち上げたのだ。
その思想は元ジオンの人間のみならず、多くのスペースノイドに支持されるだろう。
彼にはそれを成し遂げる実力とカリスマ性がある。ジオンの支持を受ける血筋もある。
そして何より、かつての連邦の英雄が連邦を見限り、シャア・アズナブルと手を組むとなれば、連邦にとって大きなイメージダウンにも繋がる。
…連邦は…アムロの暗殺に出るかもしれないな…。
嫌な予感に、ブライトは顔を顰める。
「シャア総帥…会談の前にお聞きしたい」
「何ですかな?」
一人の高官がシャアに向かって問いかける。
「貴殿の後ろにいるのは…連邦のアムロ・レイ大尉ではありませんか?」
その問いに、シャアがニヤリと笑って答える。
「ええ、間違いなく、“元”連邦軍人アムロ・レイ大尉です」
シャアの“元”という言葉に、アムロとブライトが怪訝な顔をする。
確かに数ヶ月間行方不明になっていたが、死亡認定を受けたわけでも、退役をした訳でもない。
『どういう事だ?』
状況が分からず、シャアと高官達の様子を伺っていると、高官達は“元”という言葉に特に何も疑問を感じていないようだった。しかし、何か動揺している。
「まさか…何故…?」
高官の口から思わず出た言葉に、シャアがクスリと笑う。
「“何故”生きているか?と驚きか?」
高官は自分の失言を隠すように口元に手を当てて押し黙る。
その様子に、思わずアムロが疑問の声を上げる。
「シャア…どういう事だ?」
「ふふ、彼らは君がここに居る事ではなく、生きている事に驚いているのだよ。おそらく君は既に連邦軍内で死亡認定が下されて軍人名簿からも除籍されている。だから“元”大尉だ」
「だから、どういう事だって聞いてるんだ」
「君の身体に発信機が埋め込まれていただろう?」
シャアに拉致された時、探知機で体内に埋め込まれた発信機が見つかった。
コロニー『スウィート・ウォーター』、今日ここで、ネオ・ジオンと連邦政府高官との会談が開かれる。
ネオ・ジオンと言っても、ハマーン・カーンが率いていた、ザビ家復興を目的としたものではなく、ジオン・ズム・ダイクンの息子、シャア・アズナブルが、スペースノイドの自由自治を求める為に立ち上げた組織だ。
「なぁ、本当に俺を同席させる気か?」
長い通路を歩きながら、アムロは前を歩く真っ赤な総帥服の男に語り掛ける。
しかし、男からは返事がない。
「おい!シャア!聞いてるのか?」
すると、前を行く男の足が突然止まり、アムロはその背中に衝突してしまう。
「痛てっ!急に止まるなよ!」
顔に手を当てて痛がるアムロの肩をシャアが掴む。
「君に、今一度確認しておきたい」
「な、なんだよ」
「私を愛しているか?」
「は?」
真剣なシャアの瞳に、アムロが戸惑い、固まる。
「返事を…アムロ」
「シャ、シャア…」
アムロは顔を真っ赤にしながらもシャアを見つめる。
「…こんな所で言うことかよ」
「連邦の人間に会う前に…確認したい」
「俺が…連邦に戻ると思っているのか?」
アムロがシャアを睨みつける様に見上げる。
「君を信じている…だが…君の言葉が欲しい。臆病な私の為に、君の心を聞かせてくれ」
情けない顔をして自分を見つめる美丈夫に、アムロは盛大にため息を吐く。
「貴方ほどの人が、何を情けない事言ってるんだよ」
「君に関してはどうしようもない」
「ったく」
アムロはおもむろに制服の襟を緩め、首に掛けていたネックレスを取り出す。
そして、チェーンに通された指輪を抜くと、自身の指にはめる。
「アムロ?」
「このリングに誓うよ。俺は、貴方を…シャア・アズナブルを愛してる。一生そばにいるよ」
そう言いながらリングにキスをする。
「これで良いか?言ったからな!」
羞恥に顔を真っ赤に染めて、目を逸らすアムロに愛しさが込み上げる。
「アムロ」
そのままギュッと抱きしめ、緩んだ襟元に唇を寄せる。
そして、そこにキュッと吸い付き、紅い花を咲かせると、嬉しそうに微笑む。
「ちょっ!バカ、痕つけるなよ!」
「見えないよ」
「そう言う問題じゃない!」
「すまない、嬉しすぎて我慢が出来なかった」
その蕩けるような笑顔に、アムロはもう何も言えなくなり、小さく溜め息を吐く。
「ほら、行くぞ」
襟元を正して、アムロがシャアの背を叩く。
「ああ、行こうか」
二人は並んで前を向き、颯爽と歩いて行く。
そして、その後ろを側近と護衛の二人が、げんなりとした表情でついて行く。
「何て言うか、アムロ大尉のああいう所は潔くてカッコいいですね。ただ、あの二人、俺たちが後ろにいる事忘れていませんかね」
「アムロ大尉は忘れていたでしょうね。大佐は分かっていて、やっていたでしょうけど」
「ですよね」
二人の後ろで、ギュネイとナナイが盛大に溜め息を吐いた。
そして、連邦の高官達が待つ部屋のドアを開けると、シャアは先程までの不安げな表情は何処へやら、堂々とした態度で高官達に対峙する。
シャアの後ろについて、アムロが部屋に入ると、その姿を見た連邦の高官達が騒めく。
『…まぁ…そうだよな。っていうか俺、脱走兵になるのか?でも拉致されたんだし…捕虜扱い?』
などと考えながらも顔を上げて高官達へと視線を向ける。
と、そこには、高官達に混じって自分のよく知る人物が驚愕の表情を浮かべてこちらを見つめていた。
「ブライト!」
ブライトはシャアの後に続き、部屋に入って来た見覚えのありすぎる人物に、ただ驚き、声が出ない。
行方不明のクワトロ・バジーナ大尉、否シャア・アズナブルを探すと言って、ずっと恐れていた宇宙に上がり、たった一人で捜索を続けていたアムロ。
誰もが彼は死んでしまったと思っていたが、アムロだけは生きていると言い張り、探し続けていたのだ。しかし、数ヶ月前からそのアムロと連絡が取れなくなった。
何処にいても、必ず定期報告だけはして来ていたのに、それが途切れたのだ。
アムロの身に何かがあったのだろうと思い、軍にアムロの捜索を依頼したが、連邦にとってアムロはシャイアン基地を脱走した元脱走兵であり、扱いに困り、持て余していた存在だった為、連邦による捜索は形だけで殆ど行われなかったのが実情だ。
そのアムロが、ネオ・ジオンの制服に身を包み、表舞台に舞い戻ったシャア・アズナブルの隣にいるのだ。
この瞬間、ブライトはアムロの無事を喜ぶと共に、アムロ・レイがネオ・ジオンに渡れば、戦争になった場合、間違いなく連邦は敗れると悟り、ゴクリと息を飲む。
今回の会談は、まだ正式には立ち上がっていないネオ・ジオンに対し、連邦の高官がジオンに有利な条件を提示してその活動を制限しようと目論んだ事により開かれる事になった。
しかし、シャアがそれを簡単に受け入れるとは思えない。むしろこの機会を上手く利用し、連邦が気付かぬ間にネオ・ジオンに有利な情況に持って行くのだろう。
それに、新生ネオ・ジオンは連邦が思っている以上に大きな規模なのではないだろうか?
彼が求める根本は、ザビ家のようなジオンの復興ではなく、エゥーゴで活動して来た時同様、スペースノイドの連邦からの独立だ。当時、連邦を内側から改革しようとした彼は、その腐った実情に見切りをつけ、自ら対抗組織を立ち上げたのだ。
その思想は元ジオンの人間のみならず、多くのスペースノイドに支持されるだろう。
彼にはそれを成し遂げる実力とカリスマ性がある。ジオンの支持を受ける血筋もある。
そして何より、かつての連邦の英雄が連邦を見限り、シャア・アズナブルと手を組むとなれば、連邦にとって大きなイメージダウンにも繋がる。
…連邦は…アムロの暗殺に出るかもしれないな…。
嫌な予感に、ブライトは顔を顰める。
「シャア総帥…会談の前にお聞きしたい」
「何ですかな?」
一人の高官がシャアに向かって問いかける。
「貴殿の後ろにいるのは…連邦のアムロ・レイ大尉ではありませんか?」
その問いに、シャアがニヤリと笑って答える。
「ええ、間違いなく、“元”連邦軍人アムロ・レイ大尉です」
シャアの“元”という言葉に、アムロとブライトが怪訝な顔をする。
確かに数ヶ月間行方不明になっていたが、死亡認定を受けたわけでも、退役をした訳でもない。
『どういう事だ?』
状況が分からず、シャアと高官達の様子を伺っていると、高官達は“元”という言葉に特に何も疑問を感じていないようだった。しかし、何か動揺している。
「まさか…何故…?」
高官の口から思わず出た言葉に、シャアがクスリと笑う。
「“何故”生きているか?と驚きか?」
高官は自分の失言を隠すように口元に手を当てて押し黙る。
その様子に、思わずアムロが疑問の声を上げる。
「シャア…どういう事だ?」
「ふふ、彼らは君がここに居る事ではなく、生きている事に驚いているのだよ。おそらく君は既に連邦軍内で死亡認定が下されて軍人名簿からも除籍されている。だから“元”大尉だ」
「だから、どういう事だって聞いてるんだ」
「君の身体に発信機が埋め込まれていただろう?」
シャアに拉致された時、探知機で体内に埋め込まれた発信機が見つかった。