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第三部3(103) ロンドンへ…

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「車、買ったんだ」

「ええ。なかなか便利で、快適な乗り物だわね」

ホテルの前に止めたローバーの助手席にユリウスを乗せるとアルラウネは慣れた発進で車を走らせた。

「ちょっとした外出は最近専らこれよ。それにロンドンで羽を伸ばしまくってる不良ムスメを回収するのに、これは今やなくてはならないものだわね」

「アルラウネ…ネッタは…?」

ユリウスがロンドンへついて以来、こんなに近くにいるのに一度も顔を見せない、いや、それどころかラトビアで別れてから一度として手紙一つ寄越さない娘の近況を尋ねる。

「まあ…。品行方正とは…正直言い難いわね。…でも道は踏み外さないよう私がしっかり目え光らせてるから安心なさい」
ーードイツにいた頃のアレクセイだってそうやって監督してたんだから。任せなさいな。

アルラウネがハンドルを握りながらユリウスに答える。

「うん…。そうだね。じゃあ、お願いいたします」

この母娘が娘の進路が原因で以来関係がギクシャクしている事はアルラウネも知っていた。そしてロンドンに来たネッタが荒れている原因の一端がそこにある事も…。

アルラウネは複雑なユリウスの心境を慮り、ハンドルから片手を離すと、何も言わずに隣の義妹の頭をポンポンと優しく撫でた。

頭を優しく撫でられたユリウスが小さく鼻をクスンと鳴らす音が聞こえた。


「ねえ、アルラウネ」

そのしんみりとした沈黙をユリウスが破る。

「なに?」

「ぼくにも…ハンドル握らせてよ」

「それはお断りするわ…悪いけど。まだ廃車にしたくないのよ」

そう言ってアルラウネは前を向いたまま小さく肩を竦めて見せた。