あの日の夏は海の底 後編
ー 薄暗い洞窟に気持ちいい風が吹き抜ける。
ポセイドンに僕の決意を聞いてもらい、一息
ついた。
「で?具体的に預けるってどーすればいい
の?」
僕は彼に尋ねる。
ポセイドンは、僕の心臓部分を指差した。
「そこに手を入れて取り出すんだ!」
「え?ここに手を入れるの?」
「そうだぞ?」
「こ、こわっ…サイコパスかよ…」
恐ろしいことを言う神様に怯える僕。
「大丈夫だ!すぐ終わるぞ」
笑いながら言うポセイドンに、僕の顔が引き
攣る。
”そんなとこまで次男に似てるなんて…思っ
てたより最悪だ…”
そんなことを考えていると、ポセイドンが瓶
を取り出した。
「それはなんなの?」
恐怖と混乱で質問が多くなる。
「これに一松の気持ちをしまっておくんだ」
「そこにしまえるんだ…」
僕はまじまじと瓶を見つめる。
「じゃあ、さっそく取り出してもいいか?」
「なんなのお前!?怖いよ!?」
「大丈夫大丈夫!」
心の準備もさせてもらえず、僕の恐怖を強行
突破してくる。
「ほら…怖いなら、目を瞑るんだ…一松」
その声は、まるで本当にカラ松に言われてい
るような気分になる。
僕は言われるがままに、目を瞑る。
ポセイドンの手が胸に触れると、恐怖で力が
入ってしまう。
「一松…力を抜くんだ…」
耳元で優しく囁く。
僕は体の力を抜いてポセイドンを受け入れ
る。
「…っ…」
取り出される瞬間、全身に甘い痺れが纏い、
僕は吐息を漏らした。
「終わったぞ!もう目を開けても大丈夫だ」
ポセイドンの声に僕は目を開ける。
「見てみろ一松…お前の恋心はこんなにも美
しいものだぞ」
彼の掌にある僕の恋心は、紫色と青色が混ざ
り合って、まるで宝石のように輝いていた。
僕はそれを見て息を飲む。
「羨ましいな…こんなにも純粋に愛してもら
えているなんて…」
切なそうに笑うポセイドンに、心が締め付け
られる。
彼は、瓶の蓋を開けてそれをしまった。
「ありがとう…」
ボソっとお礼を言う僕に、神様は優しく微笑
んだ。
兎にも角にも、ポセイドンに気持ちを預けた
僕に残されている時間は短い。
狡い事をしてカラ松への気持ちを忘れようと
しているのがとても滑稽だ。
でも、預けたおかげで僕の気持ちはかなり軽
くなっていた。
「じゃあ…またくるね…」
そう言って、僕は洞窟を出た。
ー 帰り道、猫の所に来ていた。
猫を撫でながら、さっきあったことを思い出
す。
自分の気持ちが汚れているものだと思ってい
たから、あんなに綺麗なものが出てくるなん
て考えてもいなかった。
一人で考え事をしながら、猫たちを撫でてい
ると、突然声がかかる。
「一松」
聞き覚えがあるその声は、低めの音で僕の名
前を呼んだ。
目線を声の主に向けると、そこにはカラ松が
立っていた。
「…何?」
「いや、偶然見つけてな!」
不機嫌そうに言う僕に、笑いかけながらいう
カラ松。
「部活帰りなの?」
「ん?あぁ…まぁ、そうだぞ!」
「あっそ…頑張ってるみたいだね」
「ブラザーたちが見に来てくれるからな!
格好悪い姿は見せられない」
子供のようなカラ松に、僕の顔は少し和らい
で、うっすらと口角が上がった。
「ところで一松…
お前、最近毎日出かけているがどこに行っ
ているんだ?キティたちのところだけでは
ないのだろう?」
カラ松の質問にドキッとする。
「別に…どこだっていいだろ」
「そうなんだが…ブラザーたちが心配してい
たぞ?」
「心配されるようなことはしてねーよ!!」
兄弟がと言われ、なんだかイライラしてしま
いカラ松を怒鳴りつける。
「…すまない…怒らせるつもりはなかったん
だ」
カラ松は、悲しそうな顔で無理やり笑顔を作
っていた。
僕は急に申し訳なくなった。
「…もう少ししたら帰るから、クソ松は先帰
れよ…」
居た堪れなくて、小さな声でいう。
「あぁ…わかった
すまなかったなブラザー
遅くなるなよ」
カラ松はそう返事を返して、踵を返し帰って
行った。
「ごめんね…カラ松兄さん」
僕は猫を抱きしめ顔を埋めてそう呟いた。
ー 煮え切らないまま夏も中旬を超えた。
毎日通っていたポセイドンの所に今日も行こ
うと思い、出かける準備をしていた。
「あれ〜?いちまちゅ〜今日も出かけるの?
最近毎日じゃね?」
「…はぁ〜…友達がさ…できたんだよね」
毎日言い訳していたが、顔を覗き込んでくる
おそ松兄さんに、観念して話す。
「へぇ〜友達ねー…え!?一松に友達!?」
「そんなに驚かなくても…」
「だってあの闇人形だよ?!」
おそ松兄さんの態度に少しムッとしつつも、
納得してる自分がいた。
「まぁ…そーゆーわけだから、心配しなくて
良いから」
僕は少し照れたように呟く。
「ま!それならいいや!友達なんていいこと
だよ〜一松!」
全力で僕を撫で回すおそ松兄さんは、笑いな
がらそう言った。
「じゃあ、行ってくるから…」
「おう!あんまり遅くなんなよ?
お兄ちゃん寂しくなるから!!」
兄さんはそう言うと、僕の背中をポンと叩い
て送り出してくれた。
僕は毎回ポセイドンの所に行く前に、コンビ
ニに寄っている。
お昼ご飯と飲み物を買い、ポセイドンの好き
な唐揚げを持って行くのが日課になってい
た。
「ポセイドンきたよ」
洞窟に入り、彼を呼んだ。
サバーっと海から出てくるポセイドンに、家
から持ってきたタオルを渡す。
「ありがとう!いちまぁーつ
今日も美しいぞ!」
この台詞はいつ聞いても慣れない。
「…馬鹿なこと言わないでよ…」
「なぜだ?本当のことだぞ?」
アホみたいな顔で首を傾げているポセイドン
に、唐揚げを渡す。
「持ってきてくれたのか!!
一松は、優しいなぁ」
嬉しそうに手に取り笑いかけてくる。
本当…好きなものまでカラ松と同じとか笑え
てくる。
でも、ここ最近カラ松を思って苦しくなるこ
とが少なくなった。
きっと気持ちが薄れているのだろう…
「ポセイドンは僕と会う前まで、人と話した
りとかすることはあったの?」
僕はふと思ったことを口に出した。
「大昔はいたぞ!
昔は神様も信仰されていたし、今みたいに
物騒じゃなかったしな!」
唐揚げを頬張りながらポセイドンは言った。
「フヒヒ…まぁ、確かにこの時代に現れたら
大騒ぎだし、捕獲されそうだよね」
「そうなんだ!だから、一松に最初会ったと
き心臓が止まりかけたぞ」
「でも、よく信じたよね…僕が捕まえる可能
性とか考えてなかったの?」
「一松は、そんなことする人じゃないって思
ってな
ポセイドンに僕の決意を聞いてもらい、一息
ついた。
「で?具体的に預けるってどーすればいい
の?」
僕は彼に尋ねる。
ポセイドンは、僕の心臓部分を指差した。
「そこに手を入れて取り出すんだ!」
「え?ここに手を入れるの?」
「そうだぞ?」
「こ、こわっ…サイコパスかよ…」
恐ろしいことを言う神様に怯える僕。
「大丈夫だ!すぐ終わるぞ」
笑いながら言うポセイドンに、僕の顔が引き
攣る。
”そんなとこまで次男に似てるなんて…思っ
てたより最悪だ…”
そんなことを考えていると、ポセイドンが瓶
を取り出した。
「それはなんなの?」
恐怖と混乱で質問が多くなる。
「これに一松の気持ちをしまっておくんだ」
「そこにしまえるんだ…」
僕はまじまじと瓶を見つめる。
「じゃあ、さっそく取り出してもいいか?」
「なんなのお前!?怖いよ!?」
「大丈夫大丈夫!」
心の準備もさせてもらえず、僕の恐怖を強行
突破してくる。
「ほら…怖いなら、目を瞑るんだ…一松」
その声は、まるで本当にカラ松に言われてい
るような気分になる。
僕は言われるがままに、目を瞑る。
ポセイドンの手が胸に触れると、恐怖で力が
入ってしまう。
「一松…力を抜くんだ…」
耳元で優しく囁く。
僕は体の力を抜いてポセイドンを受け入れ
る。
「…っ…」
取り出される瞬間、全身に甘い痺れが纏い、
僕は吐息を漏らした。
「終わったぞ!もう目を開けても大丈夫だ」
ポセイドンの声に僕は目を開ける。
「見てみろ一松…お前の恋心はこんなにも美
しいものだぞ」
彼の掌にある僕の恋心は、紫色と青色が混ざ
り合って、まるで宝石のように輝いていた。
僕はそれを見て息を飲む。
「羨ましいな…こんなにも純粋に愛してもら
えているなんて…」
切なそうに笑うポセイドンに、心が締め付け
られる。
彼は、瓶の蓋を開けてそれをしまった。
「ありがとう…」
ボソっとお礼を言う僕に、神様は優しく微笑
んだ。
兎にも角にも、ポセイドンに気持ちを預けた
僕に残されている時間は短い。
狡い事をしてカラ松への気持ちを忘れようと
しているのがとても滑稽だ。
でも、預けたおかげで僕の気持ちはかなり軽
くなっていた。
「じゃあ…またくるね…」
そう言って、僕は洞窟を出た。
ー 帰り道、猫の所に来ていた。
猫を撫でながら、さっきあったことを思い出
す。
自分の気持ちが汚れているものだと思ってい
たから、あんなに綺麗なものが出てくるなん
て考えてもいなかった。
一人で考え事をしながら、猫たちを撫でてい
ると、突然声がかかる。
「一松」
聞き覚えがあるその声は、低めの音で僕の名
前を呼んだ。
目線を声の主に向けると、そこにはカラ松が
立っていた。
「…何?」
「いや、偶然見つけてな!」
不機嫌そうに言う僕に、笑いかけながらいう
カラ松。
「部活帰りなの?」
「ん?あぁ…まぁ、そうだぞ!」
「あっそ…頑張ってるみたいだね」
「ブラザーたちが見に来てくれるからな!
格好悪い姿は見せられない」
子供のようなカラ松に、僕の顔は少し和らい
で、うっすらと口角が上がった。
「ところで一松…
お前、最近毎日出かけているがどこに行っ
ているんだ?キティたちのところだけでは
ないのだろう?」
カラ松の質問にドキッとする。
「別に…どこだっていいだろ」
「そうなんだが…ブラザーたちが心配してい
たぞ?」
「心配されるようなことはしてねーよ!!」
兄弟がと言われ、なんだかイライラしてしま
いカラ松を怒鳴りつける。
「…すまない…怒らせるつもりはなかったん
だ」
カラ松は、悲しそうな顔で無理やり笑顔を作
っていた。
僕は急に申し訳なくなった。
「…もう少ししたら帰るから、クソ松は先帰
れよ…」
居た堪れなくて、小さな声でいう。
「あぁ…わかった
すまなかったなブラザー
遅くなるなよ」
カラ松はそう返事を返して、踵を返し帰って
行った。
「ごめんね…カラ松兄さん」
僕は猫を抱きしめ顔を埋めてそう呟いた。
ー 煮え切らないまま夏も中旬を超えた。
毎日通っていたポセイドンの所に今日も行こ
うと思い、出かける準備をしていた。
「あれ〜?いちまちゅ〜今日も出かけるの?
最近毎日じゃね?」
「…はぁ〜…友達がさ…できたんだよね」
毎日言い訳していたが、顔を覗き込んでくる
おそ松兄さんに、観念して話す。
「へぇ〜友達ねー…え!?一松に友達!?」
「そんなに驚かなくても…」
「だってあの闇人形だよ?!」
おそ松兄さんの態度に少しムッとしつつも、
納得してる自分がいた。
「まぁ…そーゆーわけだから、心配しなくて
良いから」
僕は少し照れたように呟く。
「ま!それならいいや!友達なんていいこと
だよ〜一松!」
全力で僕を撫で回すおそ松兄さんは、笑いな
がらそう言った。
「じゃあ、行ってくるから…」
「おう!あんまり遅くなんなよ?
お兄ちゃん寂しくなるから!!」
兄さんはそう言うと、僕の背中をポンと叩い
て送り出してくれた。
僕は毎回ポセイドンの所に行く前に、コンビ
ニに寄っている。
お昼ご飯と飲み物を買い、ポセイドンの好き
な唐揚げを持って行くのが日課になってい
た。
「ポセイドンきたよ」
洞窟に入り、彼を呼んだ。
サバーっと海から出てくるポセイドンに、家
から持ってきたタオルを渡す。
「ありがとう!いちまぁーつ
今日も美しいぞ!」
この台詞はいつ聞いても慣れない。
「…馬鹿なこと言わないでよ…」
「なぜだ?本当のことだぞ?」
アホみたいな顔で首を傾げているポセイドン
に、唐揚げを渡す。
「持ってきてくれたのか!!
一松は、優しいなぁ」
嬉しそうに手に取り笑いかけてくる。
本当…好きなものまでカラ松と同じとか笑え
てくる。
でも、ここ最近カラ松を思って苦しくなるこ
とが少なくなった。
きっと気持ちが薄れているのだろう…
「ポセイドンは僕と会う前まで、人と話した
りとかすることはあったの?」
僕はふと思ったことを口に出した。
「大昔はいたぞ!
昔は神様も信仰されていたし、今みたいに
物騒じゃなかったしな!」
唐揚げを頬張りながらポセイドンは言った。
「フヒヒ…まぁ、確かにこの時代に現れたら
大騒ぎだし、捕獲されそうだよね」
「そうなんだ!だから、一松に最初会ったと
き心臓が止まりかけたぞ」
「でも、よく信じたよね…僕が捕まえる可能
性とか考えてなかったの?」
「一松は、そんなことする人じゃないって思
ってな
作品名:あの日の夏は海の底 後編 作家名:ぎったん