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あの日の夏は海の底 後編

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ー カラ松と両想いになった夏が過ぎ、秋にな
 った。
 高校最後の文化祭では、演劇部の舞台があっ
 た。
 劇のタイトルは”人魚姫”で、カラ松は王子様
 役である。
 内容は童話のままで、王子に恋した人魚姫は
 最後に海の泡となり消えるという、悲しい恋
 の話だ。
 あんなに毎日練習していたのだから、きっと
 最高の舞台になると期待して、開演を待ち望
 んだ。
 体育館が暗くなり、ブザーがなる。
 僕はドキドキ感に胸を高鳴らせて、食い入る
 ように舞台を見ていた。

 舞台が始まり、途中からカラ松が登場した。
 その姿は、王子様そのものでとても格好良く
 高鳴っていた胸が余計に音を立てる。

 クライマックスで、人魚姫が王子様を殺さず
 に海の泡になるところを見て、僕は少し胸が
 痛くなってしまった。

 ”僕の恋もまるでこの人魚姫のようなものだ
 ったのかも”

 そんな風に思いながら、ポセイドンを思い出
 す。

 ”僕は、海の神様に出会えたから泡にならず
 に済んだのか…”

 ぼんやりと考え事をした頭で、周りの拍手に
 合わせて、僕も拍手をした。
 その日の夜、僕ら六人は演劇の話で盛り上が
 ったのだった。

ー それから僕らは、高校を卒業した。
 あの夏の日が幻想的で、まるでおとぎ話だっ
 たのではないかと思うほど月日が過ぎてい
 た。

 僕らは、兄弟たちにバレないように付き合い
 を進めて、2年目の夏の日にカラ松と共に兄
 弟たちに打ち明ける決心をした。

 みんなを集め、それと向かい合うようにカラ
 松は正座をしていた。
 もちろん僕も一緒になれない正座をしてい
 た。

 「なんなの突然集まれなんてさぁ〜
  しかも二人して正座して怖いんですけど」

 「確かにこの組み合わせは怖いなぁ
  一松まで、正座してるしな」

 トド松とチョロ松は、あまりに異様な空気に
 言葉が止まらない。

 「まぁー、なんか話があるらしいから聞いて
  みるしかないでしょ!」

 「やきう?!」

 「十四松兄さん、やきうじゃないよ」

 おそ松兄さんが軽口で言ってくれたおかげ
 と、十四松が通常運転なことから緊張がほぐ
 れた。

 「みんなに話があるんだ…」

 カラ松は、決意した眼差しで、大きく息を吸
 い込み言葉にした。

 「俺と一松は、交際してるんだ!」

 「「「「え?」」」」

 みんなはその言葉に驚いた顔をしている。
 一斉に僕の顔も見てくるので、僕は勇気を出
 して頷いた。

 「まって…そんな…」

 トド松の声に、少し怖くなり僕は俯いた。
 カラ松も強張ったまま、背筋を伸ばしてい
 る。

 「今更何言ってるの?カラ松兄さん
  もしかして、今までバレてないとでも思っ
  てたの?!」

 トド松が困惑した声で言ったので、僕は顔を
 勢いよく上げる。
 カラ松の方に目を向けると、頭の処理がつい
 ていってないのか、フリーズしていた。

 「あれで隠してるつもりなのがすごいよ
  ね〜」

 「バレバレだよね!僕はカラ松も一松もオー
  プンなんだと思ってた」

 「まぁ、長男様は前から知ってたし?」

 「僕も知ってたよ!一松兄さん幸せそうだっ
  たし!」

 みんな、口々に言ってきて恥ずかしさに顔が
 みるみる熱くなっていく。

 「あ!一松兄さん顔真っ赤でっせ〜」

 十四松の言葉でバレてた事への恥ずかしさが
 余計に増して、僕は正座を崩し膝を抱えて顔
 を埋めた。

 「カラ松兄さんは、いい加減現実に戻ってな
  よ!バカなの!?」

 「…」

 「ちょ!そんな目で見ないで!
  一点の曇りのない空虚な目で!怖いよ?
  サイコパスすぎだよ!!」

 トド松は、あまりにもポンコツなカラ松を正
 気に戻そうとしていた。

 「あのな…お前ら…確かに俺らは兄弟だ
  し、男だし凄くびっくりするけどさ…

  でも大切な弟が幸せになれたのに、そ
  れを喜ばない兄弟はいないだろ?

  だからさ…俺達兄弟は、お前らのことを祝
  福してるんだぜ?」

 おそ松兄さんの言葉に、僕の心が温かくなり
 涙が溢れてきた。
 兄弟みんな、呆れつつもあっさり受け入れて
 くれて笑みが零れた。

 「「ありがとうみんな!」ブラザー」

 僕もカラ松もみんなの優しさに救われたのだ
 った。
 

ー 蝉の声が頭に響き、遠くで声が聞こえる。

 「…まっ…い…まつ?大丈夫か?一松」

 カラ松に呼ばれ、ハッとした。

 「どうしたんだ?暑さしたか?」

 心配そうにこちらを見るカラ松は、そう言っ
 て僕の顔を覗き込んだ。

 「いや、考え事してた…」

 僕は目線をそらして俯いた。

 「そうか!あ、一松コンビニ寄ってかないと
  なぁ!」

 「そうだね」

 カラ松がコンビニを指差して言うので、僕は
 頷いて歩みを向けた。
 唐揚げを2つとアイスを購入して、また歩き
 出した。
 袋からアイスを取り出して咥え、食べながら
 海に向かう。
 少しずつ風に混ざる潮の匂いが懐かしい。

 「久しぶりだね…海」

 「そうだな!特にあそこは、人もほとんどい
  ないし貸切みたいだったよな…」

 カラ松の笑う顔に、僕もつられて口が緩ん
 だ。

 二人で他愛も無い話で盛り上がっていたら、
 海に着いていた。
 久しぶりに見た海は、やっぱり一面青で埋め
 尽くされていて愛おしく感じてしまう。

 「なぁ…クソ松」

 「なんだ?一松」

 「昔みんなで、ここの海に来たんだよ
  そん時お前は部活でさ…

  みんなを誘ってここに来たんだけど、この
  景色を見てさ…
  あぁ、カラ松の色だなぁって思って
  愛おしくなったことが…あってさ

  この景色を見たら、思い出しちゃった」

 僕は海を見つめたまま伝えて、恥ずかしさを
 誤魔化す。

 「い、い、い、いちまぁーつ!!」

 「うわっ!?や、やめっ」

 嬉しそうな顔で飛んで来たカラ松を、支えき
 れるわけもなく二人で砂浜に倒れる。

 「おい!クソ松!砂まみれじゃねーか!」

 嬉しそうに抱きつくカラ松は、全く人の話を
 聞いていない。

 「俺は、一松に愛されてるんだな!」

 「…うるせぇーよ」

 照れた顔をカラ松の肩に埋めて呟いた。

 「俺も愛してるぞ!」

 「知ってる
  もう、早く洞窟行こうよ」

 熱くなった顔を背けながら、洞窟へ向かう。
 その後をカラ松は嬉しそうに追いかけて来
 る。

 懐中電灯をつけて洞窟の中に入ると、あの時
 と変わらない風景が写真のように残ってい
 た。
 僕は、袋のまま岩場に唐揚げを置いて何も言
 わずに洞窟を出る。

 「何も伝えなくてよかったのか?」

 「いいんだよ…きっとまた会えるから…その
  時にする」

 カラ松の問いに、笑いながら答えて二人で並
 んで海を眺めた。
 僕は真っ青な景色にこんな想いを抱いた。

 ”僕らが出逢えたあの夏は、色あせることな
 く鮮明な青い海の底に眠っている” と…

 「また会いたいな…」