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妖夢の朧な夢日記-aoi

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心を開いて、瞳を開いて



博麗の巫女が帰った午後零時

「失礼します、昼食です。ってあれ、霊夢帰ったんだ」

「さっきね」

膳を二つ抱えて、扉を開けた友人
入ったと同時に辺りを見回す
紅白黒髪の少女の姿が見えないことを確認すると、
畳の上に腰を下ろし

「ま、そっちの方が都合が良いわ」

「あれ、ご飯は?」

「妖夢と一緒に食べたいなー、って思って持ってきたの。
 丁度休憩時間を貰ったものだから、良いかなって」

良いよね?そう、顔で問うてくる
良くないと言う程私の心は廃れていない。
つまり、

「良いわよ」

「それきた。早速配るわよ」

そう言って私と自分の前に膳を置く
白いご飯に青菜のお浸し、野菜と豆を煮たもの
食が細くなってしまった私を気遣ったのか、量は少ない
いつもは寝ているだけなので、それもそうだろう
先程も、巫女と話をしていただけだ
夢と現の混濁現象
刃さえもまともに握れなくなった我が身
筋肉も減っていった我が身
……走れるのかさえも怪しい我が身
可愛い、訳ではない
これで黒白と天狗に追いつけるのか?
巫女達と肩を並べられるのか?
師匠との誓いは果たせるのか?
主を守り抜けるのか?
……駄目だ、手が震える
期待さればされるだけ、私の小さな心は悲鳴を上げる
見つめていた自らの左手が、自分より大きく、繊細な手で包み込まれる

「何かを、恐れているの?」

顔を上げると、友人がいた
温もりが伝わってきて、硬直した心は融解を始める

「そうよね、皆が皆治って欲しいなんて思って、貴女に尽くしてくれるもの。
 でも、知っての通り、妖夢のそれは物で治るようなものじゃない。
 お見舞いに来てくれれば来てくれただけ、心が安らめば安らむ程、貴女の心は追い詰められているのかもしれない」

友人は私の目を見つめる
ただの眼球じゃなく、心の奥まで見つめてくる

「それでも、熱なら引く。骨折なら治っていく。
 外傷と体の悲鳴は、時と共に治まっていくものなの。
 けれどね。妖夢の今の感情は、妖夢の今の精神は、時と共には治らない。
 時が経つ度に貴女はまた、追い詰められていく。
 以前のように走ることも、仕えることもできなくなっていくって、師匠が言ってたわ」

それを聴いた私は、私の肉体は、心は
さらに悲鳴を上げて、どうしようもない焦燥感に打ちひしがれた
なら、一体、どうすればいいの
口にする事もできないままに、思いつめる
握られていない右手を強く、握りしめて
目を強く瞑る

「どうするかは妖夢の気持ち次第、と言いたいけれど」

友人は、私の手を握っていた両手を離した
温もりではなく、肌を刺すような冷気が皮膚に当たる
反応するよりも先に、身体全体が温かく、柔らかい感触で包まれる
背中に腕が当てられている
体温が、強く伝わってくる

「あのね、妖夢。
 これだけは言わせて頂戴」

瞼を持ち上げると、友人の顔が目の前にあった
気付かぬ間に、抱きしめられていた
私は思考を投げて、友人の二の句を待つ

「私は貴女に生きていて欲しい。
 それも以前と同じ、初めて会ったあの時のように。
 真面目にボケてさ、どう見ても丈に合わない刀を振り回してさ。
 ……笑っているの。貴女はいつもそうだった。
 何時会っても、変わらない貴女。
 そういう精神状態じゃない事は分かっている。分かっているけれど……
 生きるのなら、楽しい方が良いじゃない?」

そう言って笑う友人
私にそっと語り掛けてくれる友人
……嗚呼、そうなのかもしれない
そうなんだ、と思う
私の思考はそこまで固くないからだ
まだそれに応じることはできないけれど……
笑い返すことで、応じる

「そう。妖夢の笑顔が見られたのなら、それだけでも良かった」

安堵の息を吐きながら、友人は背中に回した手を離す
その手を引っ込める……と思えば私の頬に添えた

「!?」

ちょ、ちょっと、顔が近くないですか?

「やっぱり笑っている方が可愛いわよ。
 ……ほらもう、顔紅くしちゃって。可愛いわね」

「ひ、卑怯よ」

「んー?聞こえなかったわねー?」

「ったく、もう」

「ちょっとちょっと。怒らないでよ。
 からかってみただけじゃない」

私はそっぽを向く
友人にはわざと手を離させて
怒ったフリをするが

「分かった分かった。こうして貰いたいのね。あーん」

満面の笑みで私の口の前に白米を差し出してくる
おいおいおいおい
これは否が応でも食べなくてはいけないじゃないか
いただきます
そう呟いて食べてみる
箸ごと口に含むと、箸を引き抜いてもらい、咀嚼する

「美味しい?」

飲み込んだのを見てから、友人が訊ねてくる

「……うん
 いや、さっきから何がしたいのよ」

「他の患者さんにはよくやっているけれど、妖夢にはできなかったからー……許して?
 いや、抱きしめたりなんかはしてないわよ?しても子ども位だから」

額に汗を浮かべながら、友人はそう弁解する。
焦っている様子を見てなんだか、してやったり、とか思ったり。

「ふ、普通に食べましょう」

「はーい」

誰かと食べるご飯は、いつも楽しくて好きだ。



作品名:妖夢の朧な夢日記-aoi 作家名:桜坂夢乃