はじまりのあの日8 加わる仲間・深める縁(えにし)
「がっくん」
「がく兄」
ぐい飲みを呷る彼、弟と寄って行く。さすがにもう、制服は着替えて。何事かと、目を丸くする
「「ありがとう」」
ぐい飲みを置く。座るわたし達に向き直ってくれる
「わたし、嬉しかった。勇馬兄のことも、靴(ローファー)も」
「おれも嬉しかった。あんな風に言ってくれて」
ふっと一息、目が優しくなる紫の彼
「気にしないでいいじゃない、本当のこと。俺の大事な黄色い双子。尊敬している先輩様。そして、大きくなったな可愛い双子」
乾杯の喧噪の後、わたしと片割れはお礼を言った。本当に嬉しかったから。彼はそんな風に返してくれた。頭を撫でてくれた
「がっくん、膝いい」
「いいじゃない、リン。いつまで乗せられるかな」
せがむわたし。応じた彼。座る。収まる。微笑むメンバー。わたしの指定席であることは、もはや全員知っていた
「幾つになっても、それだけは変わらないわねぇ、リ~ン」
「ふふふ、殿が来た日からだったもんね、め~ちゃん」
「お~そんなに歴史がありますか。神威のに~さん、リンちゃんの指定席。もえもえ~」
「そうな。歴史、感じるじゃな~い」
思えばそうだった。始まりの日からそうなった。わたしの指定席。彼の膝の上でふと思う
「そういえばがっくん。前にも靴、くれたよね」
見上げながら、聞いてみる
「ああ。少しでも良い靴、履いてほしくてさ。良い靴を履くと、良い人生へ導いてくれるって意味があるじゃない」
「そうだったんだ~」
「おれもハジメテ聞いた、がく兄」
そこで困ったように一度、眉が下がる彼
「ま『私のもとから去れ』なんて意味もあるらしいけどな。でも、良いように取ればイイじゃない。そんなの気にし始めたら、何もプレゼントできない」
「ワタシも聞いたことがありますわ、神威さん。でも『自由になる』という意味合いもありますの。いつまでも、自由に歩けるようにと考えれば素敵ですわ」
膝に乗るわたし、彼の隣に座るレン。語りかけてくれる、彼。ルカ姉が、わたし達の元に寄ってくる
「お、ルカ、良いこと言ってくれるじゃない。怪我なんかしないで、元気に歩けよ、かわいい双子。さて、リン、レンも何食べたい」
一度ルカ姉と、飲み物を合わせる
「おいなりさん」
「あ、おれは自分で取るよ」
図々しい。取ってくれる彼、辞退する弟
「はい、あ~ん」
「あ~ん」
食べさせてもらう。もぐもぐする
「おいし~」
飲み込んで、素直に感想
「よかった。みんなも食べろ。賑やかにイこうじゃない」
「「「「「「「「「「もう食べてま~す。色々おいし~です~」」」」」」」」」」
ルカ姉、ミク姉がレンを振り回すようになったあの辺りからか。同様に、みんなの視線が生暖かくなり始めた。わたしと彼を観る眼差しが『色々おいしい』も、どんな意味合いだったやら
「おまんじゅうってつくれるんだね、神威のアニキ。すっごくおいしいよ。今まで食べた中でサイキョ~」
「それは言い過ぎじゃない、Miki。お、ヒラメのマリネ、旨いよカイト。酒によく合う」
大きめのおまんじゅうを頬張るMikiちゃん。お酒を含む彼
「っカレイとポン酒。コレもJustice(ジャスティス)でゴザロウ」
「桜餅もち、白餡ぎっしり。おいし、神威のに~さん。膝上リンちゃん、観ててキュンキュン」
お酒を含み、堪らんっとの顔、アル兄。リスのような動作で、江戸版桜餅をついばむIA姉
「カイ兄、チキンナゲットすっげ~うま~い」
「ありがと、レン。殿、煮物もおいしいよ」
「みなさん、リンレン。さっきはホントサーセンでした。おわびに、踊るス。観てッください」
「「「「「「「「「「おお、イケッ勇馬っ」」」」」」」」」」
二人のお料理は、いつものように美味しくて。みんなで、歌を、披露して。リクエスト合戦も行って。勇馬兄が、ストリートダンスを乱舞して。新しいメンバーとの縁(えにし)が深まった初春(しょしゅん)の日。きっと今日も楽しくなる。今のわたしは、また、調理に集中する―
作品名:はじまりのあの日8 加わる仲間・深める縁(えにし) 作家名:代打の代打