甘い水の中で 5
目の前で繰り広げられる光景に、ブライトが言葉を失っていると、シャアがアムロの左手に光る指輪と同じく自身の指に光る指輪をブライトに向かって見せつける。
「そのままの意味だよ。私は一生を共に添い遂げて欲しいとアムロにプロポーズをし、アムロはそれに応えてくれた」
にっこり微笑むシャアに、ブライトは空いた口が塞がらない。
そして、キスから解放されたアムロが、真っ赤な顔でこちらを見つめる。
「…アムロ…本当か?」
思わず確認してしまうブライトに、アムロが動揺しながらもコクリと頷く。
その答えに、ブライトは顔を手で覆い天井を仰ぐと、そのままドカリと椅子へと座り込んでしまう。
そして、二人を見つめて「はぁぁ」と大きな溜め息を吐く。
「まさかそんな事になっているとはな…」
「ブライト!ごめん。でも俺…実はずっとこいつの事が…!」
謝るアムロに視線を向けると、小さく溜め息を吐く。
「それはまぁ…なんとなく気付いてた」
「え?」
「あれだけ宇宙に上がるのを恐れてたお前が、無理を押して宇宙に上がり、寝る間も惜しんで探し回ってたんだ。特別な感情があると思って当然だろう?」
「ブライト…」
「それに…まぁ、お前がずっと連邦に居るのは…俺にとっては心強いが…お前にとっては良くないと思っていたからな。今回の事で益々お前を連邦に置いておくのは危険だと思ったし、まぁ良いんじゃないか?フラウの事は俺に任せろ、彼女たちの援助は俺がなんとかする。お前の退役金は全て渡して良いんだよな?」
「あ、ああ。頼む。フラウにはこんな事でしか恩返しが出来ないから…。それに…俺がもっとちゃんとしてたらハヤトを死なす事も無かった。せめてもの罪滅ぼしに…」
アムロが辛そうに目を閉じる。
「別にお前だけの責任じゃない!ハヤトはみんなを守ったんだ。それを否定するな!」
「…ブライト…」
「お前の気持ちは分かる。俺だってリュウが死んだ時、艦長の俺が不甲斐ないばっかりにとずっと悔やんでいた。しかし、あいつはそんな事を望む奴じゃ無いだろう?だからお前も悔やむな!ハヤトだってそんな事を望んじゃいない!」
ブライトの言葉に、アムロの瞳に涙が溢れる。
「ブライト…」
ブライトは視線をシャアへと向けると、立ち上がり、踵を揃える。
そして、シャアを真っ直ぐに見据えた後、頭を下げる。
「ブライト!?」
「クワトロ大尉、いや、シャア総帥。アムロの事をよろしく頼む。おそらくネオ・ジオンでのこいつの立場は微妙だろう?なんとか助けてやってくれ!そして、連邦からも守ってやって欲しい!」
そんなブライトの肩にシャアがそっと手を添える。
「ブライト艦長、頭を上げてくれ」
ブライトは頭をあげると、シャアと目を合わせる。
「ブライト艦長、約束しよう。アムロは何があっても私が守り抜く。安心して欲しい」
微笑みながらシャアはブライトへと握手を求める。
ブライトはそれに応じると、二人は強く手を握手を交わし、互いに頷く。
それを横で見ながら、アムロが不貞腐れた様な口調で呟く。
「俺はそんなに頼りないかよ、俺がシャアを守ってやるんだ!」
その言葉に、シャアとブライトが笑いだす。
「そうだな、最強のパイロットに向かって守ってやれは無いな」
「しかしアムロ、それは好き嫌いをもう少し無くしてから言ってもらおうか?」
「なっ!大分食べれる様になっただろう!」
「まだまだだ。今朝、サラダのピーマンとセロリを残していただろう?」
「あれは!だってその…ちょっと癖があるって言うか…好みがあるって言うか…」
しどろもどろになるアムロに、ブライトが盛大な溜め息を吐く。
「ブライト!」
「アムロ、また前の様に食べさせてやれば食べられるか?」
シャアの言葉にアムロがキッとシャアを睨みつける。
「はぁ!?口移しで食べさせられるくらいなら自分で食うわ!アホ」
「…口移し?」
ブライトの呟きに、アムロは自分の失言に気付く。
「あ!えっとだから…!えっと…ブライト!今の忘れろ!」
動揺しまくるアムロに、ブライトは頭を抱え、シャアが爆笑する。
UC0093年
新生ネオ・ジオンは地球連邦政府に宣戦布告する事なく、スペースノイドの連邦からの独立は成し遂げられた。
そして今もなお、和平条約は守られ続けている。
end